宇宙刑事ディルバン(1)

 

 日々繰り広げられるダークギルとの戦闘。ディルバンは全ての戦闘に勝利を収め、

多くの異次元獣達を葬り去ってきた。当然、今自分の身に危険な罠が迫っていること

を知る由もない。

 タケルがいつものように、市街地のパトロールをしていると、右手のブレスレット

からピーピーピーとシグナル音が鳴り出した。ダークギル来襲のサインだ。

 

「あいつら、性懲りも無くまた現れやがったか」

 

 タケルは軽く舌打ちすると、ブレスレットのモニターに写し出された、来襲ポイン

トへと愛用のバイクを走らせた。

 

「瞬着!」

 

 バイクの上で右手を胸元へ引き寄せ叫ぶタケル。この台詞を合図に、ブレスレット

内に縮小して格納されているバトルスーツは、わずか0.1秒でタケルの体に装着さ

れる。

 宇宙警察機構の科学力の結晶とも言えるそのバトルスーツは、装着者に超人的な攻

撃力と防御力を与えるのだ。

 来襲ポイントに到着したディルバンは、バイクから降りると注意深く辺りを見回し

た。工場の跡地らしいその周囲には、全く人の気配が無かった。

 いつもならダークギルの戦闘員が、一般人相手に大暴れしているはずだが・・・

 

「待っていたよディルバン」

 

 突然背後から声をかけられ、ディルバンが振り返ると、そこには真紅のマントを身

に纏った美しい少年が立っていた。

 

「お前は何者だ!」

 

 ディルバンは相手のただならぬ気配を感じ、警戒しつつ問いかける。

 

「ああ、自己紹介がまだだったね、僕は皇帝マフーの息子アルスさ」

 

「皇帝の息子だと?」

 

 驚きを隠せないディルバン。今まで異次元獣を操る将軍クラスの敵とは何度も戦っ

たが、敵の親玉である皇帝の親族と対面するのは、初めてのことだった。

 

 (こんな幼い少年を相手に、自分は全力で戦うことができるだろうか・・・)

 

 ディルバンが自分自身にそう問いかけている時、少年が言葉を続けた。

 

「僕の後ろにある建物を良く見ててくれるかな」

 

 アルスの背後には巨大な工場の廃屋が建っている。ディルバンがその建物に視線を

移すと、アルスは右手の指輪に仕込まれた通信機に向かって命令を下した。

 

「異次元砲発射!」

 

 すると、廃屋の上空に変化が起った、虹色に輝く雲が出現したのだ。それは空間に

空いた異次元の穴、ワームホールであった。

 そのワームホールから、廃屋に向かって一条の閃光が降り注ぐと、廃屋は轟音と共

に大爆発を起こした。凄まじい爆風と熱風に一瞬たじろぐディルバン。

 

「すごいでしょ僕の発明品、異次元砲って言うんだよ。砲台の本体はダークパレスに

あるんだけど、次元の壁を乗り越えて、地球上の任意のポイントを攻撃できるんだ」

 

 爆風に晒されても微動だにしないアルスは、自慢気に微笑んだ。

 アルスとの戦いに一瞬躊躇したディルバンだったが、このように危険な兵器を作る

奴を見逃す訳にはいかない。意を決し戦いを挑もうとしたその時、邪悪な王子は更に

言葉を続けた。

 

「今度は君の後ろを見てくれるかな」

 

 前方への警戒を緩めることなく、後ろを振り返ったディルバンは、遥か彼方に特徴

のある建物を発見し驚愕した。

 

「ま、まさか!」

 

「そう、あれは小学校だよ、まだ授業をやってる時間だから、沢山の子供達がいるだ

ろうねぇ。ここまで言えは判ると思うけど、次に僕が命令を下すと、あの小学校も木

端微塵になるよ」

 

 アルスは相変わらず、太陽のような微笑みを浮かべながら恐ろしい事実を告げる。

 

「貴っ様〜〜〜!」

 

 怒りに身を震わせるディルバン。

 

「さあ、大人しく武器を捨ててもらおうか」

 

 右手の指輪を口元に引き寄せながら、冷たく言い放つアルス。

 

 なんとか冷静さを取り戻したディルバンは、このピンチを切り抜ける方法を必死に

考えた。

 

 (奴の指輪を奪うことができたら・・・)

 

 しかし、目の前の少年には全くといって隙が無かった。

 罪の無い大勢の子供達、正義のヒーローとして彼等を見殺しにすことはできない。

 

 (今は奴の言う通りにするしかない、隙をみて指輪を奪うことができれば反撃のチャ

ンスはあるずだ)

 

 覚悟を決め左右の腰に携帯している必殺の武器、ディルソードとディルシューター

を前方の地面に放り投げた。

 

「いい子だ。じゃあ、次は僕の部下達と遊んでくれるかな。ルールは簡単だよ、君が

やっちゃいけないのは『反撃すること』と、『この場から逃げること』の二つだけさ。

もちろんルールを破ったらあの小学校は・・・」

 

 ディルバンの武器を拾い上げながらアルスが言う。

 拳を震わせながら怒りに燃えるディルバンは、突如四方から吹き付ける強烈な殺気

を感じ取った。アルスの四天王、4人の凶悪な女戦士の登場だ。

 四天王は前後左右からゆっくりと歩み寄ると、ディルバンの手前10メートル程の

所で、彼を取り囲むように立ち止まった。

 そして4人同時に手にした鞭で攻撃を開始する。

 ディルバンはその攻撃を、地面を転がりながらギリギリで回避した。何とか体勢を

立て直し立ち上がると、そこへ第二、第三の攻撃が襲い掛かる。ずば抜けた反射神経

で鞭を躱していくが、四方から次々と繰り出される、超スピードの攻撃を完璧に回避

できるはずもない。

 右から顔面めがけて迫り来る鞭。

 

 間に合わない!

 

 そう判断したディルバンはとっさに右手でカバーする。

 鞭はバシッと音を立てて右手に巻き付いた。そして次の瞬間、そこから強力な電流

が流される。

 

「うわぁっ〜!」

 

 激痛を伴う衝撃が全身に走り、思わずよろけてしまう。力を振り絞り鞭を外そうと

するが、今度は左から飛来した鞭がその左手を絡め取る。両手を封じられ回避不能に

なると、残った2人の女戦士達はそれぞれ左右に移動し、ディルバンの無防備な足首

に鞭を放つ。

 立ったまま大の字に固定されてしまったディルバン。四天王はそれぞれ鞭を引き寄

せ、ディルバンの四肢を限界まで開かせると、同時に放電を開始する。

 

「ああぁぁぁ〜〜〜っ!!」

 

 ディルバンは全身を駆け巡る激痛に、体を痙攣させ苦痛の悲鳴をあげる。

 バトルスーツの数箇所から紅蓮の火花が上がり始めると、四天王は電流を止めた。

 

「卑怯だぞアルス、正々堂々と勝負しろ!」

 

「卑怯?、それ最高の褒め言葉だよディルバン」

 

 いつの間にか正面に立ったアルスが、勝利に酔いしれた邪悪な微笑みを浮かべてい

る。その手には四天王と同じ鞭が握られていた。

 

「さぁ、処刑の開始だよ」

 

 そう言うと手にした鞭で、ディルバンをめった打ちにし始めた。

 鞭は命中した瞬間に強力な電撃を放出し、堪え難い苦痛を与え、メタルブルーのバ

トルスーツには黒焦げの傷跡が作られていく。

 

「ぐっ!、うあっ!、くぅ〜!!、」

 

 全身の神経が焼き切れそうな苦痛に、必死に耐えるディルバン。

 

「きゃははははっ」

 

 無邪気な笑い声を上げながら、鞭を繰り出すアルスの瞳は、狂気に彩られていた。

 鋭く手首のスナップを利かせて放たれた、鞭がディルバンの股間に命中する。

 

「ぐわあぁぁ!」

 

 最も敏感な部分を襲う激痛に、全身を痙攣させ悲鳴を上げる。今までに無い過剰な

反応を確認したアルスは、にんまりと微笑むと攻撃対象を股間に集中させた。

 

「ああっ!、ぐぁっ!、ぎゃっ!、ぎゃぁ〜っ・・・・」

 

 股間への攻撃が10回目を超えると、ディルバンは全く反応しなくなった。四天王

が鞭を緩めるとバタリッとその場に倒れこむ。どうやら完璧に失神してしまったらし

い。

 

「アルス様、とどめを差しましょうか」

 

 地面に倒れ、ピクリとも動かないディルバンを見下ろしながら、アルスは四天王の

問いかけに答えた。

 

「いや、彼には色々と聞きたいことがある、このままダークパレスに連行するよ」

 

 

 異次元空間に浮かぶ巨大な城、敵の本拠地ダークパレスに連行されるディルバン。

 彼には更なる過酷な運命が待ち受けているのだ・・・