不等価交換

第11話 (5日目)

 長かったマケットからの人質奪還も今日で最後。

 誰にも見られない水面下での屈辱に耐える日々が今日終わると思うと

supermanの体はいつもより軽く感じた。

 しかし、それは完全な錯覚。

マケットに指摘されるまで自分が先走りを垂れ流していることさえも

気がつけない体になってたのだった。

 最後の商談・・・

コロシアムに案内され目の前に立ちはだかったのはどこかで見た覚えのある1人の人間。

 それが誰なのか考える暇もなく戦いのゴングがなる。


 お互いにカプセルを背にして戦うコロシアム。

 カプセルに入れられたら負け・・・いたって簡単なルールだった。

 しかし、supermanとは違い相手は何の拘束具も装着しておらず

戦況は圧倒的に不利だった。


superman:は、早いっ!


 黒いラバーマスクの男は身のこなしが軽く、

足枷に加えて粘着されたsupermanとは雲泥の差だった。
 
マケット:ほらほら、早くしないとカプセルに入れられて

     君の今日までの苦労が台無しになるかもしれませんよ?

     いいんですか?superman

superman:そ、それだけは・・・させない!


 目の前に迫った対戦相手に向かい両手を握り合い振り下ろす。

 しかし、そんな緩慢な動きの攻撃が当たる相手ではなかった。

 空振りの隙をついて背後に回り粘つくマントを掴んで

supermanの顔にかけ締め上げてしまったのだ。

 超人的な力をもっていないからこその戦闘スタイル・・・

この戦い方を知っている・・・戦闘の最中にも脳裏をよぎる嫌な予感。


superman:し、しまった・・?!・・・んぐっ・・・んっ・・・んっ・・・・


 粘液の効果もあって顔に密着すると中々剥がれない。

 慌てて両手で顔を掻き毟るも滑ってマントを外せないでいた。

 すっかり意識から敵の存在が消えたその瞬間、ラバーマスクの男は意外な行動に出た。


カチッ!

sueprman:んんっ?!・・・んぐっ・・・

 股間に手を回し液体金属を仕込んでしまったのだ。

 ビキニやスーツをすり抜けてsupermanの股間に取り付くと精巣のあたりで動きを止めた。

 痛みを伴わないほど微細な針で精巣に侵入し

強制的に創精活動を促進させるデバイスを装着されてしまった。

マケット:おや?このままで君が負けてしまうが、

     私は一向に構わないよ・・・

     ふはははは愉快、愉快

superman:ま、負けるわけ・・には・・・い、いかない。


 ようやくマントを外したsupermanだったが、カプセルは目前。

 ピンチではあるものの、動きの緩慢な今、

カプセルが近いことは最大のチャンスでもあった。
 

superman:人質のために負けるわけにはいかないんだ!


 supermanのこの言葉に一瞬、ラバーマスクの男の動きが止まった。

 それは声に驚いたというよりは、発言内容に反応し動きを止めたように見えた。


superman:(な、なんだ?!動きが止まったぞ・・よくわからないが・・・・今だ!)


 動きの止まったマスクの男の手を枷で絡めとり、

力任せに振り回してカプセルの方向へと投げ飛ばした。

 衰弱していても超人の彼に投げ飛ばされた対戦相手は一直線にカプセルに飛び、

内壁にぶつかりそのまま失神してしまったようだった。

プシュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ・・・・

 カプセルの扉が閉まり床に収納されていく。

 ディスプレイには祝福の言葉と共に人質解放完了の文字が浮かび上がった。

superman:お、終わった・・・・・

マケット:おめでとう、superman。人質は解放されたよ

superman:早く、体に装着されたものを取り払ってもらおうか・・・

マケット:その前に、さっきの対戦相手・・気にならないかね?

superman:・・・・この後、どうなるんだ?

マケット:これを見たまえよ、全てがわかる

superman:・・・?!・・・こ、これは・・・・


 スクリーンに映し出されたのはコスチュームを元に戻されて

処刑用の椅子にくくられているバットマンだった。

 ガス室の中に設けられた電気椅子に拘束されているようだった。

 さらに、そのスクリーンの端には泣きながらカプセルの中で暴れるロビンが見て取れた。


マケット:彼もまた、相棒のためにここで奮闘し、君

     を倒せば相棒ともども助かるはずだったんだよ。

superman:そ、そんな・・・・・

マケット:負けたら大変なことになると言っただろう?

     君があそこにいて、クリプトナイト照射中に処刑された可能性があったわけだ

superman:ひ、卑怯だぞ!

マケット:卑怯?私が?君次第では助けないでもないがね?

superman:・・・・どうしたら・・・いい?

マケット:君は今、バットマン救出権を取得した・・が、挑戦資格はまだない・・・・

     今夜中にそれを取得し、明日、私の用意した条件をクリア出来たら

     君も2人も解放しようじゃないか

superman:・・・・わかった・・・挑戦資格はどうしたらもらえるんだ?

マケット:私の自室で教えようじゃないか・・・さぁ、進みたまえよ・・・・


 解除された手枷と足枷を地面に投げ捨て、

来た時とは違うエレベーターに乗り込みマケットの牙城へと進んでいく。

 並大抵のことでは挑戦資格は得られないことは明白だった・・・

が、選択の余地は全くなかった。

 バットマンをあの処刑部屋に入れたのは・・・自分なのだから・・・と

焦りに心が覆われていく。


マケット:よく決断したね、superman

superman:当たり前だ・・・

マケット:まず、君のコスチュームを預かろう。ここに・・・

superman:・・・・・


 ここに監禁されてからコスチュームを脱ぐことに抵抗がなくなっており、

何のためらいもなく指定された場所にコスチュームを入れるsuperman。


マケット:代わりにこれを装着してくれたまえ・・・

superman:・・・?・・・・

マケット:似合うと思うよ・・・くくくくく・・・


 代わりに と手渡されたのは漆黒のスーツだった。

しかし、マントとブーツ、ビキニはなかった。

 胸には赤いSの字があるものの、正義のヒーローのコスチュームには見えなかった。

チン!プシュゥゥゥゥゥゥ!

superman:・・・?!・・・

マケット:汚れていたからクリーニングしたんだよ

superman:(わ、私のコスチューム・・・・)

 汚れが全て落とされた鮮やかな、そして輝きを取り戻した正義の象徴のコスチュームが

クリーニングを終えて目の前に戻ってきた。

 しかし、持ち主が着ることを許されず、展示品のように保管されてしまっていた。


マケット:さぁ・・・こっちだ・・・・・


 マケットがsupermanに仕掛ける最後の責めが今、始まる・・・。