ロビン(20)

 

ゴキ中尉の墓に小便を引っかけていたところを戦闘員に見つかり、

命からがら逃げ出したロビンは、ようやくゴッサム渓谷の入り口まで

辿り着いた。

脱兎のごとくバイクを走らせてきたロビンだが、後を振り向く余裕もでき、

追っ手がないのを確かめると、バイクを止めて一息ついた。

「ちきしょー、何でこうなるんだよ。

 僕はヒーローだっていうのに・・」

ロビンは我に返ると、ビショビショに濡れてしまった股間を見て、

情けない気持ちになった。

だが、それ以上にロビンを情けない想いにさせたのは、

わずかな戦闘員相手に背中を向け、小便を垂れ流しながら、

逃げ出した事よりも、むしろ逃げおおせた事に安心してしまう自分に気づいた

時であった。

「くそー、今度は絶対こんな事には・・」

 

とその時、ロビンの背後から黄色い手が伸び、ロビンの首を掴んだ。

「おい、こらっ!!」

「わっ、スミマセン。

 僕じゃないんです。

 あれは虎仮面って人が・・」

言いながら、ますます惨めになるロビン。

「んっ?。虎仮面がどないした言うねん?!」

「えっ?」

振り向くと、そこには虎仮面本人が立っていたのだ。

「あ、いえ、あの、何でもないんです」

言い訳が思いつかないロビン。

虎仮面は濡れたロビンの股間に視線を送る。

「フン。何やお前。また苛められたんかい」

「えっ?、いえ、これはですねぇ・・。

 池に落ちた子供を助けようとしたら・・、そのぅ、急に雨が降り出して・・、

 それに僕は汗かきでして・・」

「じゃかましい!!。そんな話はどうでもえぇんじゃい!!。

 それより、この前はケンカになってもたから聞かれへんかったんやけど、

 ニューヨークにはどない行ったらええねん。

 新庄を探しとるんじゃ」

「えっ、はい。

 ニューヨークでしたら、この道をまっすぐ行ったところにゴッサム駅がありますから、

 そこから毎日ニューヨーク行きの急行列車も出ています。

 えぇっと、今の時間でしたら今日の列車にも間に合うと思います。

 あっ、でもニューヨーク・メッツの新庄でしたら、

 明日からゴッサム・マイナーズとの試合ですから、

 ゴッサムシティに来ているはずですよ」

話が変わった事にほっとして、俄然ロビンの口数が多くなる。

「おっ、向こうからノコノコやって来るんか。

 そら、手間が省けてえぇわ」

虎仮面の機嫌が良くなった事を嬉しく思ってしまう自分に、

情けなさを感じてしまうロビン。

「あいつはなぁ、阪神で育ててもろたくせに、後足で砂をかけるようにして

 アメリカに行ってもた奴や。

 あいつ、阪神をナメとるんや。

 俺が『虎の穴』の恐ろしさを思い知らせたる。

 ボコボコにしてやるつもりや。

 お前、まさか文句はないやろな、えっ!」

“どこの世界にヒーローに向かって「人を殴っても文句はないな」と言う奴が

 いるんだよ!!”と心の中では思うロビンだが、

「あっ、でも、できれば話し合いで・・」と言うのが精一杯だ。

もちろん、そんな言葉に耳を傾ける虎仮面ではない。

「ケッ。今の言葉、聞かんかった事にしといたる。

 それとなぁ、昔の偉い発明家の言葉に

 『私は失敗を重ねるたびに、成功に近づいた』ちゅうのがある。

 そやけどな、それはそいつが結果的に成功して、

 世に名を残すほどの奴やったから言える言葉や。

 並の人間はそうやない。

 失敗ばっかりしとったら、そのうちイヤになるし、自信もなくなるのが普通や。

 小さな成功を積み上げる事が自信に繋がる。

 その自信が大きな成功に繋がるもんなんや。 

 まっ、お前もあまり無理な事は考えん方がえんと、

 コツコツ頑張る事やな」

虎仮面はそう言い残すと、悠然と立ち去っていく。

“『俺を相手にしても勝ち目はないぞ』と言う事か”と思うと、

面と向かって言われた事に怒りが込み上げてくる。

だが、虎仮面が振り返って、

「今の話、分かったんかい!!」と怒鳴ると、

「は、はい。分かりました」と応えてしまうロビンであった。

 

戦闘員に追いかけ回され、虎仮面に脅かされ、

失意のうちに基地に戻ったロビンは、

熱を出して寝込んでしまった。

実際、短い間に多くの事があり過ぎた。

ロビンの疲労も限界に達していたのも事実なのである。

だが翌日、驚くべきニュースが新聞紙上を賑わせた。

 

『バツトマンの正体は資産家のウェイン氏!』

『ロビン、ショッカーの拷問に屈して自供か?!』