人質(3)

 

砂丘の巨大な蟻地獄にスパイダーマンは捕らえられていた。

マシンを呼ぼうにも、GP-7もマーベラーも奪われてしまったのだ。

胸から下が砂に埋まり身動きすら出来ないスパイダーマンは、

脱出しようともがくが体はますます深く沈んでいく。

 

「フフフッ 手も足も出ないとは正にこの事ね、スパイダーマン。

 人質はあと3分で吹き飛ぶわ!そこで爆発をじっくりと見るがいい!」

どうすることも出来ないスパイダーマンを嘲笑うかの様なアマゾネスの声が

真上から聞こえてきた。

蟻地獄は機能を停止し、流れ落ちる砂の速度が緩慢になっていた。

 

スパイダーマンは、両手と頭だけがかろうじて砂の上に出ているものの、

全身から力が抜け、意識は朦朧としていた。

(もう・・・ だめ・・か・・・)

すでに抵抗する気力も体力も失われつつあるスパイダーマンだった。

 

薄れて行く意識の中、ガリアの声が心の中に響いた。

空中に浮かんだガリアの顔が呼びかける。

「あきらめるな、スパイダーマン!」

気力を取り戻し、その声のする方向を見つめるスパイダーマン。

 

空に浮かんでいるのはガリアの顔では無く、

精巧なレンズを備えた偵察用ロボットだった。

(鉄十字団のマシンか!)

それに気付くと、スパイダーマンは左手首をマシンに向け叫んだ。

「スパイダーストリングス!」

 

左手に嵌めたスパイダーブレスレットから、

白い蜘蛛の糸で編まれたロープが射出され、先端が偵察用マシンに絡み付いた。

マシンは、ロープを避けようと上昇し始めていたが、

蜘蛛の糸は既にしっかりと絡み付いた。

ロープを引き千切ろうと、マシンは更に上昇を続ける。

ピンと張られたストリングスが、キリキリと音を立てて張力を伝える。

スパイダーマンは両手でストリングスを掴み、砂に埋まった身体を引き抜いた。

砂から抜け出た勢いで、そのまま一気に斜面を駆け上がる。

砂地を踏みしめる度に疲弊した両脚の筋肉は痛み、

柔らかな砂に足を取られそうになるが、無事に蟻地獄の縁まで登り切った。

鉄十字団の偵察用マシンを利用して、脱出に成功したのだ。

 

獲物が逃げ出したことを察知した蟻地獄が再び動き出したのは、

スパイダーマンが完全に脱出した後だった。

 

「うまく抜け出したようね?

 でも、爆発まであと2分、間に合うかしら?」

アマゾネスの声が上空から聞こえてきた。

 

(急がなければ!)

残された体力を振り絞り、全速力で灯台まで走った。

青いコスチュームの下で大きく膨らむ大腿四頭筋、大内転筋は鬱血し、

膝は疲労で震えていたが、あらん限りのエネルギーで突っ走った。

 

灯台に辿り着いたスパイダーマンは、

外壁を登ろうとするが全く張り付くことが出来ない。

(どうなっているんだ?)

そう自問するスパイダーマンに答えるかのようにアマゾネスの声がした。

「その壁は、お前のパワーでも張り付けないように特殊加工がしてあるのよ!

 爆発まであと1分!」

 

厳重にロックされた入り口のドアをキックとパンチで破り、

螺旋階段を一気に駆け上るスパイダーマン。

既に限界に近い脚の筋肉の酷使に拍車がかかる。

「誰か助けて〜〜〜〜!」

人質になっている山城新子が、ドアが開いた音を聞き助けを求めていた。

 

蟻地獄で体力を消費した上、

全速力のダッシュと階段を一気に駆け上がったことで、

コスチュームの下では両脚の筋肉が悲鳴を上げていたが、

今は自分の身を気にしている場合ではなかった。

地上30mの最上階にたどり着き、重い鋼鉄の扉を突き破り、

磔にされた新子の前に現れたスパイダーマン。

 

爆発まであと5秒。

(もう時間がない!)

急いで磔にされた新子の手枷足枷を外すと、

スパイダーマンは新子を抱いたまま手すりを乗り越え、

空中へと飛び出した。灯台から40m下の海面へ飛び込んだのだ。

2人が海へと飛び込み、大きな水飛沫が上がった直後、灯台が大爆発を起こした。