ロビン(7)

 

200人の市民を誘拐したゴキ中尉の前に立ちふさがるロビン。

「さぁ、市民を解放してもらおうか」

構えたレーザーの先には、ゴキ中尉の苦虫をかみつぶしたような顔がある。

それがロビンの言葉に、落ち着きと余裕を与えていた。

が、突然、ゴキ中尉の表情が変わった。

ロビンの背後に迫る、巨大なタコの足に気づいたのだ。

「嫌だと言ったらどうする」

不敵な笑みが浮かぶ。

「な、何だと。貴様、命が惜しくないのか!」

ロビンには、ゴキ中尉にどうして余裕が生まれたのか分からなかった。

だが、次の瞬間、ロビンはその理由を身をもって知る事になる。

タコデビルの足がロビンの腰に巻き付いたのだ。

ロビンがその正体を確かめる間もなく、空中に持ち上げられ、

工場の壁に叩きつけられた。

「うわぁー」

悲鳴をあげるロビンを、今度は道路を挟んだ反対側の壁に叩きつける。

右に左に叩きつけられるロビン。

やがて、ロビンがぐったりしたのを見ると、、

タコデビルは工場の脇に放置されていた空のドラム缶に、

ロビンを頭から投げ込んだ。

足だけを出してドラム缶に放り込まれたロビン。

「ヨシ、今だ。ドラム缶に蓋をしてしまえ。

 『ロビンの缶詰』、一丁上がりだ」

ゴキ中尉の命令で、戦闘員がドラム缶に群がってくる。

戦闘員はロビンの足を中に押し込むと、ドラム缶の蓋をして

特殊接着剤で密着させた。

ドラム缶の中では、ロビンが頭を下に、身体を「く」の字にされて

閉じこめられている。

いくら不意打ちを食ったとはいえ、何ら抵抗する事も出来ず、

無様な姿になってしまったロビン。

或いは、気を失っていれば良かったのかも知れない。

しかし、ドラム缶に放り込まれた衝撃で、ロビンは少し朦朧とした状態ではあるが、

意識を取り戻していた。

それが一層、ロビンを惨めにさせる。

 

「新顔のようですな。

 私はゴッサム地方支部のゴキ中尉。

 あなたは?」

ゴキ中尉の言葉が聞こえてきた。

「私か。私はタコデビル。ただの流れ者だ。

 だが、バットマンだのスパイダーマンだの、

 ヒーロー気取りの奴が大嫌いでな。

 その小僧はくれてやる。

 煮るなり焼くなり、好きにするが良い」

ドラム缶の中で、ようやくロビンは自分を襲った怪人の正体を知った。

“タコデビルだったのか。くそー、油断していた

 しかし、タコデビルはショッカーの怪人ではなかったという事か”

ロビンはドラム缶の中で耳を澄ませ、さらなる情報を得ようとしたが、

タコデビルは去ってしまったのか、ゴキ中尉の声だけが聞こえてくる。

「トレーラーのタイヤ交換を急げ。

 バットマン達が来る前に出発だ。

 そうそう、『ロビンの缶詰』も忘れるなよ」

ゴキ中尉の命令を受け、戦闘員が手際よく作業を進める。

ロビンはドラム缶ごとトレーラーに積み込まれた。

“連中、何を企んでいるんだ?。

 だが、何にしても向こうからアジトに案内してくれるとは、

 探す手間が省けるというものだ”

ロビンの安直な考えは長くは続かなかった。

人々を誘い込んだ甘い香りが、ドラム缶の中にも侵入してきたのだ。

慌てて手探りでバット防毒マスクを探すものの、見あたらない。

どうやら、タコデビルの攻撃を受けた時に落としてしまったようだ。

すぐにロビンは、悔しさを噛み締めながら、深い眠りに入っていった。