薔薇十字団(2)

 

 

辺りを警戒しながら洞窟に足を入れるスパイダーマン。洞窟はやがて人口の通路へと変わった。

地下通路に潜入して間もなく、スパイダーマンは手足の軽い痺れと奇妙な体の火照りを

覚えていた。

(どうしたんだ、いったい、、、)

幾重にも張り巡らされた罠の待つ敵のアジトの中で、スパイダーマンの身に何かが

起こっていた。

 

地下通路は複雑に入り組んでおり、焦る気持ちとはうらはらに、出口にはなかなか辿り着けず

多くの時間が過ぎていった、、、。

(ハアハア、急がなければ、、、)

時と共に手足の痺れはスパイダーマンの身体に徐々に広がっていった。

そして、体の火照りもその温度を上げ、妖しい炎となってスパイダーマンの理性を炙り始める。

やがて、時と共に強くなるその火照りは、正義の使者の理性に亀裂を生じさせた。

「あぁぁ、、、」

スパイダーマンの口から熱い吐息が漏れる、、、。 

 

 

鋭い視線でモニターを見つめていたアマゾネスは、そこに写るスパイダーマンの身に生じる

異変を見逃さなかった。

(あの動き、、、まるで、、、)

  

アマゾネスが豪華に装飾された玉座から勢いよく立ち上がった!

「如何なさいました?」

リーダー格のクノイチが驚きつつ、アマゾネスを振り返った。

「そういう事か! もしやとは思っていたが、、、。作戦を変更するよ!面白くなってきたねぇ、

はははははは」

アマゾネスの笑い声が、アジトの司令室に響きわたった。

 

 

「アマゾネス様、お着替えの準備と、人質の処刑室への移動が完了しました」

下級クノイチの報告を聞き終えるとアマゾネスは玉座から立ち上がり、モニターに映る

スパイダーマンを一瞥すると、眼前に控えるクノイチ達に命じた。

「私は処刑室で待つとしようか。お前達の好きなようにスパイダーマンを責めてもよい!

ただし、トドメだけは刺すな。ヤツへのトドメは私自身が刺すのだからな!」

「はっ、アマゾネス様の仰せのままに」

クノイチ達の返答を背に、アマゾネスは、淫らな笑みを浮かべながら司令室を後にした。

 

3人の上級クノイチ達がアジトの通路を急いでいた。

「あーあ、つまんないな、時間稼ぎだけなんてさッ!」

まだ幼さの残るクノイチが、一番後ろを歩きながら呟いた。

「そう言うなよ、ダリア。アマゾネス様からはトドメを刺すなとしか言われてないんだゼ?」

驚くほど大柄の身体をメタリックブルーのレオタードに身を包んだクノイチが、

ニヤニヤしながら振り返った。

「んもう、あまり調子にのらないでよアキレア」

熟れきった身体にメタリックレッドのレオタードを身につけたクノイチが、艶のある声で

注意を促す。

「分かってるよ、ダチュラ。軽く遊んでやるだけさ。じゃ、オレはこっちだから」

アキレアと呼ばれたクノイチが巨体をエレベーターに乗せる。

「私も乗るぅ」

ダリアが後に続く。

「狭いよ、アキレア」

「文句言うならつまみ出すよ」

軽口を言い合う2人を乗せてエレベーターは上昇を始めた。

「まあ、あの程度の相手に緊張しなさいっていう方がムリなのかしらね。

さてと、私もお出迎えの準備をしないと、、、。」

エレベーターを見送り、一人残ったダチュラも歩きだした。

 

 

手足の痺れに耐えながら先を急ぐスパイダーマン。

体の火照りは、間欠的に細胞を淫らな炎で彼の鋼の決意を妖しく責めたてる。

苦悶の表情を浮かべつつ、スパイダーマンは、自身の奥底から湧き上ってきる感情を超人的な

理性でムリヤリ押さえ込んでいた。

 

(出口だ!)

微かな明りが通路の先から差し込んでいた。

差し込んでくる日差しは朱を帯び、太陽が大きく西へ傾いている事を感じさせた。

スパイダーマンは、痺れる手足に不安を覚えつつも、出口へと走り出す。

通路を抜けると、岬の先端で夕日を背に浴びながら、十字架に貼り付けられた恋人.

ひとみの姿が目に飛び込んできた。

 

「ひとみ!」

声を掛けるも、返事は無い。

慌てて恋人の下へ駆け寄るスパイダーマン。

近づいてみると、どうやらひとみには外傷も無く、気を失っているだけの様である。

恋人の無事を確認し、マスクの下の素顔にほっと安堵の表情を浮かべたが。

だが、それも一瞬の事であり、両の目に怒りを灯らせて、後ろを振り返り大きな声で叫んだ。

「出て来い、アマゾネス!決着をつけよう!!」