策略(4)

 

バシャーッ!大きな音を立てながら水飛沫が上がった。

(!! 熱!!!・・くない・・・ なんだこれ?)

周りの水は、どう見ても煮立ってはいない。

煮えたぎる熱湯に見えていた泡と湯気はドライアイスだった。

(どこまで俺をバカにするんだ!)

心の中で舌打ちをしながら、水中から水面を見上げるロビン。

「安心しなさい、坊や。熱湯で焼け死なれちゃあ面白くも何ともないのよ」

そう言いながらハーレイ・クインが鍋の上から笑顔で覗き込むのが見えた。

 

熱湯の恐怖は去ったものの、早く脱出しなくてはならない。

ジョーカー一味や客席にいるギャング達を前にして尻尾を巻いて逃げるのは癪だが、

上体を縛られていては、思うように体を動かせない。

立ち泳ぎしながら頭を水面に出すのが精一杯だった。

 

「達人、ここでのコツは何ですか?」

レポーター風にハーレイ・クインがジョーカーに向かって尋ねる。

「よく火を通すために、落とし蓋をして食材がお湯に浸かるようにすることです」

ジョーカーがそう叫ぶと、巨大な板が水面のロビンの頭に押しつけられ、

無理矢理水中に沈められた。

(畜生、ベルトがあれば・・・ 酸素ボンベがあるのに・・)

頭を水面から上げる度に、巨大な落とし蓋で押さえられ、

息継ぎも満足に出来ないまま水面の下へと沈められてしまう。

「ゴホッ ゴホッ」

顔を水面上に出すたびに咳き込むだけのロビン。

しかも、またすぐに沈められ、水中では口からゴボゴボと空気が漏れる。

(く、苦しい・・・ もうダメだ・・・・)

意識を失って水中でグッタリするロビン。

「さて、そろそろ茹だったようなので、材料を取り出しま〜す!」

ハーレイの合図で巨大な金属製のザルで引き上げられるロビン。

網の上で脱力し、グッタリと横たわり気を失っていた。

 

ジョーカーの手下達は、意識が朦朧とするロビンを、

カメラから見えやすいように斜めにされたスチール製のテーブルにのせる。

瞬く間に、ブーツとグローブを脱がされてしまうロビン。

 

「では、これから皮を剥きます!」

ジョーカーの宣言で、会場は熱気に包まれた。

歓声とも呻きともつかない低く響く興奮した声を上げる客席の犯罪者達。

手拍子と共に「脱がせ!」コールが湧き起こっている。

 

「脱がせ! 脱がせ!」

ロビンのコスチュームの前面に付いた金具を、

観客席からの掛け声に合わせてハーレイ・クインが手際よく外していく。

金具が一つ外されるたびに、ロビンの正体、

ディック・グレイソンの肉体が、胸元から少しずつ露わになっていく。

コスチュームの僅かな隙間から、若々しいディックの肉体が覗かせていた。

隆起した大胸筋から腹直筋を通しての中央に窪む溝の辺りへと、

スタジオの強烈な照明がコスチュームの影を落としている。

 

胸から、腹直筋の中央、臍の下までの金具が全て外され、

大きく開かれたコスチュームからは、訓練と実戦により作られた逞しい肉体が露出し、

鍛えられ、脂肪のない、うっすらと滲む汗で輝く綺麗な白い肌は、

火照りのためか薄く紅色に上気している。

 

続いてジョーカーが襟元に手をかけると、

開口部を広げながら逞しい三角筋が盛り上がる肩を露出させ、

隆起した上腕二頭筋が浮かぶ腕を抜くと、肩から腰までが一気に晒された。

逞しく切れ上がった大胸筋、綺麗に割れた腹直筋が、呼吸の度に上下している。

 

客席に座る犯罪者達が、ロビンの肢体を熱のこもった目で見つめていた。

「コスチュームを脱がすコツは、一気に剥いてしまうことです!」

そう言うと、ハーレイに指示して両腕を押さえさせると、

ジョーカーは力一杯コスチュームを引き下げた。

ズルゥッ

ロビンは身を守るものが全て剥ぎ取られてしまった。

わずかに、純白のビキニが、大きく膨らんだ股間を窮屈に押し留めているだけだった。

ついに全身のコスチュームを脱がされ、身につけているのは白のビキニのみの姿で、

意識を失ったロビンは無防備な肉体を、観客達に、テレビカメラに晒していた。

 

「ぅ、うぅん・・・・」

次第に意識がはっきりとし形をとり始めてきた。

大勢のギャング達が観客として見つめる中、

コスチュームを脱がされて白いビキニ1枚の姿でスチールテーブルの上に載せられている。

身を守るものが一切ない無防備な状態で肉体を晒しているという、

その屈辱的な事実に愕然とするロビン。

(ど、どうなってるんだ?

 とにかく、このままじゃまずい。

 早くここから逃げなきゃ・・・)

 

気を失った振りをしたままで辺りを見回すロビン。

(ハーレイもジョーカーもコスチュームに気を取られている。

 逃げるんなら、今だ・・・)

 

飛び起きると、白いビキニのみという出で立ちで、スタジオの端に向かって駆け出すロビン。

それに気付いたならず者の一人が、客席から叫び声を上げた。

「あいつ、逃げるぞ!」

スタジオの全員が一斉に振り向いた。白いビキニ一枚のロビンに注目が集まる。

 

「ワハハハハッ」

「おいおい、正義の味方がパンツ一丁で何処に行くつもりだ?」

「お前、自分がどんな格好してるのか分かってるのか?」

口々にロビンへの屈辱的な嘲りの言葉を叫ぶ観客達。

唇を噛みながら、嘲笑に耐えるロビン。

(あいつら!

 でも今はあんな奴らを気にしてる場合じゃない。

 早くここから逃げ出さなきゃ・・)

 

逃げていくロビンに向かって、ジョーカーは巨大なサラダオイルの瓶を押し倒した。

倒れてくる巨大な瓶から零れるオイルを頭からかぶってしまい、滑って転ぶロビン。

(うわっ! こ、今度は何なんだ!)

オイルに塗れた自分の体に目をやるロビン。

立ち上がろうとするが、その度に滑って転び、全身テカテカの油塗れだった。

隆起した筋肉が盛り上がる肉体が、ヌルヌルのオイルに塗れ、

強力なスタジオの照明が映り込んでエロティックにぬめっていた。

 

立ち上がり、走り出そうとする度に滑って転び、

思う様に動きのとれないロビンに向かって、ジョーカーの手下達が近付いてくる。

彼らは特殊なブーツを履いているため、油で滑ることはない。

何とか立ち上がり、果敢にも挑みかかろうとするロビンだったが、

滑る足では得意な軽快な身のこなしも出来ず、パンチもキックも力が入らない。

それどころか、勢い余ってオイルに足を滑らせてしまう。

 

ロビンが滑って転ぶと、

敵に立ち向かうことも、立ち上がることもできない白い下着1枚の少年に向かって

観客席から一斉に歓声と拍手が湧き起こる。

「ワハハハッ」

「おい坊主、お前一人じゃあ何も出来やしねぇのか!」

 

抵抗しようとするロビンだったが、為す術もなく捕らえられてしまう。

ジョーカーの手下二人に両腕を掴まれ、

ロビンはヌルヌルと引きずられてステージ中央に連れ戻されてしまった。

 

「ちくしょおっ 放せ!」

叫びながら手足を振り回してもがくロビンだったが、

斜めにセットされたステンレス製の台の上に仰向けに磔にされ、

両手両足は革製のバンドで固定されてしまった。

四方から強烈なライトが照りつけ、オイルに塗れた全身に汗が滲む。

前面にズラリと並んだテレビカメラが、

磔にされ、恥辱に表情を歪ませるロビンをあらゆる角度から撮影していた。

スタジオセットの後ろに設置された巨大スクリーンに、

ロビンの拘束された全身像が映ると、客席からは大きく割れんばかりの喝采が起こった。

 

客席に向かって、ジョーカーが歪んだ笑顔で告げる。

「さて、皆さん、

 羽を毟り、茹で上げ、皮を剥いだ若鶏にたっぷりと油を染みこませたところで、

 そろそろ仕上げと参りましょう!

 若鶏の味付けは、特別製のソースです」

「達人、特別製のソースとは、何なんでしょうか?」

ハーレイの問いかけに対してジョーカーが自信たっぷりに答えた。

歪んだ笑顔を一層引きつらせている。

「もちろん、溜まりに溜まった18歳の童貞ちゃんの雄汁です!」