ロビン(19)

 

ロビンの記者会見が行われた。

ロビンの口から、誘拐事件が発生してから、

人質を救出するまでの経過が発表される。

 

「S17地区で、人が夢遊病者のように歩いているという連絡を受け、

 僕は直ちに現場に急行しました。

 僕が現場に着いた時は、ショッカーのゴキ中尉達が人質を乗せた護送車を

 発車させたところでした。

 バットマンに連絡を取ろうとしたのですが、ミノフスキー粒子の為に連絡できず、

 僕は護送車を追跡しました。

 護送車の行き先はゴッサム渓谷です。

 その時には渓谷の周囲はショッカーの戦闘員で固められていましたが、

 僕は敵の警戒を突破して渓谷に侵入しました。

 ただ、これで敵はさらに警戒を強め、クモ男中尉の部隊も動員して、

 周囲を警備し始めたんです。

 しかも、秘密基地建設がばれた時には、人質を処分するつもりで、

 収容所に毒ガスを設置していました。

 万一にも、人質になった人たちに危害が及ぶ事があってはいけません。

 僕は身を潜めてチャンスをうかがいました。

 そして7日目。

 ショッカー北米支部のライオンマン大佐が視察に来る事が分かりました。

 ゴキやクモ男は戦闘員を全員動員して、派手な歓迎パーティを企画していたんです。

 僕はその時がチャンスだと考えました。

 敵が全て集まるわけですからね。

 ライオンマンは親衛隊のカメレオーン中尉を伴って現れました。

 ゴキやクモ男も、僕の潜入に恐れを成してか、用心棒のタコデビルを

 連れてきましたし、クモ男の部下にゴリラ人間少尉という怪人もいましたから、

 怪人は全部で6人です」

記者の間から「ほぉー」というため息が漏れる。

「そ、そしたらロビンさんは6人を相手に」

「当然です。それが使命だと思っていますから。

 ただ、正面からぶつかっては万一という事もあります。

 僕は事前に収容所に備えられていた毒ガスを少しずつ奪って、

 毒ガス手榴弾を作っておきました。

 これで敵を攪乱しておいて、後はレーザーでカタをつけたんです」

 

その後、記者からの質問を受ける。

「最初に護送車を追跡した時、人質を助ける事は出来なかったんですか」

「ゴキは非道にも、護送車にも毒ガスを備えていました。

 護送車が襲われた時には、部下の戦闘員もろとも、人質を殺すつもりだったんです」

「つまらない質問ですが、潜入していた7日間、食事などはどうしていたんですか」

「ヒーローたる者、少々の空腹など、何でもありません。

 大切なのは、人質の救出です」

「6人もの怪人を相手に、恐怖は感じませんでしたか」

「いいえ。まぁ、相手は僕をどう感じたかは知りませんけどね。(笑)」

 

ウソ八百を並べた記者会見の模様はTV中継され、

ゴッサム山の基地に戻ったゴキ中隊も見るところとなった。

「ロビンの野郎、何様のつもりだ」

「あいつを蜂の巣にしてしまわない事には、中尉殿に申し訳が立たない」

戦闘員達から怒りの声が起きる。

「全くだ。中尉殿は、あいつの将来まで考えて、

 『逃がしてやれ』とまで仰ったんだ。

 その中尉殿を・・」

忍者仮面少尉も怒りに震えている。

「少尉殿。これから我々はどうします?」

「まぁ、ショッカー本部からの指示を待つ・・というのが筋だろうがな。

 だが、俺は中尉殿の仇を討つつもりだ。

 戦闘員72号。お前は軍曹で、俺の次に階級が上だ。

 これから中隊の指揮を執れ。

 みんなは72号の指揮の下、本部の指示に従ってくれ」

「少尉殿。そりゃないですよ。

 中隊の気持ちは、みんな少尉殿と一緒です。

 我々も少尉殿と行動をともにします」

忍者仮面少尉は戦闘員一人一人の顔を見渡した。

全員、ロビンに対する怒りに燃えている。

「分かった。みんなで中尉殿の敵を討とう。

 ヨシ、中尉殿の墓にみんなの決意を伝えるんだ」

忍者仮面少尉は中隊をゴキ中尉の墓前に整列させた。

ゴキ中尉を埋葬した上に、板の墓標を立てただけの粗末な墓である。

だが、墓標に書かれた『名将の墓』の一言に、中隊全員の想いが込められている。

「中尉殿、見ていてください。必ず仇は討って見せます。

 長い間、ありがとうございました。

 中尉殿に対し、敬礼!」

 

中隊の面々がゴキ中尉と最後の別れをしようとした時、

空から轟音がとどろいた。

バットヘリが現れたのだ。

全員が森の中に身を隠すと、ヘリからロープを伝ってロビンが降りてきた。

ウソ八百を並べた記者会見を終え、基地に置かれたままのバイクを取りに来たのだ。

“潜入した”と言っておきながら、バイクが堂々と基地の駐車場にあってはまずいと

思ったのである。

地上に降りると、ロビンはリモコンの自動操縦ボタンを押して、

バットヘリを基地に帰した。

「少尉殿、飛んで火にいる夏の虫です。

 ロビンの奴をとっ捕まえてやりましょう」

「いや、待て。俺に考えがある。

 あいつには中尉殿の苦しみを何万倍にして返してやらねばならない。

 ここは黙ってやり過ごすんだ」

森の中で、そんな会話がされている事など知らぬロビンは、

基地内に自分がいたぶられていた痕跡が残っていないか、丹念に調べ始めた。

そして、基地のはずれに板が突き刺しているのを発見する。

ゴキ中尉の墓標である。

「んっ?。名将の墓?。

 もしかして、ゴキ中尉の・・」

ロビンの脳裏に、散々にいたぶられ、笑い者にされた記憶が甦る。

「何だ、こんなモン!!」

ロビンは墓標を蹴り倒すと、さらに足蹴にした上、

墓標に向けて立ち小便を始めた。

「きっ、貴様、何をするかぁ!!」

戦闘員の一人が我慢しきれず、ロビンに向かって突進する。 

「ぶち殺してやる!」

他の戦闘員達も、つられるように後に続いた。

「えっ?、あっ!、わぁーーー」

ショッカーを全滅させたと思いこんでいたロビンである。

突然の襲撃に驚き、小便を垂れ流したまま逃げ出した。

「待て、こらっ!」

背後に戦闘員が迫ってくる。

間一髪、ロビンはバイクに跨ると、脱兎のごとく走り去った。