薔薇十字団(8)

 

アキレアの猛攻の前に脆くも敗れ去ったスパイダーマン。

意識を失い、傷つい身体をベッドに横たえた彼は、あろうことか敵であるダチュラに毒の

治療と全身のダメージを癒すマッサージを受けていた。

 

「う、う〜ん。。。」

身体を這うマッサージのくすぐったいような甘い感触に目を覚ますスパイダーマン。

徐々に焦点の合ってきた目の視線の先にベッドに横たわる彼の身体を優しくマッサージす

るクノイチのリーダーであるダチュラの姿が浮かんできた。

「なっ!?」

ダチュラはベッドの傍らに置かれたイスに座り、狼狽するスパイダーマンを尻目に彼の足

の裏のツボを優しくマッサージしている。

「安心して、何もしないわ。じっとしていなさい」

慈愛に満ちた微笑を浮かべながら、諭すように語りかける。

 

「何を言ってんだ!ヤメロー。。。」

身を起こそうとするが力が入らず、僅かに身体を浮かすも、ベッドに仰向けに倒れるスパ

イダーマン。

「ダメよ、まだじっとしていなさい。」

意識を取り戻し、激しく狼狽するスパイダーマンをまったく気にすることなく、視線すら

向けずにマッサージを続けながらダチュラは優しく語りかた。

「あなたが気を失っている間に解毒剤は打っておいたわ。フフッ身体の火照りはもう治ま

ったでしょ?でも身体を自由に動かすには、もう少し時間がかかるの。」

そこまで言うとダチュラは手元に置いておいた薬ビンからオイルを自分の手のひらにたっ

ぷりと垂らしていく。彼女の手のひらからこぼれたオイルがスパイダーマンのふくらはぎ

辺りを濡らしていく。

オイルをふくらはぎにすり込むようにマッサージをするダチュラ。スパイダースーツはオ

イルに濡れ一段濃い色に染まっていく。

 

身体の自由がきかないスパイダーマンは、敵に治療を施されるという屈辱に震えながら成

りゆきを見守ることしかできない。

敵に治療を施されると言う不測の事態に動揺する心を必死に隠しながらダチュラの事を目

で追った。

しばらく観察を続けてもダチュラの動きに何ら怪しい部分は無く、足裏からふくらはぎ、そして太モモと続き、

彼女のマッサージは身体に蓄積した疲労を癒していく。

「どう、気持ちいいでしょ?」

顔はスパイダーマンの足に向けたままマッサージを続けつつ、何となしに問い掛ける。

確かにオイルをたっぷり使ったマッサージの滑らかな指の感触は、心地良ささえ感じさせるものであった。

しかし、自分を治療を施しているのは敵のリーダーであり、そんな女に身を任せるのは危

険以外の何ものでもない。

「・・・・」

スパイダーマンは何も答えなかった。

(油断はできない、気を引き締めなければ、、、!)

 

その後もダチュラはマッサージを続けながら、強さはどうか、痛むところはないか、など

と質問を繰り返してきた。

スパイダーマンは、その問いかけに答えることはせずに、油断する事無く彼女の動きを目

で追い続けた。

やがて両のモモを揉み終えたダチュラは

「ふう、やっと終わったわ。」

と言うとやっとスパイダーマンに目を向けてマスクの奥にある彼の瞳を見つめながら問い

掛けた。

「どう、気持ちよかった?」

 

「えっ!?」

不意に敵である美女に見つめられ、微かな動揺を隠せないスパイダーマン。

ダチュラの黒い瞳はどこまでも深く、吸い込まれていくような錯覚を覚えた。

不思議な感覚の中スパイダーマンはダチュラの瞳に心の中を見透かされるかのように深層

心理に眠っていた本音を思わず口にしてしまった。

「あ、、、あぁ、気持ち、、、よかった、、、。」

倒すべき敵のリーダーに、自身ですらも思いもよらなかった感情を口にしてしまい、激し

く狼狽するスパイダーマン!

(!!、、、オ、オレは、、今何を、、、おかしいぞ、これはキケンだ!)

危機を察知したものの、なぜかダチュラから目を逸らすことができずに、スパイダーマン

はダチュラの瞳の不思議な力に捕らえられ、危険を感じた意識は麻痺し、思考能力すらも

鈍らされてしまった。

 

「うぅ、な、なにをした、、、ん、、だ、、、」

心に入り込む何かに必死に抵抗するスパイダーマン。そんなスパイダーマンを尻目にダチ

ュラはイスから立ち上がる。

その視線でしっかりとスパイダーマンの瞳を絡め取りながら、メタルレッドのレオタード

に包まれた体を見せ付けるかのように大胆にくねらせ、ゆっくりとスパイダーマンに近づ

くと彼の身に覆い被さるようにして耳元で囁いた。

「そう、それは良かったわ。」

慈愛に満ちた表情で微笑みかけられ、スパイダーマンはマスクの下で苦悶しながらも、口

をつく言葉は不思議な瞳の力への敗北を意味するものであった。

「あぁ、あ、、、りが、、、とう、、、。」

 

(、、、フフフ、かかったわね!!)

スパイダーマンの返答を聞くと、ダチュラの瞳はいっそう妖しい輝きを増し、その笑顔か

らは慈愛に満ちた表情は消え、邪悪な笑みが浮かんでいた。