ロビン(6)

 

基地に戻り、ロビンが着替えを終わると、バットマンはその後の展開を説明した。

「ショッカーはタコデビルという新手の怪人を送り込んできた」

「タコデビル?。たしか、死神博士はイカデビルじゃなかったの?」

「いや、もっと強力な怪人だ。

 昨日もそいつに追跡を阻止された。

 それから、バット劇薬探知機の反応がS17地区で消えている」

「S17地区といえば、町工場が集中しているところだね。

 ショッカーはそのどこかに劇薬を持ち込んで、

 何か企んでいるのかも知れないね」

「そうなんだ。

 私はこれから、ゴードン所長と今後の打ち合わせをする。 

 君にはこの地区のパトロールをしてもらいたいんだが」

「うん、分かった。もう大丈夫だよ」

 

わずかな休憩だけで、再びバイクにまたがって出動するロビン。

だが、S17地区に着く前に、バットマンから異変の連絡が入った。

「S17地区周辺の住民が、まるで夢遊病者のように町を歩いているという

 通報があった。

 至急、向かってくれ」

「了解。何か分かったら連絡する」

 

ロビンがS17地区に近づくと、甘い香りが鼻をついた。

そして、その香りに誘われるように、人々が同じ方向に向かって歩いている。

バットマンが言った通り、まるで夢遊病者のようだ。

まるで自分の意志が感じられない。

ロビンはバット防毒マスクをつけ、人々が集まっていく方向に向かった。

人々は建ち並ぶ町工場の一つに入っていく。

ロビンは密かに工場の屋上に上がると、通風口から中に忍び込んだ。

工場の中には大きな檻がいくつも置かれ、人々は吸い込まれるように

檻の中に入っていく。

それぞれの檻の中には噴霧器のような装置があり、

そこから発生するガスが人々を誘い込んでいるようだ。

檻の周りには、ショッカーの戦闘員の姿も見える。

「ゴキ中尉。すでに200人近くを捕獲しました。

 他にまだ50人程度の人間が、こちらに集まりつつあります」

戦闘員がゴキブリの姿をした怪人に報告していた。

「よしよし。『ニンゲンホイホイ』はなかなかの出来だな。

 残りの50人を捕獲したら、檻をトレーラーに収納して出発だ」

“やはりショッカーか。

 連中、市民を誘拐して何を企んでいるんだ。

 取りあえず、バットマンに報告しなくては”

バット無線のスイッチを入れるロビン。

だが、その瞬間、警報ブザーが鳴り響いた。

「んっ?。誰かが無線を発信したな。

 どうやらネズミが忍び込んだようだ。

 残りの人間は放っておけ。

 すぐに出発だ」

ゴキ中尉の命令で、戦闘員が作業を始める。 

一方のロビンは、バットマンに連絡を取ろうとするものの、

無線が通じない。

“くそー、ミノフスキー粒子か”

ロビンは進入路を逆行し、屋上から工場の入り口に回った。

檻を載せた大型トレーラーが出てきたところで、

バットレーザーでタイヤを撃ち抜く算段だ。

トレーラーが何台用意されているのか分からなかったが、

たとえ二台以上あったとしても、最初の一台を停止させれば、

狭い町工場の出入り口である。

残りのトレーラーも工場からは出られない。

ロビンは工場の入り口付近に身を潜め、扉が開くのを待った。

 

やがて、トレーラーが姿を現す。

ロビンは狙いを定めて、タイヤを撃ち抜いた。

ゴキ中尉と戦闘員が慌ててトレーラーから降りてくる。

「そこまでだ、ゴキ中尉。

 大人しく降伏しろ。

 さもないと、モス少佐のように、地獄に送ってやるぞ」

ロビンはバットレーザーを構えて、ゴキ中尉の前に姿を現した。

「うぅっ」

狼狽えるゴキ中尉の表情が、ロビンには心地よく感じられた。

“今の僕をバットマンに見てもらえないのが残念だな”

勝利を確信するロビン。

だが、その背後に巨大なタコの足が迫っている事には気づいてはいなかった。