ロビン(15)

 

「おらおら。いつまで寝てるんだよ!」

戦闘員からの散々ないたぶりを受け、ぐったりしていたロビンだったが、

わずかな休息も、戦闘員の蹴りによって破られてしまう。

ロビンが目を開けると、数人の戦闘員がロビンを取り囲んでいた。

「お前よぉ。いつまでションベンに漬かってるつもりなんだ。

 くせ〜んだよ、バカ!」

戦闘員がロビンの首の辺りにあったゴミ袋の結び目を解いた。

「さぁ、さっさと出てこい」

“出てこい”と言われて、後ろ手に縛られているのである。

思うように動きが取れない。

戦闘員に、また背中を蹴られ、のそのそと芋虫のように外に出るロビン。

「ほらほら、その薄汚い身体をきれいにしてやるよ」

今度は、戦闘員達からバケツで水をかけられる。

「ヨシ。少しはきれいになった。

 その汚いゴミ袋、兵舎の裏にゴミ箱がある。

 そこに捨ててこい」

両手を縛っていたロープも解かれた。

「おい。さっさと立って、捨ててくるんだよ」

戦闘員がロビンの髪を掴んで、ロビンを立たせる。

タコデビルに捕まったからというもの、何も食べていないばかりか、

やりたい放題のいたぶりを受けたロビンである。

立っているのがやっとの状態だ。

「ったく、だらしのない奴だぜ。

 チンチン丸出しで恥ずかしくないのかよ」

「まったくだ。バットマンがいなければ、何も出来ない弱虫なんだ」

調子に乗った戦闘員が、ロビンのチンポを鷲掴みにした。

「うっ」

両手の拳を握りしめ、屈辱に耐えるロビン。

だが、戦う気力を失った今のロビンは、ただ耐えるだけだ。

今度は別の戦闘員が、ロビンの乳首をつねってきた。

「ははは。ロビンの奴、少し勃起し始めたぞ」

「まったく情けない小僧だぜ」

戦闘員に取り囲まれていたぶられるロビンに、ヒーローの面影もない。

「ヨシ。また後で可愛がってやる。

 早くゴミ袋を始末してこい」

 

戦闘員に命令され、ゴミ袋を捨てに行くロビン。

ゴミ箱は兵舎の裏にあった。

兵舎の裏は簡単なガレージになっていて、ジープが何台か並んでいる。

人影はない。

そして、その横に自分のバイクが置かれているのを、ロビンは見つけた。

“罠じゃないのか”

そう思いつつも、近づいてみる。

キーはブーツの中に隠してあった。

無線やレーザーはなかったが、ジープの一つの中から、

ボロボロのジーンズも見つかった。

バイクとジーンズ、ともかくこれがあればゴッサムシティに

逃げ込んだとしても格好はつく。

“このまま逃げるか。

 だが、もし捕まったら・・。

 どうしよう・・。逃げ通せるんだろうか・・”

 

「バイクの音がしないが、あいつ逃げたのかな」

しばらくして、戦闘員の一人が仲間に話しかけた。

「たぶん、バイクの音で我々に気づかれると思って、

 坂の下まではエンジンを駆けずに逃げたんじゃないか」

「なるほど。一理ある。

 それじゃ、そろそろ見に行くか」

先ほどの戦闘員達は、連れだって兵舎の裏に回った。

が、何とそこにロビンがいたのだ。

どうやら、逃げる事さえ出来ず、バイクの前で迷っていた様子だ。

“ちっ、どこまで世話の焼ける奴なんだ”

「こら。そこで何をしている!」

戦闘員が怒鳴ると、ロビンの顔が見る見る青ざめた。

「何をしていると言っているんだ!」

戦闘員が歩み寄る。

「うっ。うわぁー」

突然、ロビンは手にしていたジーンズを放り出すと、

フリチンのまま、走って逃げ出したのだ。

唖然とする戦闘員達。

だが、ロビンの予想以上にみっともない行動が、戦闘員達の思考を鈍らせた。

バットマン基地を探る為の発信器は、バイクに仕掛けてある。

それが走って逃げられたのでは、全く用をなさないのだ。

「ま、まずい。

 ロビンを追え!。

 俺は中尉殿に報告する」

ようやく事態に気づいた時には、ロビンは森の奥に逃げ去っていた。

 

「どういう事なんだ、これは!」

クモ男中尉は、ショッカー本部から届いたロビンの引き渡しを却下する通信文を手に、

怒りに震えていた。

「お前が大丈夫だと言ったから任せたんだぞ。

 士官学校の人脈はどうしたと言うんだ」

怒鳴りつけられているのはゴリラ人間少尉である。

「ですから、ゴキ中尉がバットマン基地探索の手を打っていたんですよ。

 それをショッカー本部も・・」

「だから、それをお前の人脈でどうにかするという話ではなかったのか。

「いや、そういう話では」

「まぁ、それはもういい。

 そんな事より、工事の方を急いでくれ。

 北米支局のライオンマン大佐が視察に来るらしい。

 それまでには、何とか格好だけでもつけておくんだ」

ゴリラ人間少尉は心の中で舌打ちした。

“工事の遅れは俺の責任かよ”という想いがある。

そしてそれ以上に、本部勤務の同期の桜が

自分の要請に応えてくれなかった事がショックだった。

“こんな地方支部なんかに回されなければ・・”

「おっ、そうだ。

 ライオンマン大佐には、親衛隊のカメレオーン中尉が随行するそうだ。

 たしか、士官学校の同期らしいなぁ、中尉とは。

 まぁ、その時は時間を取ってやる。

 ゆっくり中尉殿との旧交を温めるんだな。

 ははははは」

 

「困った事になったものだ」

ロビンを逃がした戦闘員の報告に、ゴキ中尉は顔を曇らせた。

「とにかくロビンを探すんだ。

 戦闘員51号、お前はすぐにここを離れて、

 ショッカー本部に行って手術を受けてこい。

 ここにいては、お前も責任を問われる可能性がある」

「しかし、中尉殿」

「命令だ!。

 今回の責任は、功を焦った俺にある。

 まぁ、俺は士官だから、左遷ぐらいで済む。

 お前も早く手術を受けて、士官になってしまうんだ」

 

やがて3日が過ぎた。

秘密基地の建設工事は遅々として進まず、ロビンも発見できぬままだ。

クモ男中尉・ゴリラ人間少尉・ゴキ中尉、みんなが困っていた。

そして、逃げ出したはずのロビンも困っていた。

森の中で道に迷ったのだ。

今は洞窟を見つけて身を隠している。

昼間はゴキ中隊の探索を恐れて洞窟で息を潜めて過ごし、

夜になると外に出て、野草を食べて飢えを凌いでいたのだ。

3日目の夜である。

ロビンは今日も食用になる野草を求めて、洞窟を出ようとしていた。

一応、飢えは凌いでいるとはいえ、体力の衰えは著しい。

ほとんど這うようにして、洞窟の出口に進む。

曇っているのか、周囲は真っ暗だ。

“ヨシ、いいぞ。これなら戦闘員に見つからなくて済む”

が、ロビンが洞窟の出口にさしかかった時、雲が晴れて月明かりが差した。

そして、月明かりに映し出されたのは、タコデビルの姿だったのだ。

「ひぇっ」

無様にも尻餅を付いて倒れるロビン。

「ここにいたのか、ロビン。

 迷子になったんだな。

 ゴキのところに連れて行ってやろう」

タコデビルがゆっくりと近づいてくる。

「うわぁっ、来るな!。

 やめて、やめてくれ!。

 あそこに帰りたくない」

ロビンは尻をついたまま後ずさりする。

だが、タコデビルはそんなロビンの怯えた顔を楽しむかのように、

少しずつ距離を詰めていった。