ロビン(13)

 

ロビンの処刑の時が来た。

ロビンの首に巻かれたロープは、斜め上の檻の上部に結ばれている。

このまま、階段の外に突き落とされれば、助かる見込みはない。

 

「中尉殿。後始末の準備も出来ました」

階段の下から戦闘員の声がした。

ふと見ると、ロビンが吊される場所の下では、

二人の戦闘員が大きなゴミ袋を広げている。

「ははは。ゴキブリという生き物は、世間で思っている以上にきれい好きでな。

 死んでからの後始末もキチンとしてやる。

 安心して死ぬが良い」

“うぅっ。死んでまでも愚弄されるのか”

ロビンの顔が怒りに震える。

「貴様っ!」

ロビンは叫んだものの、両手を後に縛られた上、

左右を戦闘員に固められていては、手も足も出せない。

「ところで、中尉殿。ロビンは『燃えるゴミ』でよろしいのでしょうか?」

ゴミ袋を持った戦闘員だ。

「おぉっ、そうだ。分別回収の時代だからな。

 まぁ、『ヒーロー廃棄物』と言いたいところだが、

 そういう区分もあるまい。

 取りあえずは『粗大ゴミ』にしておけ。

 あぁ、待てよ。死体は腐るなぁ。

 『生もの』と書くのも忘れるな」

身動きできないロビンを、最後までいたぶり抜くゴキ中尉。

「さぁ、これで準備万端整った。

 処刑開始だ。

 ロビンをそこから放り投げてやれ」

ゴキ中尉の命令で、別の戦闘員がロビンの両足を持ち上げる。

“あぁ、いよいよ最後か”

ロビンの脳裏に、サーカス時代の楽しかった思い出がよみがえる。

「お、お母さん」

閉じた目から、また涙が溢れた。

「中尉殿ぉ〜。

 ロビンが『お母さん』と言って、泣いておりま〜す」

戦闘員から嘲笑が起きる。

「おい、ロビン。

 そこで『ママ、助けてぇ〜』って、叫んでみろ」

さらに大きな笑い声が起きた。

 

最後の最後まで、戦闘員の笑い者になるロビン。

ゴキ中尉もいささかあきれ顔だ。

「ははは。女々しい奴。

 早く楽にしてやれ」

「はい。せぇ〜の」

戦闘員の掛け声とともに、ロビンの身体が宙を舞った。

「あぁ〜」

堅く目を閉じるロビン。

だが、ロビンの首に巻かれたロープが張りつめた時。

プチン。

ロープはあっけなく切れた。

すべてはロビンを極限まで追い込む為の策略だったのだ。

ロビンはそのままゴミ袋の中に転落し、尻餅をつく。

ゴミ袋を広げていた戦闘員は、ロビンが中に放り込まれると、

すぐに袋を閉じ、ロビンの首の位置でゴミ袋を縛った。

ロビンは首から上を外に出した格好で、ゴミ袋に詰め込まれたわけだ。

「あっ、あぁ〜〜。

 中尉殿。ロビンの奴、今度は小便を漏らしました」

そう。ロビンは恐怖のあまり、失禁してしまったのだ。

ゴミ袋に入れられて、泣きながら小便を漏らすロビン。

戦闘員の笑い声がゴッサム山に響いていた。

 

その時、ロビンの涙雨であろうか、曇った空から雨が降り出した。

「くそー、せっかくの宴会というのに・・。

 仕方ない。今日のところはお開きにしよう。

 みんな、今日はゆっくり休んでくれ」

ゴキ中尉の言葉に、散々にいたぶられたロビンは安堵したが、

ロビンへのいたぶりはまだ終わってはいなかった。

「おい。俺はさっき、ロビンに“きれい好き”と言ったんだ。

 ちゃんと後片付けするんだぞ。

 残ったビールがあれば持って来い」

戦闘員達は、残飯はポリバケツに捨て、飲みかけのビールは何本かのビール瓶に戻して、

ゴキ中尉のところに持っていく。

「そら、ロビン。

 お前も腹が減っているだろう。

 それに、だいぶ運動して喉も渇いたはずだ。

たっぷり飲ませてやるからな」

ゴキ中尉はロビンの鼻を摘んで口を開けさせると、

手渡されたビール瓶を突っ込んだ。

「さぁ、好きなだけ飲め」

「イッキ、イッキ」

戦闘員達も囃し立てる。

鼻を摘まれ、満足に呼吸できない状態のロビン。

ビールはほとんどこぼしてしまうが、それでもかなりは飲まされた。

「ヨシ。次は食事だ。

 好きなだけ食って良いからな」

戦闘員は二人がかりでロビンの両脇を掴むと、

横倒しにしたポリバケツの中に、頭から突っ込んだ。

ロビンは首から下をゴミ袋に入れられ、肩から上を残飯の入ったポリバケツに

突っ込まれたわけだ。

ポリ袋には、ロビンが垂れ流した小便が残っている。

「ははは。ロビンの残飯&ションベン漬けだ。

 明日になったらどうなっているか、楽しみだ」

 

降りしきる雨の中、ロビンは残飯を枕に眠りに入っていた。

残飯の中に突っ込まれるのは屈辱ではあったが、ともかく雨を凌ぐ事は出来る。

そして何より、ロビンは疲れていた。

身も心も疲れていたのである。

 

ロビンが雨ざらしにされている頃、ゴキ中尉は昇進の決まった戦闘員の一人を

自室に招いていた。

「戦闘員51号、お前の今の階級は曹長だから、今度の昇進で少尉になる。

 士官以上は怪人の改造手術を受けねばならないのは知っているな」

「はい」

「うん。お前には副隊長として、中隊をまとめてもらわねばならない。

 それに、俺に万一の事があれば、お前が中隊の指揮を執る事になる」

「い、いえ。まさかそんな事は・・」

「いや、副隊長になる以上、その“まさか”の話をしておきたいんだ。

 実は気になる事があってな。

 モス少佐が死んで、いろいろ分からない事が出てきた」

「とおっしゃいますと」

「まず、モス少佐が奪った劇薬だが、少佐は何の目的で劇薬を奪ったか、

 そして、それは今どこにあるか。

 第二に、モス少佐が劇薬を奪った時、バットマンとロビンで少佐を挟み撃ちにする

 つもりだったらしいが、バットマンはタコデビルに阻止され、

 待ち伏せするはずだったロビンは、逆にクモ男に待ち伏せされた。

何故、バットマン達の動きが分かったのか」

「つまり、モス少佐とタコデビルは繋がりがあるという事ですか」

「さすがにお前は物わかりが良い。

 俺も、少佐とタコデビルが連携して、バットマン達を罠にかけたと思っているのだが、

 そこで第三の疑問、タコデビルとは何者かという事になる」

「クモ男中尉は何か知っていないのですか」

「いや、何も知らないようだ。

 あいつは脳天気な男だからな。

 少佐も信用していなかったのだろう。

 ロビンを待ち伏せしたのも、少佐に命令されて出かけただけのようだ」

「しかし、中尉殿。

 その話と中尉殿に万一の事が起きる話とは、どう関係するのですか」

「或いは関係がないのかも知れん。

 だがな、ゴキブリというのは外敵に敏感な生き物でな。

 感じるんだよ、強大な力が近づいている事を・・」