ロビン(16)

 

洞窟の中で、タコデビルに追いつめられたロビン。

「嫌だ!。来るな、来ないで!」

ロビンは近くにあった小石をタコデビルに投げながら

少しずつ後退する。

無論、そんな抵抗で怯むタコデビルではない。

タコデビルの4本の足が、ロビンに向かってスルスルと伸びた。

それぞれの足が、ロビンの両手両足に巻き付く。

「や、やめろー」

もがけど叫べど、ロビンの自由は完全に奪われる。

タコデビルは4本の足でロビンの身体を吊り上げると、

さらに別の足で、ロビンの尻を叩き始めた。

「あぁ」

叩かれる度に、身体をのけぞらすロビン。

「ははは。痛いか。苦しいか。恥ずかしいか。

 お前など、バットマンの尻に敷かれていれば良いものを、

 出過ぎたマネをするから、こういう事になる。

 もっと苦しむが良い」

さらに、タコデビルの足がロビンをむち打った。

 

「いったい、ゴッサム地方支部はどうなっているんだ!」

クモ男中尉の司令室に集められた支部の三人の士官

(クモ男中尉・ゴキ中尉・ゴリラ人間少尉)を前に、

ライオンマン大佐は言葉を荒げていた。

「ゴキ中尉。ロビンはまだ見つからんのか」

「はい。ゴッサム森林からは出ていないと思われますので、

 全力で捜索しております」

「捕虜に逃げられたんだ。全力で捜索するのは当然だろ!。

 こっちは、カメレオーン中尉をロビンに化けさせてバットマン基地に潜入させるべく、

 あいつのコスチュームまで新調してきたというのに!」

「まったくです。私など、ロビンの詳しいデータを調べる為に、

 随分、苦労したんですからね。

 何せ親衛隊の一員として、失敗は許されませんから」

カメレオーン中尉が口を挟む。

だが、話が長くなると思ったのか、ライオンマン大佐は話題を変えた。

「クモ男中尉。工事の進捗はどうか」

「はっ。そ、それは工事責任者のゴリラ人間少尉から報告させますです」

ゴキ中尉が叱責されるのを気持ちよく聞いていたクモ男中尉だが、

自分に矛先が向けられた途端、顔を青くする。

「俺はお前に聞いているんだ」

「はぁ、あの30%程度の遅れかと・・」

「何だ。お前はちゃんと把握していないのか。

 全く、どいつもこいつも。

 モス少佐はどういう教育をしていたんだ。

 だいたい、化学工場を襲う話にしても、こっちには何の連絡もなかったんだぞ」

“なに?。では、劇薬を奪ったのは、モス少佐の独断だったのか。

 いったい何の為に?”

不審に思うゴキ中尉だが、答えのでないまま、事態は新たな展開をみせた。

 

司令室のドアがノックされた。

「大佐殿。タコデビルがロビンを捕まえて現れました」

「タコデビル?。あぁ、あの風来坊の怪人か。

 ヨシ。一度、会ってみよう」

戦闘員の報告を受け、5人の士官が外に出る。

兵舎の前には戦闘員が集まっており、その中央には、足をロビンの上半身に巻き付けた

タコデビルの姿があった。

ロビンは膝立ちの姿勢だ。

ライオンマン大佐を先頭に、5人の士官が戦闘員をかき分けて、前に進む。

「こ、これがロビンなのか?!」

ブーツを履いただけの素っ裸、しかもパイパンのロビンを見て、

ライオンマン大佐が驚くのも無理はない。

「まったく、実に情けないヒーローですな。

 私の知る限りでは、本部のコンピュータにも、このようなデータは

 入っていないでしょう。

 百戦錬磨のゴキ中尉ともあろう人が、こんな男に逃げられるとは」

実戦経験の乏しいカメレオーン中尉は、ロビンの姿に安心したのか、

イヤミを言う余裕もみせる。

「君がタコデビルか。

 ロビンを捕まえてくれた事に礼を言う。

 私はライオンマン大佐、ショッカー北米支局の・・」

「肩書きはいい。

 俺は、こんなガキがヒーロー面をしているのが、気に入らないだけの男だ。

 こいつはお前達にくれてやる。

 煮るなり焼くなり、好きにするんだな」

タコデビルはそう言うと、ロビンの身体に巻き付けていた足を解いた。

支えを失ったように前のめりになるロビン。

「小僧、そういう事だ。

 お前も覚悟を決めるんだな」

ピシッ。

四つん這いになったロビンの背中を、タコデビルの足が打ち据えた。

「あぁっ」

“もうダメだ。今度こそ嬲り殺しにされる。

 チキショー!、同じ殺されるんだったら!”

ロビンも覚悟を決めると、最後の力を振り絞って、ライオンマン大佐めがけて

頭から体当たりを食らわした。

「ぐわっ」

突然の攻撃を受け、仰向けに倒れるライオンマン大佐。

ロビンは倒れたライオンマン大佐の上に馬乗りになり、

ライオンマン大佐の首を締め上げた。

だが、“窮鼠、猫を噛む”という言葉はあっても、

“窮鼠、獅子を噛む”とは言わない。

まして、獅子の他に、ゴリラも、ゴキブリも、タコも、クモも

カメレオンもいるのだ。

「貴様、往生際が悪いぞ!」

武倒派・ゴリラ人間少尉の蹴りを脇腹に受けて、地面を転がるロビン。

さらに、ゴキ中尉がロビンの背中に馬乗りになり、腕を締め上げる。

「大佐殿、大丈夫でありますか。

 私が命に代えてお守りいたします」と駆け寄ったクモ男中尉の手を振り解いて

ライオンマン大佐も立ち上がる。

「くそ、基地の在処を喋れば、命ばかりは助けてやるつもりだったが、

 もう容赦はしない!。

 ここで嬲り殺してやる」

 

10分後。

ロビンは絶体絶命のピンチに立たされていた。

両手は自由であったが、足には足枷をされ、50人からなるクモ男中隊の

戦闘員達に取り囲まれている。

「ロビン、武士の情けだ。

 お前にも“戦って死ぬ”名誉だけは与えてやる。

 戦闘員。ロビンを殴って殴って、殴り殺してしまえ!」

ついにライオンマン大佐の命令が下った。