薔薇十字団(1)

 

 アマゾネスは、山城拓也に激しくムチを打ちつけた後、

立ち上がることのできない彼の髪の毛を乱暴に掴みムリヤリ顔を上げさせてこう言った。

「スパイダーマンに伝えな、ひとみを返して欲しければ、鬼ヶ岬に来るんだってね!」

アマゾネスは動けない拓也に冷笑を浴びせて、佐久間ひとみをつれて山城家を後にした。

(ホホホ、これで準備は整った。後はあの男を、、、。)

アマゾネスは妖艶と微笑んだ、、、。

 

 

 

 ――― アマゾネスは、最近のモンスター教授のリタとベラに対する寵愛ぶりを苦々しく思いつつも、

モンスター教授の信頼と自身への愛情を取り戻すためにスパイダーマンとの戦いの最前線に

立ち続けていた。

しかし、ベラ・リタの発案による水爆ミサイルの主要都市への一斉攻撃が、

自分をも見殺しにする作戦である事、またモンスター教授もその作戦を容認した事を知ると

激しい怒りとともに彼らへの復讐の念が湧き上がってきた。

 

(許せないねぇ! しかし、モンスター教授どもを確実に倒すには、どうすれば、、、。)

その時、アマゾネスの脳裏にある男の名が浮かび上がった。彼女の仇敵である、あの男の名が、、、。

(奴はモンスター教授と違い、生身の男のはず、、、。フフフっ、奴が生身の男であれば私の術からは

逃れられまい、、、。私の術であの男を虜にし、やつら3人を始末させよう。そして新たな組織を

作り私が人類を支配してやる、、、。この私が全人類のミストレスとして君臨するのだ!)―――

 

 

 

 スパイダーマンは、恋人であるひとみを取り戻すべく、激しい闘志を燃え上がらせてGP−7を鬼ヶ岬に

急行させていた。

「許さないぞ、アマゾネス! 今日こそ決着をつけてやる!!」

鬼ヶ岬に近づくと、大量のニンダーが待ち伏せていた。マシンガンを乱射するニンダー。 

「どけぇぇ、邪魔をするなァァァッ!!」

かまわずにGP−7を加速させるスパイダーマン。

銃弾をものともせず、ニンダー達を次々と弾き飛ばすGP−7。

逃げまどう事しか出来いニンダー。

恋人を奪われ怒りの化身と化したスパイダーマンを乗せたGP−7は、激しいドリフトを繰り返しながら

一人、また一人とニンダーを弾き飛ばしていった。

 

「ハアハア、くそうっ、急がなければ!」

怒りのために冷静さを欠くのか、呼吸を荒げながら再び鬼ヶ岬に向け

マシーンを加速するスパイダーマン。

その後はニンダー達の抵抗もなく鬼ヶ岬に近づく事が出来た。

「見えた! あそこが鬼ヶ岬!」

 

(どこにいる、アマゾネス!)

一刻の猶予もおしいスパイダーマンは、ショートカットのためにGP−7を砂浜に入れ、

さらなる加速を加えていく。

しかし、砂にハンドルを取られるのか、GP−7の動きには先ほどまでの鋭さが欠けていた。

 

「!」

いよいよ、岬の麓まで数百メートルに迫ったころ、スパイダーマンの目に岬の先端に

十字架に貼り付けられているひとみの姿が飛び込んできた。

「ひとみッ!」

思わず、GP−7を急停止させ、叫び声を上げるスパイダーマン。

しかし、ひとみからの返事はなく、かわりにマゾネスが姿を現した。

「ホホホ、よく来たねスパイダーマン!」

アマゾネスの嘲笑を含んだ声が岬にこだまする。

 

「キサマ! 許さんぞ!!」

スパイダーマンはGP−7を飛行させようと加速させる。

その瞬間、大きな爆発音が岬に響き渡る。

「何だっ!?」

爆発の正体はスパイダーマンの周りから打ち込まれる多数の迫撃砲であった。

スパイダーマンは慌ててステアリングを切るが、砂地ではGP−7もいつもの機動性が発揮できない!

「くっ、ニンダー達は全て倒したはずでは!?」

恋人を奪われた怒りと焦りがスパイダー感覚をも狂わせたのか、スパイダーマンは伏兵の存在に

気づけなかったのだ、、、。

 

突如襲ってきた砲撃は、自由のきかない砂地で、持てるポテンシャルを充分に発揮できないGP−7を

確実に追い詰めていった。

迫撃砲の爆風によって巻き上げられた海水や砂粒を大量に浴びせられ、

そのボディは搭乗者とともに無様に汚れ、輝きを失っていく、、、。

「ホホホ、いいザマだねぇスパイダーマン! そんなドロまみれで迎えにこられても、

お姫サマは嬉しくないってさ!」

再びアマゾネスの嘲りの声が岬に響く。

「くそぅ、、、」

スパイダーマンが激しい怒りに我を忘れた時、大きな爆発音が彼の間近で炸裂した。

「しまったっ!」

  

アマゾネスの声に注意を奪われ、迫り来る砲弾の回避に一瞬の遅れが生じてしまった。

何とか直撃は避けるも、間近で爆発した迫撃砲の威力はバランスの悪い砂地に苦しむGP−7を

横転させるに充分だった。

無様にマシーンから投げだされたが、スパイダーマンは空中でバランスを取り、着地しようとした。

だが、どうした事か上手くバランスを取る事が出来ずに、無様に砂浜に横たわる姿を宿敵の前に

晒してしまった!

 

(今日のオレは焦りすぎだ、、、。落ち着いて闘わねばあの女には勝てない!)

スパイダーマンの心を暗然たる不安が包む。だが、冷静でいられたのも一瞬の事だった。

「ホホホ、見ろ、あの無様な姿を!」

アマゾネスの声が岬の上から響く。と、同時に、

「ホホホホホっ!」

複数の女性の笑い声がスパイダーマンを取り囲んだ。

 

「!」

驚き、顔を上げるスパイダーマン。

泥にまみれた自分とは対照的に、色鮮やかなレオタードを身にまとった女性達がスパイダーマンを

見下ろしていた。

「な、何者だ、キサマら!?」

慌てて起き上がると構えを取るスパイダーマン。

アマゾネスが挑発するかのような声で叫ぶ。

「フフ、 彼女達は薔薇十字団のクノイチ達よ! 彼女達の実力は先ほどの戦闘で

充分判っていただけたかしら?」

 

スパイダーマンに衝撃が走る。

「薔薇十字団? クノイチだと!?」

スパイダーマンは、先の攻撃の激しさを思い出し無意識のうちに後ずさってしまう。

(薔薇十字団!? いったい、どうなっているんだ、、、。)

彼は新たな組織と強敵の出現に、激しく混乱する。

 

「フフ、たいした事ないわね」

「私達の相手になるのかしら?」

「カッコわるーい」

一人は腕を組み、一人は腰に手を当て、また一人は大げさに両手を広げ、

彼女達は思い思いにスパイダーマンをののしる。

「スパイダーネット!!」

スパイダーマンは怒りに任せて左腕のブレスレットからネットを発射する。

「フッ」

クノイチ達は、微笑みを浮かべたまま軽やかにジャンプし、あっさりとネットをかわす。

そして、ネットの射程外ギリギリに着地してスパイダーマンに嘲りの笑みを投げかけた。

「くそっ!!」

スパイダーマンは、怒りに任せて放ったとはいえ、必殺の武器を楽々とかわされてしまった事に

激しい動揺を覚えた。

距離を詰めようとするも、砂浜に足を捕られ、心中の動揺を表すかのようによろめいてしまった。

 

「ホホホ、だめねぇ、ボーヤ。あれくらいの挑発で我を忘れる様じゃ戦士失格よ。

それに慌てなくても、後でたっぷりと相手をしてあげるわ。 そうですね、アマゾネス様?」

メタリックレッドのレオタードに身を包んだリーダー格と思わしきクノイチがアマゾネスを振り返りながら

叫んだ。

「何ぃっ!?」

ボーヤ呼ばわりされた事で怒りに身を震わせながら、スパイダーマンはアマゾネスとクノイチ達を

交互に見渡した。

「そういう事だスパイダーマン、人質を返してほしかったらこの先の洞窟から岬に入っておいで。

このクノイチ達が洞窟の中でお前の相手をしてくれるよ!」

岬の上に悠然と立つアマゾネスが、さも楽しそうに言った。

「だそうよ、スパイダーマン。洞窟で私達がたっぷり可愛がってあ.げ.る。どうする?」

リーダー格のクノイチが、豊満なバストをよりいっそう強調するかのように腕を組み、

挑発するかのような甘い声でスパイダーマンに問いかける。

「くそう、卑怯だぞ! 今すぐオレと闘え、アマゾネスっ!!」

スパイダーマンは怒りと屈辱に身を震わせて叫んだ。

「見事に私のところまで辿り着けたら、たっぷりと相手をしてやるわ! ほほほほほ、楽しみにしてるよ、

スパイダーマン!」

アマゾネスが岬の上から叫び、同時に指を鳴らした。合図と同時に周囲で爆発が起こり、

スパイダーマンは再び爆風に翻弄された。

 

「うっ!」

顔を上げるとそこには、ひとみもアマゾネス達の姿も無かった。

迷うことなく洞窟へ足を向けるスパイダーマン。

(くそう、アマゾネス! お前の罠を突破して必ず決着を付けてやる!!)

強く拳を握り、つい先程まで宿敵の立っていた岬の先端を見つめると、

マスクの下の瞳に必勝の決意を灯し、強い足取りで洞窟へと向かうスパイダーマン。

 

だが、彼はまだ気づいていなかった。

アマゾネスによって受けたムチの傷が、自身の身体に深いダメージを負わせている事に。

そして、必勝の決意の影で妖しく燻っている、体の芯にかすかに灯った熱ぽさに、、、。