人質(11)

 

冷たい床に俯せに倒れたスパイダーマンが意識を取り戻した時、

薄暗い部屋には人影がなかった。

映像の途切れたモニターには、ただ白と黒の砂の嵐が延々と映し出されている。

どのぐらい気を失っていたかは分からない。

だが、驚異的な回復力を持つスパイダーマンの肉体は、

たとえ僅かな時間であっても確実に体力を回復させていた。

 

意識を失っていたことが暫しの休息となり、

体力も精神力も僅かながら回復していた。

さながら、逞しく隆起する鍛えられた肉体が息を吹き返したかのようだった。

静かに起きあがると左右を見回すが、辺りには全くといってよい程、

ニンダー達をはじめ鉄十字団の気配は無かった。

 

(ひとみ!)

暗くひと気のない部屋の片隅、

人質となっている佐久間ひとみが閉じこめられた透明な水槽に目を走らせる。

中には、全身ずぶ濡れのひとみが座り込み、ぐったりと壁にもたれ掛かっていた。

「待ってろっ 今助けてやる!」

そう叫ぶと、ひとみが入れられたガラスの水槽へ向かって走り出した。

透明な筒状の小部屋の外壁に飛び付き上に登ると、

水槽の蓋の役目を果たしている鉄格子に両手をかける。

鉄格子を曲げようと渾身の力を拳に込めると、

筋繊維のスジが見える位にまで逞しく膨らむ大胸筋、

太く力強く盛り上る上腕二頭筋など、上半身の筋肉が大きく隆起し、

正にヒーローの肉体を呈していた。

「くっ くぅっ」

握った腕に力を込めると、ギシギシと鈍い音を立てながら、

直径5センチはあろうかという黒い金属棒が次第に曲がってゆく。

 

スパイダーマンは、鉄格子を十分な間隔にまで広げると、

水槽の底で意識が朦朧としてグッタリしているひとみを抱え上げ、

ガラスの壁面を昇り水槽を抜け出した。

足取りのおぼつかないひとみに肩を貸すように、肩の下側から背中に腕を回し、

体重を支えながらゆっくりと出口へと向かった。

 

その光景を映す監視モニターを見つめるモンスター教授。

「たったあれだけの時間で、ここまで体力を回復するとは!

 さすがはスパイダーマンだ。

 計算以上だ、実に素晴らしい!」

画面を見つめながら口元を歪ませ、催眠コントロール装置のスイッチに手を掛けた。

 

助け出した人質を連れ部屋から抜けだそうとした時、

濡れて体に貼り付く衣服に包まれ、

意識が混濁していたはずの佐久間ひとみが突然機敏に動き、

スパイダーマンの股間を片手で鷲掴みにした。

 

「うっ うぅあっ!」

下半身から突き抜ける感覚に全身を戦慄かせながら、

腰を突き出しビクンッと身体を反らせるスパイダーマン。

今なお敏感な股間を刺激され、反射的に呻いてしまった。

ひとみは更に、肉棒への刺激にヒーローが怯んだ隙をついて、

蜘蛛のマークが浮かぶ胸に手を滑らせると、大きく隆起した大胸筋を揉みさすり、

突きだした乳首を指で摘み、指の間で抓るように転がし弄くった。

股間に次ぐ大胸筋の頂点への刺激に、不覚にも感じてしまうスパイダーマン。

「ぁ・・ああぁっ! 何を・・・ 」

胸を撫で、股間を揉みしだくひとみに向かって問いただすが、

火照りの残余がちらつくヒーローの肉体は熱い疼きがぶり返し、

乳首は硬化を開始し、股間はひとみの手の中でみるみる大きく膨張し始めてしまう。

 

(こ、こんなところで・・)

敵の基地の奥深くで、救出した人質に性感帯を愛撫され続けるスパイダーマンは、

懸命に理性で快感を抑えながらも、堪えきれない程の興奮に、

ついに恋人であるひとみに肉体の全てを預けてしまった。

抗することができず仁王立ちになったスパイダーマンに向き合ったひとみは、

濡れた服がピッタリと貼り付き裸同然になった身体をヒーローの欲情した肉体に重ね、

両手で股間と乳首を弄り、首筋に唇を這わせた。

「ん、んあ・・ぁ・・」

(く・・・ ぁぁ・・ ひ、ひとみ・・・ あ・イイッ・・)

欲望と理性の間で葛藤していたスパイダーマンは、

全身が痺れるような快感に包まれ完全に自分を見失った。

催眠コントロール装置で操られる佐久間ひとみは、

多くもない経験に基づいた稚拙さで愛撫しているに過ぎないのだが、

山城拓也の恋人であるという事実から、

結果的に、拓也の変身したスパイダーマンの性感帯のうち、

感じやすい部分を的確に責める事となった。

「はぁはぁっ はあっ」

鼓動は高鳴り、血液が肉棒へと集中していく。

感じるポイントを責められ、例えようもない快感に囚われ、

ひとみの愛撫に身を任せてしまうスパイダーマン。

 

「ワハハハハハッ 助けようとした人質に責められる気分はどうだね?」

突然、モンスター教授の声が響いた。

 

(て、鉄十字団・・ こっ これも罠だったのか・・・)

本能を堪えながらひとみを引き剥がそうとするが、

快感の渦に飲み込まれた肉体は俊敏な行動をとることが出来ない。

「や、やめ・・ あっ あぁああっ!」

(ひとみっ やめるんだ・・・

 そ、そこは! ぁ、あぁっ だ、だめ・・・だ・・・)

山城拓也の恋人である佐久間ひとみは、手慣れた手つきで竿を扱きカリ首を捻り、

乳首を抓りながら抵抗できないヒーローの肉体を弄んでいた。

半勃ちになってしまったスパイダーマンは、

青いコスチュームの股間は一層大きく盛り上がり、肉棒の形を浮かび上がらせた。

 

生気のない目をした佐久間ひとみの無表情な顔から、

鉄十字団に操られていることは明らかだった。

(こ、このままでは・・ダメだ・・・ すまない、許してくれ!)

理性を奮い起こしてなんとか身体の制御を取り戻し、

佐久間ひとみの鳩尾に鋭いパンチを見舞うスパイダーマン。

ひとみは、苦しそうに息を漏らしながら意識を失い、床に崩れた。

 

「人質を助け出すなど、勝手な事をしてはいかんな、スパイダーマン。

 忘れたのかね? 君は鉄十字団の奴隷なのだよ」

どうにか快感の渦から逃れたスパイダーマンは、背後からの声に振り返り、

興奮の冷め切らない青い股間を大きく膨らませたまま、

戦闘の姿勢でモンスター教授に向かい合った。

「人質は水槽から助け出した。もう、お前の言う通りにはならん!」

(さっきの闘いには負けたが、これからが本当の勝負だ!)

 

「ワハハハッ 大した威勢だな?

 だいぶ体力も復活したようだ。

 その女に扱かせて、精力の回復も確かめさせてもらった。

 あれ程激しく射精したというのに、もうそんなになっているとは、

 実に優れた回復力だ!

 その能力を、我々のために役立ててもらうとしよう。

 君は我々の奴隷なのだからな」

赤い義眼を輝かせるモンスター教授。

「俺はお前達の奴隷なんかじゃない!

 鉄十字キラー、スパイダーマンだ!!」

快感を否定し、赤と青のコスチュームに包まれた逞しい肉体を戦慄かせ、

高らかに宣言するスパイダーマン。

 

「GP-7、マーベラーを奪われ、スパイダーブレスレットまで失い、

 ニンダー一人倒すことすら出来ずに無様にギブアップした君に、

 一体何が出来るというのかね?」

敵の首領の嘲笑ともとれる言葉によって、忘れかけていた全てが再び脳裏に蘇った。

心を過ぎる屈辱的な情景に苛まれるスパイダーマンだが、震える手で拳を固く握りしめ、

悪夢を振り払うように言い放つ。

「体力は回復し、人質も水槽から救出した。もうニンダーには負けん!

 武器も取り戻してみせる!」

「人質などもう必要ないのだよ。調教が済んでいるからな。

 武器・・・ これのことを言っているのかな?」

モンスター教授は、左手に嵌めた銀色に輝くブレスレットを見せつけた。

 

他に誰もいない部屋で、スパイダーマンとモンスター教授は対峙していた。

(奴は一人で、大した装備もしていない。今がチャンスだ!)

スパイダーマンがブレスレットをちらつかせるモンスター教授に向かって

駆け寄ろうとした瞬間だった。

「スパイダーストリングス!」

かけ声と共に、スパイダーブレスレットから白いロープが発射された。

スパイダーマンの、腹直筋と外腹斜筋がクッキリと浮かぶ絞り込まれた胴に、

上腕ごとグルグルと白いクモの糸が巻き付いた。

(なにっ!!)

自分の目を疑い、信じられないスパイダーマン。

筋肉の隆起する自分の肉体に食い込むように巻き付く白いロープ、

そのクモの糸のもう一端は、

紛れもなく敵の首領の腕のスパイダーブレスレットから射出されていた。

(な、なぜだ???)

驚愕のあまり、言葉を発することも抵抗することも忘れて立ち尽くすしかなかった。

 

「君にいいものを見せてやろう!」

モンスター教授が指さしたのは、

砂の嵐から一転してモニターに映ったテレビ放送の映像だった。

スパイダーマンの屈辱的な姿、自らの勃起した肉棒を扱き射精する姿を、

ワイドショーが放映していた。

 

「はあ はぁっ はあっ」

画面の中、興奮した激しい息づかいがスパイダーマンの欲情の度合いを示し、

先走りの染みが広がる青いコスチュームに包まれた勃起した肉棒が

ドクドクと脈動しながら淫猥に蠢いている様子が大写しになった。

鉄十字団の首領であるモンスター教授の目の前に跪き、

片手で隆起した胸に付き出した乳首を貪るように弄び、

もう一方の手で完全にいきり立った肉棒を扱くスパイダーマンの姿。

正義のヒーローが欲望に溺れ、肉欲の虜となり、逞しい肉体を官能に震わせ、

堪えきれずに敵の目の前で射精する様子が、生々しく映し出されていた。

 

番組では、芸能人やコメンテーターが興味本位で扇情的な発言を繰り返している。

そして、次々とチャンネルが切り変わるが、

あらゆるテレビ局のワイドショーが放映していることは明らかだった。

(なっ、なんだとっ!!!)

 

スパイダーマンは、驚愕の震えが全身に広がっていくのを感じた。

欲望の虜となった淫乱な自分の姿、白濁した精液を吹き上げる姿が公衆の面前に晒され、

ワイドショーで大衆の慰み者となっている事実に打ちのめされるのだった。

屈辱に加え、忘れかけていた羞恥心までもが蘇ってくる。

全身は恥辱の為に火照りながらも悪寒の様な震えが背筋を走り、

勇気を取り戻しつつあったヒーローの心は再び重く沈んだ。

(俺の・・あんな・姿が・・日本中に・・・)

 

「ワッハッハッ 君の惨めな姿は、日本国民全員が知るところとなった。

 鉄十字団の首領モンスター教授の命令で跪いたスパイダーマンが手淫する光景は、

 今や日本中、いや世界中に放映され注目されておる。

 人間達から見れば、君は鉄十字団の奴隷にまで成り下がったのだ。

 もう、元のような正義のヒーローには戻れないのだよ!」

モンスター教授が、哀れむような口調で絶望に打ち拉がれるヒーローを嘲笑した。

(くそぉっ こっ こんな・・・・)

ワナワナと体を嘶かせながら、恥辱と怒りに震えるスパイダーマン。

マスクの下の素顔は、驚きと怒りに紅潮し、憤怒に歪んでいた。

怒りで全身に力を漲らせると、あらゆる筋肉が膨張し、

上腕二頭筋、三角筋、大胸筋、腹直筋などがクッキリと盛り上がり、

コスチュームに浮かび上がった。

限界まで拡張した筋肉により、ついに身体を縛るスパイダーストリングスが千切れ、

スパイダーマンは肉体の自由を取り戻した。

(俺は、正義のスパイダーマンだっ!

 こんな事で、奴らの思い通りになってたまるかっ!!)

「これしきのことで、俺がおとなしくするとでも思っているのか!」

モンスター教授の呪縛を解くかのように大声で叫んだ。

 

「それだけではないぞ。

 つづきを見たまえ。 

 既に、君は鉄十字団の手先も同然なのだよ!」

スパイダーマンの正義への情熱を打ち砕くかのように、

モンスター教授は更に追い打ちをかけるのだった。

モニターが切り替わり、ワイドショーから一転してニュース番組が映った。

そこでは、飛行するマーベラーが変形し、

黒と銀、要所要所が赤と金で彩られたレオパルドンが

臨海コンビナートを攻撃する様子が報道されていた。

(あぁっ 俺のレオパルドンが・・・・)

自分の分身とも言えるレオパルドンが工場地帯を襲っている事実に

衝撃を受けるスパイダーマン。

全身は戦慄し、湧き起こった闘志が失われていくのを感じていた。

 

自衛隊の抵抗をものともせず、次々に石油備蓄タンクを爆破し、

工場群を火の海に包む無敵のレオパルドン。

火炎に囲まれ、工場を破壊し尽くすその姿は、

これまで鉄十字団のマシンベムを蹴散らしてきた正義のマシンの対極にあり、

悪魔の如き恐怖を身に纏っていた。

報道番組では、アナウンサーがレオパルドンとスパイダーマンを悪の手先と罵っている。

 

「バカな! 俺以外がレオパルドンを操縦するなど不可能だ!」

モニターの前で立ち尽くすスパイダーマンだった。