ロビン(8)

 

「ゴキ中尉、本日は350人を捕獲しました。

 これで合計1000人を捕獲した事になります」

「そうか。3日で1000人とは上々だ。

 予定より早く目標達成だな。

 人質はどうした?」

ロビンはゴキ中尉と戦闘員の話し声で意識を取り戻した。

“3日?。そんなに長い間、眠っていたのか?。

 それにしても、ショッカーは何を企んでいるんだ”

ロビンは話の続きに耳を傾けた。

「すでにゴッサム渓谷に向かっています。

 もう到着しているかも知れません」

「ヨシ。我々の任務は奴隷の確保だ。

 ゴッサム渓谷まで届ければ、後はクモ男中尉に任せればよい」

「それでは、いよいよロビンを」

「そうだな。計画書は出来ているのか」

「はい」

しばらく沈黙が続いた。

“人質はゴッサム渓谷か。

 計画書とか言っていたが、何の計画だ?。

 人質とどんな関係があるんだ?”

ロビンは様子を探るべく、少し目を開けてみた。

が、何も見えない。

さらにもう少し。

全くの暗闇だ。

「うん。良く出来ている。

 これで準備を進めてくれ」

「ありがとうございます、中尉殿」

結局、それで会話は途切れた。

“くそー、あれだけじゃ、何が何だか分からない”

ロビンはゴキ中尉と戦闘員の会話からの情報収集を諦め、

自分の置かれている状況を確かめる事にした。

横に寝かされているのが分かる。

手足は拘束されていないようだ。

だが、体を動かそうとしても、すぐに何かにぶつかってしまう。

どうやら、細長い箱の中に閉じ込められているらしい。

箱の高さは20cmほどだろうか。

ロビンは箱の天井をわずかに持ち上げてみた。

“どうせ、鍵がかかっているんだろうが”

だが、箱の上部は持ち上がり、光が射し込めてくる。

さらに持ち上げると、ゴキ中尉や戦闘員達の姿も見えた。

どうやら、以前クモ男中尉達に連れてこられた山小屋のようだ。

“そうか。連中、あの誘眠剤の効果を過信して、

 俺を拘束もせず、鍵も掛けていない箱に閉じ込めていたんだな”

周囲を見渡すと、ロビンから奪ったバットレーザーやバット無線を置いた

テーブルも見える。

ロビンの位置から、わずか3メートルほどだ。

“何とバカな奴らだ。思い知らせてやる!”

ロビンは箱を開けると、バットレーザーの置かれたテーブルに向かってジャンプした。

バットレーザーを奪い、一気に勝負を決める算段だ・・・った。

ドテッ。

ロビンがジャンプしたのは、せいぜい10cmにもならない。

箱から出てすぐのところに、ロビンはうつ伏せに倒れてしまったのだ。

何者かに足を掴まれた感じだった。

「うっ??」

慌てて足元を見ると、ロビンの両足にはブーツの上から枷が填められている。

それぞれの枷は、チェーンでボーリングのボールほどの鉄球と繋がっていた。

チェーンの長さが30cmほどあるので、狭い箱の中では足が拘束されている事に

気づかなかったのだ。

「ぎゃはははは」

「バァ〜カ。世の中、そんなに甘くないんだよ」

無様な姿を曝したロビンに、ゴキ中尉や戦闘員から嘲笑が浴びせられる。

「ちきしょー、ナメやがって!」

両手をついて身体を起こすロビンだが、鉄球はまだ箱の中だ。

腕立て伏せの状態で、箱まで戻らねばならない。

当然、戦闘員達が黙って見ているはずがなかった。

我先にロビンに群がると、両手を持って再びロビンの身体を引きずり出す。

さらに、2人の戦闘員がロビンの背中に馬乗りになった。

「ほら、ロビン。お前の身体を鍛えてやるよ。

 腕立て伏せ100回だ!」

「くそー、そこをどけ!」

「さっさとやらないか、こいつ!」

抵抗するロビンの尻を、別の戦闘員がしないで打ち据える。

「うぅっ」

尻の痛みよりも、戦闘員にいたぶられる心の痛みに顔を歪めるロビン。

「ははは。所詮、まだ子供だ。

 その辺にしておいてやれ」

戦闘員がロビンを痛めつける様子を楽しんでいたゴキ中尉が声を掛ける。

満面の笑みがこぼれていた。

「ところで、ロビン。

 これに見覚えはないか?」

ゴキ中尉は手にしたボロ切れを、床に組み伏せられているロビンの目の前に

放り投げた。

以前、戦闘員達に剥ぎ取られたロビンのコスチュームだ。

「クモ男中尉から、前にもお前をこの小屋に監禁した事は聞いたが、

 これはその時の物か」

ロビンにとって、思い出したくもない光景が脳裏に甦る。

「こら!。中尉殿のご質問に答えないか!」

再び尻を叩かれる。

「うっ、うるさい!。そんな物、知った事か!」

「ははは。“知らない”というのは、否定はしないということか」

「知った事じゃないと言ってるだろ!」

「そうか。しかし、落とし物は落とし主に返してやらねばならんのでな。

 確かめさせてもらうとするか」

ゴキ中尉は戦闘員に目で合図を送る。

待ちかねたように、ハサミやナイフを持った戦闘員がロビンの下半身に集まった。

「や、やめろー」

必死の抵抗を試みるロビンだが、如何せん多勢に無勢だ。

瞬く間に、ロビンは下半身丸出しの姿を曝す事になる。

「ふ〜む、どう見ても同じ物のように思えるんだがなぁ。

 まぁ、この件は後ではっきりさせよう」

ゴキ中尉は二つのボロ布を戦闘員に渡した。

「こ、こんな事をして、ただで済むと思うなよ」

「ほう、こんな事をしてはいけないのなら、我々にどうしろと言うのだ」

「大人しく降伏するんだ」

「ぎゃはははは。大人しく降伏しろだと。

 お前、自分の立場も考えて見ろ。

 何で、我々がチンポコ丸出しで床に組み伏せられた小僧なんかに

 降伏しなきゃならない」

 

その時、小屋の扉が開いて、戦闘員が入ってきた。

「中尉殿。出発の準備が出来ました」

「そうか。ロビンの準備も出来たところだ。

 10分後に出発する」

戦闘員はゴキ中尉の命令を受けて出ていった。

「お前達、何を企んでいる。

 俺をどうするつもりだ」

「まぁ、教えてやっても良いだろう。

 我がゴキ中隊が捕獲した奴隷を使って、ゴッサム渓谷に地下基地を造る。

 これが第一の質問に対する答えだ。

 まっ、そっちはクモ男が担当する事になっていて、

 我々は周辺の警備だがな。

 で、第二の質問の答えだが、お前を『従軍慰安夫』にする」

「なにっ、従軍慰安夫?」

「人間捕獲作戦も成功裏に終わった事だし、

 戦闘員にも娯楽が必要なんだ。

 さっき、戦闘員にお前をどうやっていたぶってやるか、

 計画書を出させたところだ。

 聞こえていたんだろ?」

ゴキ中尉はにやりと笑って話を続ける。

「まぁ、お前としては惨めな話だろうが、

 まだ俺に捕まっただけ良かったと思うんだな。

 クモ男はモス少佐の腰巾着で副官になったような奴だ。

 出世の糸を切られたんだから、奴に捕まっていたら、嬲り殺しにされているぞ。 

 その点、俺はお前を嬲り者にしても、嬲り殺しにはしないから安心するんだな。

 ははははは」

だが、ゴキ中尉の笑い声は、ロビンの耳には入らなかった。

『従軍慰安夫』

その一言がロビンの心に響いていた。