野球戦士・真樹(7

 

降りしきる雨の中を一台の自転車がグランドに入ってきた。

二宮和也。

真樹が呼び出した1年生である。

自転車はマウンドを見てペダルを止めた。

それが、盛られた土の中に埋められた真樹であると気づくまで時間を要したのだ。

いや、生き埋めにされた真樹を見ても、それが現実とは思えなかったのである。

二宮にとっての真樹は、チームの甲子園まで後一歩のところまで導いた大エースであり、

正義の為に戦う、無敵の野球戦士なのだ。

それが、マウンドの上で生き埋めにされていようとは・・。

 

「ま、真樹先輩。いったいどうしたんですか?!」

ようやく状況を飲み込んだ1年生が、慌てて駆け寄ってくる。

「真樹先輩。こ、これはいったい・・」

「ゆ、油断したんだ。

 ともかく、ここから出してくれ」

「は、はい。分かりました」 

二宮は言われるまま、体育倉庫からスコップを持ってくると、土を掘り始める。

ふと、二宮の視線が、周囲の水たまりに向けられた。

泥まみれになった真樹のズボンが雨に打たれている。

真樹もその視線に気づいた。

助けられるという事は、下半身丸出しにされた姿を後輩の前に曝す事になる。

恥ずかしさで顔が赤くなった。

しかし、一方で股間は勃起してしまう。

こんなバカな事は・・。

俺は野球戦士・真樹だ。

正義の為に戦っている。

変な欲望を満たす為ではないのだ。

自分にそう言い聞かせようとするが、勃起は収まらない。

 

上半身の土が払い除けられた。

ようやく、真樹の両手が自由になる。

「ヨシ、後は自分で何とかなる。

 今日は悪かった。

 もう、家に帰ってくれ」

「あっ、はい。でも、もう少しだけ」

二宮はそう言って、土を掘り続ける。

二宮にやってもらった方が早いのも確かだ。

だが、もう少しいてもらいたいという気持ちも

否定する事はできなかった。

 

やがて、真樹の周りの土がほとんど払い除けられた。

下半身を動かして、土をどける事もできるようになる。

そう思った瞬間、真樹の身体が前のめりに倒れかかった。

今まで固められた土によって支えられていたものの、

長時間にわたって雨ざらしにされていたのである。

体力の消耗は著しい。

「あぁっ」

真樹はマウンドで四つん這いになる。

隠す物がなくなった下半身は丸出しだ。

「せ、先輩。酷い目に遭わされたんですねぇ」

二宮が同情の言葉をかける。

「あっ、あぁ。つい油断して・・」

真樹はそう言うしかない。

「ともかく、着替えを用意してきますよ。

 それに、身体に付いた泥も何とかしないと・・」

「あっ。いや、着替えは要らない。

 洗濯物が増えるだけだ」

真樹はそう言って、苦し紛れの笑みを浮かべると、水道に向かって歩き出した。

 

後輩の前で、敗北者の惨めな姿を曝す屈辱。

それが真樹の股間を刺激する。

水道には、グランドに水をまく為に、ホースが繋いであった。

真樹は蛇口をひねると、ホースを持って自分の身体に水をかけ始めた。

多少は泥で隠されていた下半身が露わになる。

一通り水をかけると、真樹はホースを1年生に渡した。

「済まない。後ろを頼む」

「は、はい」

ホースを受け取った二宮が、真樹の背中から尻にかけての泥を洗い流す。

「なぁ。今日の事は黙っていてくれ」

1年生の手で丸出しの尻に水をかけられながら、真樹は後輩に口止めした。

「で、でも・・」

「いや、グランドの借りはグランドで返す。

 明日の試合でな」

「あっ。は、はい」

「そうか。ありがとう」

 

真樹は水道の水を止めると、水たまりの中野ズボンを取り上げた。

「あ、あのぅ、」

「えっ?」

「先輩、スラパンは?」

「あっ」

急に言われ、真樹には適当な言葉が浮かばなかった。

「い、いや。このユニフォームは野球戦士としての力の源なんだ。

 だから、素肌に身につけた方が、より大きな力が出るんだよ」

それは事実だった。

だが、いくらでもごまかせる事でもあった。

「えっ、それじゃいつも・・」

「あっ、いや、まぁ」

しどろもどろになる真樹。

「と、ともかく明日は大事な試合だ。

 早く家に帰ろう」

真樹は逃げるように、校門に向かって歩き出した。