捕 食 

 

第1話

 

上空を一羽の巨大な怪鳥が大きな羽をバタつかせていた。

「キシャー!!!」

奇怪な声をあげた怪鳥は長く尖った嘴を開けた。

すると口の奥から丸い火の玉が発射された。

ドーン!!

駅方面のビル群に火の玉が直撃する。

一瞬のうちにビルは爆発し、火の手があがる。

「怪鳥ドランゴ!!東京を火の海にしてしまえ!」

バーム星人が叫ぶと、地上に降り立った怪鳥は甲高い叫び声を上げた。

「・・何をする!!?やめさせろ!!!」

「あら、あなたがしらをきるから悪いのよ。

 さあ、はやく変身してドランゴを倒さないと東京の人々がみな殺しよ。」

「くっ・・・」

ウルトラマン・リュートこと少年・桐生セツナは震える拳を握り締めた。

まんまとバーム星人の罠にはまってしまったセツナは東京都民の命を人質に、

光の一族のみが知っている無限のエネルギーが湧き出るという

伝説の惑星A552のありかを迫られていた。

変身しようにも、頼りの変身アイテムは今やバーム星人の手の中にある。

 

そのときだった。

光に包まれた巨人が飛来する。

 

「・・・おかしい・・・こいつは・・」

バーム星人はそのときはじめて動揺した様子になった。

(こいつは・・桐生セツナは、ウルトラマンではなかったのか・・?

 本当にただの人間ふぁったのか・・・)

巨人に包まれた光が解ける。

その姿を現したのはやはりウルトラマンだった。

「あっ!!!」

セツナとバーム星人は同時に声をあげた。

確かにウルトラマンに違いはない。

卵型の瞳。

銀色のボディー。

筋肉質だがどこかふっくらとした柔らかさのある少年特有の体。

しかし決定的に違うのはその色だった。

セツナの変身するウルトラマンは銀色のボディーに赤色のラインが覆っていた。

しかしそのラインの色が違う。

赤ではなく、鮮やかな青色だった。

 

「はは、ははははっ!ウルトラマン・アルス!おもしろい!

 地球上にもう一匹紛れていたか!」

(アルス・・?まさか僕を助けるために・・・?)

セツナは迂闊に声をあげることもできず、ただウルトラマン・アルスと怪鳥ドランゴの

戦いを傍観するしかなかった。

そして、これはセツナにとって幸運なことだった。

戦えば生身の人間としても激しく体力と精神力を消耗してしまう。

若年で抜擢されたとはいえ、ウルトラ戦士として平凡な能力しか持たないリュートに対して、

アルスは同年代の中でも特に戦闘に優れたエリートであった。

セツナは、たまにフラリと地球に現れてはリュートが散々苦戦した怪獣たちをいともたやすく

片付けてしまうアルスがあまり好きではなかったが、このときばかりは心から感謝した。

 

しかし、バーム星人はそんなヒーローの登場を一笑した。

「まぁ、いいわ・・・結果はどうせ同じだもの。

 それじゃあアルスが殺されていくさまをじっくり見ましょうか。クク・・・」

(・・・殺される?バカな・・・あのアルスが負けるわけが無い!)

セツナは戦いの申し子ともいうべきアルスの勝利を信じて疑わなかった。

 

しかし、その願いが粉々に打ち砕かれるのに、そう時間はかからなかった・・・・。

 

 

怪鳥ドランゴがゆっくりと降下して地面に降り立つ。

「キシャー!!」

再び大きな嘴を開き、アルスに向かって火の玉をはく。

火の玉をよけるとビルに直撃してしまう。

アルス咄嗟に胸の前にバリアーを張り、火の玉を防いだ。

何発も火の玉を放つドランゴ。

ドン!ドン!ドン!ドン!

 

ドランゴの火の玉を安々と防御しながらゆっくりと距離を縮めてゆくアルス。

しかしドランゴは火の玉の照準をアルスの下腹部にさだめた。

ドン!

「じぇアアアア!!!」

思わぬ攻撃に片ひざをつくアルス。

更に容赦なく火の玉を全身に浴びせるドランゴ。

バシュ!バシュ!と火の玉がアルスの体を襲う。

しかし勇敢な彼は意を決してドランゴに向かってダッシュする。

「シェアア!!!」

とび蹴りを放つアルス。

その瞬間ドランゴはブオン!と羽をバタつかせ後方に飛んでエスケープした。

アルスのとび蹴りは空振りに終わった。

ドターンと尻餅をつくアルス。

すかさず火の玉を放つドランゴ。

 

バシュウッ・・・!!

火の玉はアルスの顔面を直撃した。

「アアアアアア!!!!!」

顔を抑えて絶叫するアルス。

ドランゴは低空飛行でアルスに突進する。

 

「ああ!危ない!」

 

しかし、両手で顔を抑えて苦しむアルスはそれに気づいていない。

ドスゥ!

ドランゴの嘴がアルスの腹を突き刺した。

「デュ!!!」

ドランゴはアルスを突き刺したまま高速で池袋駅に向かって飛び続ける。

嘴が突き刺さったアルスの背中が駅デパートを体当たりする。

ドーン!!!!!!

一帯が白煙に包まれる

二体の動きが止まった。

やがて煙の中からうつしだされたのは勝者と敗者の姿だった。

腹を突き刺されたまま失神しているウルトラマン・アルス。

ドランゴが腹から嘴を抜くとその嘴から真紅の血がたれている。

 

「ああ・・そんな!アルス・・!頑張れ・・!!」

「フフ・・無駄ですよセツナくん。あなたが変身しない限りこの状況は打開できません。

もっとも、二人がかりでもドランゴにはかなわなかもねぇ。」

「くっ・・・!こんなことになんの意味がある!?」

「さあ、ドランゴよ。ウルトラマンを捕食して栄養をたっぷり取りなさい!!」

セツナの顔がみるみる青くなる。

「えっ!?・・・そんなこと・・・!!」

「ドランゴは肉食でねえ。特にウルトラマンは最高のご馳走なのよ。」