ウルトラマンレオ(5)
もはや身体処理台の上に横たわるのは、地球を悪の手先から守る正義の超人ではなく、
ただ快楽の終着を待ち望む、哀れな男でしかなかった。
ウルトラマンレオは、完全に快楽の檻に閉じ込められてしまったのだ。
「くっくっく、どうした?
触って欲しいのなら、きちんとお願いしてみたらどうだ。
私は慈悲深い男だからな、『偉大なるブラック指令様、どうかイカせて下さい』と
お願いしたら、イカせてやってもよいぞ」
「なっ、なんだとぉ〜!?
誰が貴様などにぃ!」
「ふふっ、無理にとは言わんよ。
嫌ならこのままここに捨て置くまでのこと。
ブニョのパワーアップは出来なくなるが、お前という邪魔者がいなければ、
地球人抹殺も問題なく進むだろうしな……。
ただし!言っておくが、この秘密基地は時空の歪みにある特別な空間に作られていてな、
時間の流れという物が存在しないのだよ。
この意味が判るかな?
クックック、このまま放置されれば、ブニョの粘液の毒性は衰えることも無く、
お前は身動きも取れぬまま、死ぬことも出来ずに、未来永劫生殺しの苦痛を味わうのだ!
しかも外側から空間の入り口を閉ざしてしまえば、
いかなる救援も望むことは出来ない!」
「なっ!?………」
ブラック指令の語る脅威の事実に、思わず絶句するレオ。
悪の司令官はそのままレオの横に歩み寄ると、その耳元にやさしく囁きかける。
「どの道お前はもう助からんのだ。
最後に極楽を味わって楽に死ぬか、このまま惨めに放置され、
永遠に続く生殺しの地獄を味わうか……。
お前自身に選ばせてやろうと言っているのだよ」
「くっ、くぅぅぅ〜………」
ブラック指令のあまりにも屈辱的な申し出に、
失いかけた戦士としてのプライドを辛うじて取り戻しかけたレオだったが、
禁断の果実にも似た甘い誘惑と、辛辣で悪意に満ちた脅迫とを突きつけられ、
言葉を詰まらせてしまう。
「ぐわはははっ〜!」
明らかに狼狽するレオの顔色を、ほくそえみながら観察したブラック指令は、
おもむろに立ち上がると、今度は腹をかかえて笑い出した。
「言えるわけがないよなぁ?
人類の味方、正義の使者ウルトラマンレオが、快楽の誘惑に屈服し、
敵に慈悲を請うなど、有り得ぬことよ……。
さぁブニョよ、こやつはこのまま捨て置き、我らだけで地球に向かうとするぞ!」
ブラック指令はレオに背を向けると、そのまま立ち去ろうとする。
「うぅ……まっ、待ってくれ……」
捨て置かれる恐怖に怯え、反射的に声を上げるレオに対し、
ブラック指令は振り向きざまに
「ん〜?聞こえんなぁ〜。今、何か言ったか?レオよ」と意地悪くとぼけて見せる。
「お、お待ち下さい。偉大なるブラック指令様。どうか私を最後までイカせてください。
お願いしたします」
遂にレオの口から懇願の言葉が発せられた。
それは正義の宇宙超人ウルトマンレオの、事実上の敗北宣言であった。