野球戦士・真樹(12)

 

決勝戦の終わった球場は、異様な興奮に包まれていた。

試合が終わり、表彰式も済んだというのに、

家路につこうとする者はなく、帰りかけた者まで足を止めている。

いや、新たに球場に駆けつけてくる者までいた。

そうなったのは、真樹の公開裁判と公開処刑のアナウンスが流れた事によるのは

言うまでもない。

 

「さぁ、大変なことになりました。

 明峰のエース・松浦真樹の公開裁判と公開処刑です。

 試合が終わっても、席を立つ者は一人もいません。

 勝つ為には相手投手にデッドボールをぶつけ、

 満塁でも敬遠をするなど、傍若無人の振る舞いを繰り返してきた真樹の処刑を、

 今や遅しと待ちわびているのです」

アナウンサーの声は、試合の実況異常に興奮気味だ。

 

熱気は明峰高校の控え室にまで伝わっていた。

「覚悟はできているね、真樹君」

「は、はい」

監督の言葉に、真樹はやや緊張気味に答えた。

「うん、それならよろしい。

 だが・・・、う〜ん・・・、そうだなぁ・・・。

 素直に罰を受けるとしても、それを態度に示すべきだな」

「態度で示す?

 どういう事ですか?」

「これで縛るというのはどうだろう」

監督はロープを取り出した。

「縛るんですか?」

「うん。その方が恭順の態度を示す上で良いと思うんだが」

真樹の脳裏に、ユニフォームの上から縛り上げられ、

グランドに引き立てられる自分の姿が浮かんだ。

そ、そんな・・。

俺は野球戦士・真樹なんだ。

そう思う一方、脳裏に浮かんだ自分の姿を実現させたいという

心の奥の声も真樹の頭に届いてくる。

「わ、分かりました」

「そうか。それでこそ、エースだ。

 それじゃ、準備ができたら監督室まで来るように」

監督はそう言い残すと、他の部員にロープを渡して部屋を出て行った。

 

さっきまで共に決勝戦を戦った仲間の手で縛り上げられ、

上半身を身動きできないようにされた真樹が監督室の前に立ったのは、その数分後だ。

「監督。準備できました」

声をかけると、中から監督の声が聞こえた。

「入りたまえ。君の為にドアは開けてある」

確かに、ドアはきっちりと閉まっておらず、真樹は身体でドアを押して中に入った。

「あっ!!、お前は!!」

「ははは。驚いたか、真樹!」

そこにいたのは、監督ではなく野球仮面だ。

「だ、だましたな、野球仮面!」

「今頃になって気づいても遅いわ」

真樹は唇をかんだ。

縛り上げられていては、野球仮面にかなうはずがない。

「どうだ。大観衆の前で処刑される気持ちは」

「くっ、クソー。しかし、お前の思うようにはならないぞ」

真樹は開いたままになっていた監督室のドアから外に飛び出した。

ここは逃げるしかない。

事情を話せば部員達は分かってくれるはずだ。

だが、真樹の行く手を塞いだのは、分かってくれるはずだった部員達だ。

「つ、捕まえろ。真樹が、真樹が逃げ出した」

またも監督の姿に化けた野球仮面も、真樹の背後を塞ぐ。

「違うんだ。みんな、聞いてくれ!

 こいつは監督なんかじゃない!」

必死に叫ぶ真樹だが、信じていた部員達は耳を貸そうとしない。

「見苦しいぞ、真樹」

「監督に向かって、『こいつ』とは何だ!」

口々に真樹を罵りながら、真樹を取り押さえる。

「やめろー、放せ!」

しかし、上半身を縛られたままの真樹は満足な抵抗もできない。

しかも、相手は悪の組織などとは関係のない野球部員なのだ。

すぐに真樹は取り押さえられ、両脇を掴まれて引きずられるように

グランドへと連れ出された。

 

「おぉっ!!

 ついに、真樹がグランドへと連れ出されてきました。

 抵抗しているようです。

 その為か、上半身は縛られていますが、反省の色も見せず

 悪態をついているのが分かります」

「真樹、何だそのザマは」

「堂々と罰を受けろ!」

スタンドからもヤジが飛ばされる。

真樹が連れて行かれようとしているのは、マウンドだった。

ついさっきまで、明峰のエースとして決勝戦を戦ったマウンドで、

縛り上げられたまま公開裁判を受け、そしておそらくは公開処刑までされるのだ。

真樹は次第に高揚していく自分を感じていた。