ロビン(18)

 

“僕は逃げるんじゃない。助けを呼びに行くんだ。

 人質の為にも、その方が良いに決まっている”

カメレオーン中尉が用意したコスチュームに身を包んだロビンは、

自分にそう言い聞かせつつ、司令室を後にした。

外では、まだショッカーの連中が倒れたままだ。

「うぅっ」

突然、呻き声が聞こえた。

ロビンはギクッとして声の方向を見る。

カメレオーン中尉だ。

頭を抱えて、起きあがろうとしている。

“やばい!!。早く逃げなければ”

だが、ここでロビンは、ゴキ中尉が倒れている側に、

バットレーザーを見つけた。

咄嗟の判断だった。

ロビンはレーザーに走り寄ると、レーザーをカメレオーン中尉に向け、

引き金を引いた。

青い光がカメレオーン中尉の顔面に命中する。

「うっ」

声もなく倒れるカメレオーン中尉。

“やった。やったぞ!。やったんだ!!”

この瞬間、ロビンの脳裏に『ヒーロー』の四文字が映し出される。

“そうだ、この調子でショッカーの連中をやっつけていけばいいんだ。

 そうすれば、そうすれば・・ヒーローになれる!!”

 

ここから、ロビンの涙ぐましい努力が始まった。

一人一人の生死を確かめ、生きている者はレーザーで息の根を止めていく。

しかも、“まだ、試作段階なので何度も撃てない”という

バットマンの言葉を思い出したので、2〜3人を横に並べて

一発で仕留めるという念の入れようだ。

 

「ヨシ。終わった」

ようやく全員の息の根を止めると、ロビンは人質の救出に向かった。

収容所の鍵を壊し、中に入る。

そこでは、疲れ切った人質達が狭い部屋に閉じ込められていた。

「みなさん、僕が助けに来ました。

 安心してください。

 ショッカーの連中は、みんなやっつけましたから」

最初は“信じられない”という様子で、互いに顔を見合わせていた人質達。

だが、すぐに歓声がわき起こる。

「ありがとうございます」

「あなたは私たちの救世主です」

ロビンは握手責めにあった。

「さぁ、新手が来るといけない。(僕にとっても)

 早くここから脱出しましょう」

ロビンは人質達を促し、外に出た。

外にはショッカーの怪人や戦闘員の屍が山と築かれている。

「す、すごい!」

「これはみんな、ロビンさん一人で倒したんですか」

「えぇ、まぁ。

 さっ、そんな事より早く行きましょう」

賞賛の声を浴びるのは嬉しいが、万一、息を吹き返す者がいては困る。

ロビンは人質達を急かした。

しかし、ロビンの不安は、ロビンにとって良い方向で的中する。

息を吹き返した者がいたのだ。

数人の戦闘員、それにライオンマン大佐とゴキ中尉だ。

「き、貴様!。逃がさんぞ」

ロビンの前に立ちはだかったライオンマン大佐だが、動きが鈍い。

「まだ生きていたか、これでも食らえ!」

レーザーがライオンマン大佐の心臓に命中する。

続いて、ロビンはゴキ中尉にもレーザーを浴びせた。

「ぐえっ」

「うぅっ」

レーザーが命中するたびに、呻き声をあげるゴキ中尉だが、

さすがに生命力が強い。

蜂の巣にされながらも、少しずつロビンに歩み寄ってくる。

ついにレーザーのエネルギーが切れた。

「くそー」

ロビンはレーザーを放り投げると、散々にいたぶり抜かれた恨みを込めて、

回し蹴りをゴキ中尉の顔面に炸裂させた。

「ぐわっ」

ついに倒れるゴキ中尉。

残るは戦闘員だけである。

数人の戦闘員が相手なら、レーザーは要らない。

ロビンは簡単に叩きのめした。

その瞬間、人質達から拍手が起きる。

 

人質達を連れ、ゴッサム渓谷から脱出したロビンは、

ゴッサム市民の熱烈な祝福を受けた。

人質達は我先にロビンの活躍を語り、

マスコミは『ニューヒーローの誕生』を伝えた。

 

この時、ゴキ中隊の生き残りがロビンへの復讐を誓い合っていた事を

ロビンが知る由もなかったが・・。

「中尉殿」

「ゴキ中尉殿」

ゴッサム渓谷の異変に気づいたゴキ中隊の面々が

ゴッサム山を下りてくる。

先頭には、少尉に昇進したばかりの忍者仮面少尉もいる。

彼らはクモ男中尉の基地に到着するや、

その惨劇に我が目を疑った。

ライオンマン大佐をはじめ、5人のショッカー怪人、50人の戦闘員が、

枕を並べて倒されている。

「誰だ、誰がこんな事を」

「いや、今はそんな事はどうでも良い。

 中尉殿を探すんだ!」

「少尉殿、早く来てください。

 中尉殿が見つかりました!」

蜂の巣にされたゴキ中尉の周りに、ゴキ中隊の面々が集まった。

「すまん、どいてくれ」

戦闘員をかき分けて、忍者仮面少尉が進み出る。

「中尉殿、大丈夫でありますか」

「くっ。おいおい、これで大丈夫なわけがないだろう」

何という生命力か。

蜂の巣にされながらも、まだ命の灯はともっていた。

「生命力が強すぎるというのも考え物だ。

 簡単に楽にはなれんのでな」

「何を仰いますか、中尉殿。

 中隊の指揮はまだまだ・・」

「いや、俺はもう良い。もう疲れたよ。

 思うようにならない事ばかりの人生だった。

 最後ぐらい、ワガママを聞いてくれ」

「中尉殿!」

「基地の俺の部屋の机の引き出しに、貯金通帳が入っている。

 俺の全財産だ。階級に関係なく、みんなで分けてくれ。

 その金で堅気になれる奴がいたら、応援してやって欲しい。

 戦闘員60号は手先が器用だ。職人として十分やっていけるだろう。

 87号も病持ちだから、できれば正業に就けさせてくれ。

 それから・・、それから・・。ゴホッ」

ゴキ中尉は苦しそうに血を吐いた。

「中尉殿。もうお話にならない方が・・」

「ははは。今しゃべっておかないと、明日は土の下なんでな。

 忍者仮面、最後の頼みだ。

 良い指揮官になってくれ。

 部下が“こいつになら俺の命を預けられる”、

 そう思える指揮官になってくれ」

「承知しました」

「ありがとう。

 まだまだ話足りないし、思い残す事もいろいろあるが、

 お迎えが来たようだ。

 44号の作る料理は絶品だったし、13号はムードメーカーとして

 中隊を支えてくれた。

 みんな・・、みんな良い奴だった」

最後まで部下を想い続けた中隊長が世を去った。

「中尉殿」

忍者仮面少尉をはじめ、戦闘員達もがっくり膝を着いて泣き崩れる。

 

一方、一躍ヒーローになったロビンは、疲労を理由に自室に籠もっていた。

たしかに疲れていたのも事実だが、ロビンにはやらねばならない事があったのだ。

最初にS17地区から人が誘拐されたのが一週間前。

実際には、ロビンもその日のうちに捕まって、3日間は誘眠剤で眠り続けた。

丸一日、嬲り者にされた後、人質の事など忘れて逃走。

道に迷って、また3日間を山中で過ごしたわけである。

人質の救出にしても、“助けに来た”というよりはタコデビルに捕まって

“連れてこられた”のが事実である。

 

“そんな事、人に言えるか!!”

ロビンは疲れた頭脳をフル回転させ、辻褄合わせのストーリー作成に格闘した。