セイバーレンジャー

第4話 【 死闘! 2大怪人 】


デヴィーラは人間の女性の顔をしていた。敵にとどめを刺すときはこの形態になるという。

美しいと言えなくもない顔だが,おれの趣味ではない。

「おや,セイバーレンジャー 一の美形さんがやっと御登場ねえ。待ってましたわ。

 猪突猛進のお馬鹿さんや,坊やのお相手は わたくし もうあきあきでしたのよ」

「それは光栄だな。

 確かに,ご婦人のお相手は他の4人にはつとまらないだろうな」

「おほほほほほほ メーア帝国最高ランクのレディ・デヴィーラと渡り合えるだけで

 末代までの名誉でしてよ」

「ふん 今はレディだかなんだか知らないが,もとはメーアで男相手の商売でもして

 たんじゃないのか。お前の猛毒は下品すぎるんだよッ」

「なんですって!!

 地球の寄生虫の分際でよくもそんなセリフをこのデヴィーラに!

 覚悟をし!」

デヴィーラは本来の醜悪な顔に変身し,ヘドロのような臭気を発する数百本の触手を

振り乱してこちらに向かってきた。

「先輩! デヴィーラの毒はさらに強化されてます。スーツも腐食させます!

 気をつけて!」

そうか,それでグリーンのスーツやメットがあれだけ痛んでいたのか。

海底基地を壊滅させてから,メーア怪人は格段に強力になっている。

レッドに対する罠も,あまりに卑劣でしかも徹底していた。

いよいよ本格的な侵略が始まったのか?

おれは間合いを十分にとって,デヴィーラとの戦いを始めた。

 

 

デヴィーラが断末魔の声を上げて爆発した。

やつの最後の毒液を浴びてはたまらない。渾身の力を込めて跳躍! できるだけ離れる。

大地を足の裏に感じた時,張りつめていた気力がぬけた。

ひとまずセイジの借りは返した。

もちろんこれだけでおれの気持ちが晴れたわけではないが。

グリーンが駆け寄ってきた。

グリーン=ケンタは痛んだスーツを解除して競パンだけの姿になっていた。

まだ少年らしさを残しているやや色白の身体のあちこちに,スーツを通してしみ込んだ

デヴィーラの毒による赤い腫れが目立つ。

「やりましたね。やっぱり先輩だ。大丈夫ですか」

「ああ,大丈夫だ。あんな婆さんには負けないよ。・・・・・・うっ」

気が遠くなり倒れかかったおれをケンタが抱きかかえてくれた。

「先輩ッ どこかやられました?」

「いや デヴィーラのは大したことない。その前のほうのダメージだろうな・・・」

「え?

 あっ,スーツ やっぱり ところどころ痛んでますね。すぐに戻ってメンテナンスし

て もらいましょう。・・・もうメット はずしていいんじゃないですか」

「そうだな。セイジが気になるし,早く戻るか・・・」

と,その時 グリーンの表情が変わった。

? 振り返ろうとした瞬間,なにかにオレの身体はつかまれ 投げ飛ばされた。

なんとか受け身をとることができた。

すごい距離をぶん投げられたものだ。

「誰だ!」

はるかかなたに見えるのは,身長は2メートルを超える程度だが,全身筋肉のかたま

りの怪人だ。そいつが,逃げるケンタを無視してずんずんこっちに進んでくる。

「オレハ・・・ギガンデス・・・ハカイ・・・ハカイ・・・」

再びメットを装着しておれは跳んだ。

ギガンデスとやらはパワーはすごいものがありそうだが,おれのキックをかわす敏捷性

はなかった。

何発も命中するキックとパンチ。

これなら勝てるか・・・

しかし ヤツはなんのダメージも見せず,あいかわらず両腕をゆっくり振り回している。

どこか一点に攻撃を集中すべきだ。

メットの分析装置がサーチを終え,攻撃ポイントがサンバイザーに表示された。

頭部の一つ目のような丸いレンズがついている箇所だ。外部情報の取り込み口なのかも

しれない。

よしっ,狙いを定めてジャンプする。

「くっ・・・・」

また,意識がゆらいだ。やはりエナジー放出の・・・ 中途半端な跳躍になった。

空中で体勢を立て直そうとしたとき,ギガンデスのぶっといだけだった右腕が突如

形質変化をしてぎゅーんと延び,オレの横っ腹をわしづかみにした。

「がはっ」

腹をちぎられる痛みを感じるまもなく、地面に叩きつけられた。

スーツで守られている背中のダメージはそれほどのものじゃなかったが,

ギガンデスの腕はまだオレの脇腹を離さず,万力のような力で締め続ける。

「うーんっ あうッ うううううう・・・ は,離せっ」

キック,パンチをぶち込むがびくともしない。

と,その時!

あいているヤツの左腕がめんどくさそうに後ろに振りかぶったかと思うと,今までの

動きからは信じられないスピードでオレの頭部を痛打した。

すさまじい衝撃で,意識がとんだ。口の中が切れて血があふれた。

メットのサンバイザーがめちゃくちゃに砕け散った。

メットを破壊した左腕がおれの左腕をつかんでぐいと引っぱった。

ふらふらになったオレは逆らうことができず、やつに背中をさらす。

今まで脇腹をつかんでいた右腕が、おれの右腕の付け根をつかんだ。

後ろ向きのまま,ゆっくり持ち上げられていく・・・・ なっ何を・・・・

と,次の瞬間,まっ逆さに頭から地面にたたきつけられた!!

「!!!」

バキッと音がした。後頭部も割れて,メットは完全に破壊された。

破片が地面に散らばった。

こッ,こんなことは・・・初めてだ・・・・

おれを後ろ向きに持ち上げて、後方に頭から地面にたたきつける・・・・

何度も何度もこの単調な攻撃が繰り返された。

「はうっ!」  「がっ!」  「うぐっ!」  「どぅわっ!」

頭を守るために,スーツで保護された肩で衝撃を受けとめるが,それでも一発ごとに

意識が消えかかる。

突然やつはオレを捕らえたまま,ゆっくり仰向けになった。

抵抗する意志はあっても,身体が反応してくれない。

おれはやつのごつごつした腹に仰向けに乗せられた。

白い雲が浮かぶ青空が見えた。今日はこんなにいい天気だったのか・・・・・

と,ヤツの足がオレの足にからみつき,腕と足でオレの身体を突き上げ始めた。

つ,釣り天井かっ!!

持ち上げられまいと力をふりしぼって身体をゆらすが、そんな抵抗など何の意味もなく,

徐々にオレの身体はさし上げられていく・・・・

「くっ  くっ  あうっ  ううっ  ふんんんんんっ」

ついにおれの身体は完全に「決め」られた。人工筋肉らしいヤツのとてつもなく

太い腕と足で,がっちりと固められ,空中に突き上げられている。

くそっ うっ動けないっ・・・

と,ギガンデスが手足を揺さぶり始めた。

ゆっくり揺らしたり,激しく揺らしたり,手足をばらばらに揺らしたり。

そのたびに,身体を引きちぎられるような激痛が走る。息ができない。

バキッ バリバリッ バチバチッ

スーツの両肩と股関節部分から火花が出始めた。

「ぐうう  っっっっぐわああ   ん ん ん ん ん ぐっ うぐぐぐぐぐ」

ギガンデスはおもちゃのようにオレの身体をもてあそび続ける。

「があっ  だあっ  んがっっ  どぅおっ  ぬをおおおおおおおおっ」

ういーん・・・・・・・

機械的な音が下から聞こえた。

首をひねると,かろうじてやつの腹部が見えた。

やつのでかい腹の中央部のハッチが開いている!

そしてそこから真っ黒い金属棒が伸びてきた。なっなんだ これは!

 ぷしゅっ!

「うわあああッ」

背中に激痛が走った。

その痛みを忘れる間もなく,次の激痛が襲った。

また次! また次! 次! 次!

「ふんっ!」  「がふっ!」  「あふっ!」  「あぐっ!」  「はあっ!」

何発背中に打ち込まれたのか・・・・おれはうめき声をもらすしかなかった。そして・・・

ぴりぴりぴり・・・・ 

金属矢を打ち込まれた部分からついに セイバースーツが裂け始めたのだ!!

セイバースーツが破れる!!

セイバーレンジャーになって初めて,恐怖で身体が震えた。

殺されるのか!

裂け目が広がり,スーツがはがれていく・・・・

・・・ 外気をオレの身体が感じ始めた。

 

ついにオレの身体をつつむものは競泳型特殊パンツのみになってしまった。

このパンツに内蔵された「筋肉繊維強化装置」がオレの命をかろうじて守ってくれるだけに

なった。

全身の血流を最大量にして筋力を極限まで強化させる・・・・

それでこの状態をしのぐしかない。

「ぬををををををををををををッ・・・・・・・・・・・・   あふっ」

だ,だめだ。

ここまでのダメージがひどすぎるのか,ヘルデンエナジーが尽きようとしているのか。

胸筋の盛り上がりが全然足らない。

「があっ」

またギガンデスのすさまじいパワーが手足をひっぱった。もう身体がちぎれそうだ。

「はっ はっ はっ はっ はぐっ はぐっ うぐっ・・・・・・・・」

も,もうだめだ,限界だ・・・・・

「ぐきっ!」 み,右肩が脱臼したっ・・・!

決められた両足にも容赦なく攻撃は加えられていた。

みしみし骨がきしんでいる・・・

だあっ!! だっ だめだっ!! き,筋肉が,引きちぎられるぅッ!

お,オレの足がっ! オレの筋肉がああっ!!!

激痛が身体のあらゆる部分から押し寄せてきていた。

「ぐをおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお  セ,セイジーーーー!!」

何度も何度も繰り返すギガンデスの音声が いつの間にか少し変わっていた。

「オレハ・・・ギガンデス・・・オレハ・・・ギガンデス・・・・ハカイ・・・ハカイ

 オレハ・・・ギガンデス・・・タイ セイバぁブルぅ ショケイ ヘイキ・・・・」

 

 

「おやあ,セイバーブルー 予測値よりかなりもろいなあ。僕の数式にミスがあるはずない

 んだけど・・・ 気になるなあ。ふむ・・・デヴィーラへのキックやパンチも通常値より

 少しずつ落ちてはいたのか。敏捷性は零コンマゼロ4低い。これはひどい誤差だ。

 これだったらギガンデスの瞬間反応装置を無理に強化することもなかったじゃないか。

 その分,ヘルデンエナジー強制放出機能を追加すればよかったな。

 くく,今のブルーの惨めな姿,エナジー絞り出しに最高じゃん。

 あの無駄な脂肪がまったくない脇腹にパルス送信チューブをねじ入れたかったね。

『釣り天井』に決められ,ヘルデンエナジーを空高く噴出して果てていくセイバー

 ブルーの壮絶な最期・・・・ふふっ いいじゃないか。

 ・・・・いっそ,失神させて,ここに連れてこさせようか?・・・・

 いや,それをレッドセイバーでやって,第1次基地が崩壊したんだった。

 僕にそんなミスは考えられないけれど,たとえ 0.000001%の危険性でも避けなきゃ。

 セイバーレンジャーそれぞれのヘルデンエナジーの比較分析は残りの3人でやれるだ

 ろうし・・・・亡きレッドのサンプルはここにあるしね・・・よし!

 ギガンデス,方針は決まった。とどめを刺せ。

 ブルーの身体をへし折っていいよ。 八つ裂きにするんだ」

ミカエルはモニターに向かって指示した。

「・・・・にしてもセイバーブルーの数値の低下は・・・・」

 

瞬間,怪力怪人の攻撃がとまったのを感じたが,すぐにこれまで以上の力が襲ってきた

「ぐわああああッ ぬをををををををッ」

「ショケイ カイシ・・・・ ショケイ カイシ・・・・・」

容赦ない力。左腕の骨がぴしぴし音をたてている。背骨の曲がりは既に極限に達して

半円形を越えている。

 めちっ  めちっ  いやな音が聞こえてくる。

オレの強化された筋肉の柔軟性ももうこれ以上はもたない・・・・

 がっ  んがっ  だあっっっっっ

筋繊維があちこちで断裂していく。

 ゲボッ ゲボッ 鮮血が口からあふれ出た・・・・

グリーンやブラックの絶叫がかすかに聞こえる・・・・ に・・・逃げてくれ・・・・

ああっ・・・・・もう なにもかもが・・・・・ああ  ああ  ああ

遠くで セイジの声が聞こえる・・・

セイジ・・・まさか死んじまったんじゃないだろうなあ・・・・

おれはあの世で会いたくないぞ・・・・ セイジ・・・・・

 

 

「なっ なんなんだよ! なんでレッドが! なんでレッドが現れるんだよ!

 うそだろ うそだろ うそだろーッ!!

 そんなバカな・・・・ おいっ すぐにサーチしてよ!

 計測するんだ,ミクロンの単位までだよ。

 どうせ,サイボーグだとかさ。・・・・えっ,オリジナルデータと全く同じ!

 生体反応もあり・・・・ あとはクローン?まさか・・・ いや まてよ・・・」

ミカエルは和弥博士の研究室内での記憶をリピートし始めた。黒目が上まぶたに隠れ

て白目だけになった。間もなく,ゆっくり黒目が降りてきた。

まだ信じられない表情のミカエル。

「わかった・・・・ 最後のヘルデンエナジーを搾り取ったときに,レッドの身体か

 ら4本コードが抜けてた・・・・そのうちの2本が,心臓・脳幹の破壊パルス送信用

 だ・・・

 とどめは刺せてなかった・・・なんてことだ・・・・」

 

 

 シュンスケのヘルデンエナジーを注入されて蘇生したレッドセイバー=セイジ。

彼は,生命の危険をおかしてセイバースーツを装着,戦場に向かった。そうして死の瀬

戸際にいたブルーを間一髪で救出した。

重傷を負いながらも,ブルーは復活したセイジの姿に奮起し,レッドとブルーの「熱き

友情の連携プレイ」が炸裂する。

 ミカエル設計の怪力怪人ギガンデスは,対ブルー抹殺を目的に特化された機械怪人で

あり,レッドの参戦はまったく考慮されていない。データが存在しないレッドセイバー

の出現で混乱をきたしたギガンデスはあっけなく倒された。

レッドがセイバーメットをはずし,やつれてはいるものの さわやかなセイジの素顔が

あらわれた。ブラック,グリーン,イエローが駆け寄る。

そしてブルー=シュンスケが,ゆっくりと最後に歩み寄ってくる(実は重傷で走れない

のだが)。

 笑顔でセイジが声をかける。

「危ないところだったな シュンスケ」 口元からこぼれる白い歯。

「やれやれ,リーダーがこんなに遅刻してくるから,隊員が苦労するんだぜ」

言葉とはうらはらに,やはり笑顔が満面に広がっているシュンスケ。

2人がサムズアップを交わす画像がストップモーションになって・・・・