人質(8)

 
敵の秘密基地に設置されたリングの上で、

スパイダーマンはニンダーと死闘を繰り広げていた。

技の全てを研究し尽くさたヒーローは相手に全く太刀打ち出来ず、

一方的にダメージを受け続けていた。

しかも、これまでの闘いで、

隆々と盛り上がる筋肉が形成する肉体に漲っていたエネルギーを

完全に使い果たしたスパイダーマンは、反撃すら出来ずにサンドバック同然だった。

 

(こ、ここで・・ 負ける訳には・・・ いかな・い・・・)

薄れていく意識の中、気力を振り絞り、なんとか自らを奮い立たせるスパイダーマン。

人質になっているひとみを助け、

奪われた武器を取り返すためにも勝利しなくてはならない。

しかし、体力を振り絞って闘おうとするが、

完全にパワーを消耗した体は言うことを聞かず、

その逞しい肉体は単なる重い肉の塊と成り果てていた。

自力で立っていることもままならない。

 

よろめくスパイダーマンに追い打ちをかけるように飛び蹴りを喰らわせるニンダー。

スパイダーマンの見事に6個に割れた腹筋がクッキリと浮かぶ腹を、

ニンダーのキックが直撃する。

灰色をしたニンダーの膝が、ヒーローの赤い腹直筋にめり込むように打ち込まれた。

「うぐぅっっ」

喘ぎながら痛みのために腹を庇おうと、リングの中央で隙だらけの体勢になってしまう。

その時、ニンダーの拳がマシンガンのごとく前後左右から

スパイダーマンのボディーに炸裂した。

精神力だけで闘うスパイダーマンは更に限界へと追いやられた。

苦痛のあまりその場に膝を付き、俯せにダウンしてしまうスパイダーマン。

(あ・ぁ・・ ダメだ・・・、フォールを・・取られてしまう・・・)

 

勝ち誇ったような足取りで近付いてくるニンダーは、

しかし、ダウンしたスパイダーマンからフォールを奪おうとはしなかった。

余裕の態度で、足下に倒れ伏すヒーローを見下ろしている。

「立て! スパイダーマン。

 人質がどうなってもよいのか?」

モンスター教授の声が響いた。

盛り上がる扇型の広背筋を震わせながら無様に背後を晒す

スパイダーマンから簡単にフォールを取るのではなく、

更に苦痛を味わわせ、屈辱的なギブアップをさせるつもりなのだ。

 

(ひとみ・・・・ くそぉ・・ た、立ち・上がら・・・なくては・・・)

痺れた両手で重い肉体を支えて何とか身体を起こそうとするスパイダーマン。

しかし、コーナーポストに登ったニンダーの二ードロップにより、

広背筋の盛り上がる背中から腰にかけて、切り裂くような痛みが走った。

「ぅぐぁぁっ!!」

再びダウンし、マットに大の字に体を広げて無様に俯せに身を投げ出してしまった。

 

敵の攻撃を防ぐことが出来ないどころか、

技を完璧に決められてしまうまでに体力を消耗し、

ニンダーの足下に横たわるスパイダーマンはすでに意識を失いかけていた。

 

さらにニンダーは、

眼下に完全に無防備な肉体を晒して横たわるヒーローに襲いかかった。

抵抗できないスパイダーマンを軽々と肩の上に仰向けに担ぎ上げたニンダーは、

頸部と大腿部に腕を回して締め付けながら、

獲物の背骨を逆『く』の字に限界まで反らさせて痛めつけ、

処刑台に磔にされたスパイダーマンの体をゴキゴキと軋ませていた。

とどめのアルゼンチンバックブリーカーだった。

 

逞しい肉体の要とも言える脊椎が圧迫され、

交感神経からのギリギリという激痛が瞬く間にスパイダーマンの全身を駆けめぐった。

「あぁっ!! くあぁぁ〜〜!!!」

朦朧とするスパイダーマンを強烈な苦痛が襲った。

 

激痛によって意識を取り戻したスパイダーマンは、

担ぎ上げられ、逃れようのない拷問台に捕らえられていることを知り、

屈辱に苛まれ、焦燥感に駆られた。

上半身は、顎を抑え込まれて喉を反らせるように頸椎を責められ、

下半身は、開脚させられながら一方の脚の大腿を締め付けられている。

(く、苦しい・・・

 ダ・・ダメだ・・・ 体が・利かない・・・・)

ニンダーの両肩に上半身と下半身を固定され、

広げられた四肢は自由を奪われているだけではなく、

6個に割れた腹直筋から逞しく膨らむ股間にかけてが強く引き伸ばされたまま

その筋肉組織や股間に納めた竿の形までがクッキリと浮かび上がっていた。

無様な敗北の姿勢を晒すスパイダーマン。

身体を弓のように反らせた状態で全身が軋み、痙攣していた。

 

「うぐっ!!! くはぁあぁぁぁぁ!!」

(うっ うあああぁぁぁぁああぁぁぁ〜〜!!)

拘束された体をグリグリと責め上げられ、全身の関節を襲う強烈な苦痛に、

呻き声を上げながらただ耐えることしかできないスパイダーマンだった。

 

「ワハハハハッ

 どうだ? 苦しいか? スパイダーマン!

 そろそろギブアップしたらどうだ?

 もっとも、ギブアップしたら、

 約束通りスパイダーブレスレットを頂き、

 君には我々の奴隷になってもらうがね!」

モンスター教授の言葉が、苦痛に呻くスパイダーマンの肉体のみならず、

精神をも締め上げるのだった。

 

「うっ くぁ・ああぁぁぁ・・・」

逃れようと僅かでももがけば、胴体が内側から引きちぎられる程強力に反らされ、

圧迫からくる苦痛が一層激しくなるのだった。

(だ、だめだ・・ この技は破れない・・・

 だが、もしギブアップしたら、ブレスレットまで奪われ、

 俺はスパイダーマンとしての全てを失ってしまう)

仰向けに担ぎ上げられ、四肢を拘束され無様に肉体を晒し、

脱出もままならず、荒々しく呼吸をしながらただ呻き、

最後の気力だけで屈辱と苦痛に耐えるしかないスパイダーマンだった。

 

屈辱的な磔状態にされたスパイダーマンの目に人質の姿が映った。

閉じこめている水槽は9割以上が水で満たされ、

ひとみの悲鳴は、開いた口に流れ込む水で幾度もかき消されていた。

そんなひとみの嗚咽ともつかぬ叫びで我に返るスパイダーマン。

(もっ もう時間がない・・・ ひとみを・助けなくては!

 は、早く・・この技から・・逃れ・なければ・・・)

苦痛の渦のなかでそう考え、振りほどこうともがく。

 

だが、首と足を押さえられたスパイダーマンが僅かでも体を動かすと、

それを察知したニンダーに上下左右に揺さぶられ、

その度に衝撃により脊髄がグイグイ圧迫されて、限界を超えた苦痛に襲われるのだった。

「あぅあああぁぁっ・・・ うあぁあぁぁぁ〜〜〜〜!」

(だめだ・・ このままではっ!)

技を解き逃れるだけの体力も残っておらず、

身動きできないまま苦痛に耐えるスパイダーマンは、

降参することを強制されているだった。

 

水槽の水がますます増え、ひとみに最後の瞬間が刻々と迫っていることを思うと、

焦燥感だけがスパイダーマンの心を満たしていった。

 

「さあ、どうするスパイダーマン、

 ギブアップしないと人質が死んでしまうぞ!」

モンスター教授の言葉が更にスパイダーマンの焦燥感を煽る。

(くそっ、ここでギブアップしたら、俺は・・・

 だが、このままではひとみの命が・・

 どうすればいいんだ?)

水槽が水で満たされ、悲鳴にすらならないひとみの喘ぎが、

いよいよ最後の瞬間を伝えようとしていた。

「人質を見殺しにするのかな?スパイダーマン」

煽りたてるモンスター教授。

(くっ 何とかここから・・・・)

だが焦る気持ちとは裏腹に、ギリギリと締め付けられる苦痛から逃れることは出来ない。

「くあぁああぁぁぁっ・・・」

技から逃れるどころか、苦痛に呻くことしかできないスパイダーマン。

 

(もう、ギブアップするしか無い・・・

 ひとみを救うには、それしかない・・)

遂に、苦痛と焦燥の頂上で、スパイダーマンは右手でタップし、

ギブアップの意思表示をした。

「どうした?ギブアップか? 我々の奴隷となるのを承知するのだな?」

モンスター教授がわざわざ強調するかのように問いかけ、

スパイダーマンの精神を蹂躙した。

「・・・・・・・・

 ギ、ギブアップだ・・・

 何でも、お前たちの・・言う通りに・・なる・・・」

上向きに担がれて動きを封じられ、

焦燥と苦痛に喘ぐことしかできないスパイダーマンは、

ついに屈辱に満ちた言葉を口にした。

その言葉を聞いて、ニヤッと笑うモンスター教授。

 

カン! カン! カン! カン! カン!

ゴングが鳴り、試合終了を告げた。

 

勝負の決着が付き、マットに叩き付けられるように落とされたスパイダーマンは、

その赤と青のコスチュームを纏った肉体で無様に横たわっていた。

人質の安全を確保したことで、安堵のため息をつくヒーローだったが、

心の内では、それ以上に屈辱で押し潰されていた。

いつもの闘いでは、敵の下級の戦闘員であるニンダーを

何人も倒しているにもかかわらず、今日はたった一人を相手に

全く歯が立たずにギブアップをしたという事実に打ちのめされていた。

 

リングを取り囲んだニンダー達から歓声が上がった。

「フハハハハッ スパイダーマンが奴隷になることを承知したぞ!」

得意げに宣言するモンスター教授の声が響き渡った。

 

勝ち誇ったニンダーは、上腕二頭筋が盛り上がる灰色の両腕を高く上げ、

足下に倒れるスパイダーマンを尻目に、高らかに勝利を顕示していた。

部屋中のニンダーたちが歓声に沸いていた。

人質の命を救うために降参したスパイダーマンは、

床に倒れたまま肩を震わせ屈辱に耐えることしか出来なかった。

(くっそぉ・・ たった一人のニンダーにすら勝てないなんて・・・)

人質となっているひとみの命を助けるための屈服とはいえ、

敵の戦闘員に歯が立たないどころか、逆に技をかけられ、苦痛に呻き、

ギブアップ以外にどうすることも出来なかった自分に対して、

自信を喪失し、嫌悪感すら抱いた。

 

「さあ立つのだ! スパイダーマン!」

勝利の歓声を上げるニンダー達を静止したモンスター教授が指示を出し、

最後の力を振り絞りヨロヨロと立ち上がるスパイダーマンは、

すでに体力の限界を超え、精神力と生命力すら限界まで到達しようとしていた。

その足下ではリングが床に収納されていく。

 

「では約束通り、スパイダーブレスレットを渡してもらおうか」

モンスター教授の残酷な言葉が、

身も心もボロボロに傷ついたスパイダーマンを更に蹂躙するのだった。