ロビン(17)

 

50人からなるクモ男中隊の戦闘員、5人のショッカー怪人とタコデビルに

取り囲まれ、絶体絶命の窮地に立ったロビン。

丸腰・丸出しの上に、足枷までされた状態で戦わねばならない。

しかし、それがロビンに開き直る機会を与えた。

「来るなら来い!。

 最初にかかってくる一人か二人は、道連れにぶち殺してやる!。

 死にたい奴は前に出ろ!!」

ロビンを取り囲んだ戦闘員達は、これまでロビンをいたぶり抜き、

すっかりロビンを舐めきったゴキ中隊の戦闘員ではない。

初めてロビンと戦うクモ男中隊の戦闘員だ。

ロビンの声に押され、戦闘員達は互いに顔を見合わせるばかりだ。

“お前、部下にどういう教育をしてるんだ”

ライオンマン大佐の険しい視線が、クモ男中尉に注がれる。

「ゴ、ゴリラ人間少尉。

 日頃の訓練の成果を大佐にお見せするんだ。

 戦闘員の指揮を執れ!」

冷や汗をかきながらゴリラ人間少尉に命ずるクモ男中尉。

“ふん。これが日頃の成果だよ”

ゴリラ人間少尉はクモ男中尉の狼狽えぶりを心の中で嘲笑しつつ、

「最初にロビンに挑んだ勇士には、一週間の休暇と金一封を授ける」と叫んだ。

「うぉー」

少々殴られるだけで、休暇と金が貰える事になった戦闘員が

ロビンに挑みかかる。

「たいした成果だよ」

ライオンマン大佐は半ば呆れながら、戦況を見守った。

最初の2〜3人は何とか殴り飛ばしたロビンだが、いかにも多勢に無勢である。

瞬く間に、仰向けに押し倒された。

だが、あまりにも多くの戦闘員が、一度に飛びかかった為に、

ロビンの上に次々と戦闘員が覆い被さっただけで、

ロビンはほとんどダメージを受けていない。

「どけよ、こら」

「そんな事、俺の上に乗っかっている奴に言ってくれ」

内輪もめまで始まった。

 

が、しばらくすると、周りが急に静かになった。

戦闘員達もロビンから離れていく。

“何があったんだ?” 

ロビンが顔を上げると、そこにはまた新しい怪人が立っていた。

「おー。取り込み中、悪いな。邪魔するでぇ」

虎の姿をした怪人、おぉっ虎仮面だ!!。

「何だ、お前は?。見ての通り・・」

一応、基地の責任者であるクモ男中尉が虎仮面の前に進み出たが、

全てを言い終わらないうちに、虎仮面に襟首を掴まれた。

「そやから『邪魔するで』て言うてるやろ。

 聞こえへんかったんかい、ボケ!」

「き、貴様。我々を何だと思っているんだ」

「んっ?。ライオンがおって、ゴリラもおるなぁ。

 あっ、分かった!。お前らがガオレンジャーか!」

「バ、バカな。我々は泣く子も黙るショッカーの・・」

「じゃかーしい!。ショッカーかジャッカー電撃隊か知らんがな。

 そんなモンが怖かったら、阪神ファンはやっとれんのじゃ!。

 ゴジャゴジャぬかしとったら、どつき倒すぞ」

虎仮面はクモ男中尉の襟首を掴んだまま、クモ男中尉の身体を持ち上げると、

地面に叩きつけた。

「そ、それで、お前は何者なんだ」

尻餅をついて倒れるクモ男中尉に代わって、今度はゴリラ人間少尉が進み出る。

「ケッ。田舎モンやのぅ。

 オシンのステンレスミサイルから世界を救ったヒーローを

 知らんちゅうんか」

「ぷっ。ステンレスミサイル?。

 台所でも破壊するのか」

“あれ?。たしかそんな名前やったんやけどなぁ”と思う虎仮面だが、

そんな事で怯む男ではない。

今度はゴリラ人間少尉の襟首を掴んだ。

「兄ちゃん。いちびっとったらあかんぞ。

 30世紀から地球を守ったヒーローを舐めとんのか」

「30世紀・・。それではお前があの・・、

 ユニレンジャーか!」

バシッ!!。

虎仮面の鉄拳がゴリラ人間少尉の顔面に炸裂する。

「ゴジャゴジャぬかしとったら、どつき倒すぞって言うたやろ。

 こっちは道を聞きたいだけなんじゃ。

 ニューヨークはどっちやねん。

 阪神から脱走した新庄を探しとんのや」

突然の事に唖然とするショッカーの面々。

「貴様、どこの世界にショッカー相手に因縁を付ける奴がいるんだ。

 えぇい、戦闘員。何をしている。かかれ!」

ライオンマン大佐が、虎仮面に襟首を掴まれないよう、

少し離れたところから命令を出す。

「ほう、やる気やな。

 受けて立つとうやないかい。

 タイガーバーム!」

虎仮面の口から黄色いガスが発せられる。

あまりの悪臭に、次々と倒れる戦闘員。

「ふふふ、とんだ邪魔が入ったようだな。

 俺が始末してやる」

タコデビルの足が静かに虎仮面に近づき、右手に巻き付いた。

だが、虎仮面は怯まない。

「こら、タコ。舐めたマネしてくれるやないかい。

 美味そうな足しやがって、明石焼きにしてもたるぞ」

左手で、右手に巻き付いたタコデビルの足を掴むと、

力一杯、振り回し始めた。

残りの怪人や戦闘員が、タコデビルの身体をぶつけられ、

弾き飛ばされていく。

最後に、虎仮面はタコデビルの足を放り投げた。

木にぶつけられるタコデビル。

しかし、軟体動物のタコデビルである。

目を回しただけで、すぐに立ち上がった。

それでも虎仮面の攻撃は続く。

「ユニカッター」

銀色の光がタコデビルの足を切り裂いていく。

「日本のダチに教えてもろた技や。

 こらタコ。まだ、やるんかい」

「うぅっ。くそー」

足を切り落とされ、胴体だけになってしまっては

タコデビルに勝ち目はない。

這うようにして逃げ出した。

「カーネルサンダー」

わずかに残った戦闘員にも、虎仮面必殺の電撃波が浴びせられる。

 

一瞬の出来事に、ロビンはただ呆然とするばかりだ。

周りにはうち倒されたショッカーの怪人や戦闘員が

倒れ込んでいる。

「おっ、ユニレンジャーみたいな奴がおるやんけ。

 お前も正義のヒーローか」

虎仮面に声をかけられ、ロビンはようやく我に戻った。

「は、はい。ロビンといいます。

 宜しくお願いします」

ロビンは恐ろしさのあまり、そう言うのがやっとだ。

「まぁ、お前ももっと修行を積む事やな。

 一人前になりたいんやったら、もっとがんばることや」

「はい。一生懸命、がんばります」

「そやけど、一つだけ教えといたる。

 『努力』ちゅうのは、後々金利がついて返ってくる『貯金』とは違う。

 元本の保証のない『投資』や。

 時間や労力、時には金をつぎ込んで、自分に投資するのが努力や。

 そやから、『努力したから成功する』事はあっても、

 『努力したら成功する』ちゅう事やない。

 そこに、人生の難しさ・厳しさがあるんや。

 よう覚えとけよ」

「は、はい。ありがとうございました」

 

虎仮面が去り、再び我に戻ったロビン。

周囲に倒れ込んでいる怪人や戦闘員を前に、

これからの事を考えた。

 

【第一案:人質になっている人たちを救出する】

 ヒーローとしては、迷う事なくそうすべきであろう。

 だが、ロビンはすぐにこれを却下した。

 “ダメだ。今の僕はパイパンにされて、下半身丸出しなんだ。

  こんな格好で、助けにいけるはずがない”

 “そうだ!。タコデビルに連れてこられる時、

  司令室から『ロビンのコスチュームを新調した』という話が聞こえてきた”

 

【第二案:コスチュームに着替えてから助けにいく】 

 しかし、ロビンはこれも却下した。

 “ここに倒れている連中は、ほとんど気を失っているだけだ。

  人質を救出して逃げるまでに、相当数が意識を取り戻すだろう。

  そいつらと戦っても、また負けてしまう。

  しかも、今度は人質の前で痛めつけられて、恥をさらす事になる”

 

【第三案:コスチュームに着替えて、速攻で逃げる】

 “これがいい!。

  ともかく、敵の基地を発見したのは僕の手柄として残るし、

  バットマンに連絡して来てもらえば、人質も解放される”

 

ロビンはそう決めると、司令室に飛び込んだ。