ロビン(9)

 

「さて、そろそろ我々の基地にご案内しようかな、ロビン」

ゴキ中尉の合図で、戦闘員はロビンを立たせた。

さらに後ろ手に縛り上げる。

股間は全くの無防備だ。

「ふふふ。その姿を多くの戦闘員の前に曝すのも恥ずかしかろう。

 武士の情けだ。

 下着だけは着けさせてやる。

 お前に似合いそうな物を選んでやったぞ」

ゴキ中尉はそう言って、ロビンにピンクのパンティを見せた。

戦闘員の間から、思わず失笑が漏れる。

「どうだ。お前にはピッタリだと思うがな。

 まぁ、嫌なら嫌で良い。

 今のまま、引き立てるまでだ」

「好きにしろ」

ロビンは吐き捨てるように答えた。

「可愛気のないガキだな。

 だが、せっかくだから穿かせてやれ」

パンティを持った戦闘員が、ロビンに近づいてくる。

“チャンスだ”とロビンは思った。

パンティを穿かせるには、どうしてもチェーンの付いた足枷が邪魔になる。

“足枷さえなければ、むざむざやられる僕ではない”

足枷が外された。

が、足枷が外されても、ロビンは攻撃に出なかった。

いや、攻撃できなかった。

文字通り、“足が竦んだ”のだ。

ふと顔を上げ、ゴキ中尉の様子を見る。

ゴキ中尉と視線があった。

“小僧、抵抗できるものならやってみろ”

ゴキ中尉に不敵な笑みが浮かぶ。

ロビンは怯えたように視線を落としてしまった。

敗北の瞬間だった。

ロビンが一人で怪人と戦う事は、これまでにはほとんどなかった。

それが、クモ男中尉には逆さ吊りにされ、

タコデビルには散々に痛めつけられた挙げ句、ドラム缶に放り込まれる屈辱を受けた。

ロビンにとって、それは認めたくはない力の限界だった。

そして今、ロビンは精神的にも敗北させられたのだ。

 

「ヨシ。足をあげろ」

戦闘員に命じられるまま、ロビンは片足ずつ足をあげる。

ついに反撃できぬまま、ロビンはパンティを穿かされ、

足枷も再び付けられた。

「よく似合っているぞ、ロビン」

爆笑の渦が起きる。

嘲笑の声の中、ロビンは赤らめた顔を伏せ、じっと耐えるしかない。

「お前も、もっと骨のある奴だと思ったがな。

 所詮、バットマンの雑用係か」

ゴキ中尉の言葉が、さらにロビンの心を傷つけていった。

 

いよいよロビンが小屋から引き出される。

小屋の外には、数台のジープに乗った20人ほどの戦闘員が待機していたが、

ロビンが連れ出されると、一斉に視線を向け、その姿に嘲笑を浴びせた。

「おい、変態少年。

 お前、そんな趣味があったのか」

「今度から、マスクの代わりにパンティを頭からかぶって出てこい」

様々な罵声も飛んでくる。

戦闘員は、さらにロビンに首輪を填めると、それに繋いだロープを

先頭のジープに結んだ。

 

「ヨシ。出発だ」

ゴキ中尉の乗った先頭のジープが出発する。

それに引かれて、ロビンも歩き出した。

だが、鉄球の付いた足枷も填められたままのロビンである。

普通に歩くのと比べても遅いスピードだ。

「おらおら、速く歩けよ」

「そんな事だから、いつもいつも捕まってばかりなんだよ」

「せいぜい足を鍛えて、俺たちの姿を見かけたら、

 一目散に逃げ出せるようにしておけ」

囚われの身となり、恥ずかしい姿を曝された上、

戦闘員の笑い者にされるロビン。

だが、ロビンの遅い歩みに業を煮やした何人かの戦闘員は、ジープから降りてくると、

「ほらほら、さっさと歩くんだよ」

「グズグズするんじゃねぇ」などと怒鳴りながら、

ロビンの尻を蹴ったり、無防備な股間を小突いたりする。

抵抗の術のないロビンは、ますます惨めな想いになった。

 

「これからゴッサム山に入る。

 その前に小休止だ」

ゴキ中尉の命令でジープが止まると、ロビンはその場に膝をついた。

鉄球を引きずって森林の中を歩かされたのだ。

足はフラフラの状態である。

だが、戦闘員はそんなロビンにも容赦がない。

「こいつ、ノロノロ歩きやがって」

怒鳴りながら、ロビンを背中から蹴り倒す。

他の何人かの戦闘員も、ロビンの周りに集まって、

蹴り倒されたロビンを見下ろしている。

「中尉殿ぅ。どうします。

 こんな奴、連れて歩いていたんじゃ、基地に戻るまでに日が暮れてしまいますよ」

「そうだなぁ、これから上り坂に入るし、天気も悪くなりそうだしなぁ」

ゴキ中尉は空を見上げる。

たしかに雲行きが怪しい。

ゴキ中尉が思案していると、山道を一台のバイクが降りてきた。

「中尉殿。ショッカー本部からの連絡であります」

バイクの戦闘員はゴキ中尉の前に進むと、ショッカー本部からの通信文を手渡した。

「ふむふむ、よしよし」

通信文を読むゴキ中尉は、見る見る笑顔に変わっていく。

「みんな、良い知らせだ。

 戦闘員25号・42号・51号、お前達はロビンを捕らえた功績により、

 昇進が決まった。

 我が中隊にも報奨金が出るそうだ」

戦闘員達から歓声が起きる。

「ヨシ、今日は祝賀会だ。

 みんなでパァ〜ッといこう」

再び歓声が起きた。

「そうと決まれば、善は急げだ。

 ロビンのお陰で仲間の昇進も決まった事だし、こいつにも恩赦を与えてやろう。

 足枷を外してやれ」

「大丈夫でしょうか、中尉殿」

「ははは。心配するな。

 足枷を外したところで、あんな奴に何が出来るか」

ゴキ中尉は、戦闘員に蹴り倒され、地面にうずくまったままのロビンに向かって

顎をしゃくってみせた。

実際のところ、3日間もニンゲンホイホイの誘眠剤で眠らされた上、

長い時間、鉄球を引きずって歩かされてきたのである。

足枷を外されたとはいえ、身も心も敗北したロビンに戦闘能力はなかった。