巨大な箱庭 

 

〜  6  〜

 

 とうとう怪鳥の体を通り抜け、肛門から外に排出されてしまったスーパーマン。

体は白く染められ、おまけに肛門から出る際に何か粘り気のある透明な液体を大量にかけられ、

どこまでも体を汚された状態で外に放出された。

 幸い、あまり高いところを飛んでいたわけではないらしく、

地面に落ちた衝撃は気にするほどではなかった。

 

スーパーマン:・・・・?!・・・・・・・・・・・

 

 地面に落ち、衝撃から体の硬直はあったが、硬直が解け立ち上がろうとしたその時、

体が全く動かないのだ。

いや、正確に言うと動きはするが強力に元の場所に戻されるのだ、

まるでゴムバンドでもつけられている様に。

 徐々に周りの状況がわかってきた。

体についた白い液体だけの時は粘り気こそあるものの、

体の動きを制約するほどの粘性はなく、何も支障はなかったのだ。

問題は肛門から出るときにかけられた液体だった。

この二つが合わさると地球上で言うところの生ゴムの様になることがわかったのだ。

今、スーパーマンは全身余すところなく生ゴムに包まれたのと全く同じ状況なのである。

 

スーパーマン:・・・・んぐっ・・・・・んがっ・・・・・・

       (息が・・・でき・・・な・・・い・・・・・)

 

 瞼も口も開けようにも直に閉じた状態にされるために普通の行動が出来ない。

地面にうつ伏せで落ちたその上体から動きが取れないのだ。

 

パキッ パキパキ

 

 何かを割るような音がし始めた。

耳だけはかろうじて塞がっていないスーパーマンは息が出来ない苦しさの中、

音の発信源を集中して突き止めた。どうやら体の直側から聞こえてくる音の様だ。

 

スーパーマン:・・・?!・・・・・

       (ま、まさか・・・・これが固まっているのでは・・・・・)

 

 スーパーマンが想像したことが寸分狂わずに目の前で起こっていた。

怪鳥が撒き散らした白い液溜まりの端、液体が薄く広がった部分から液体が固まり割れているのだ。

 

スーパーマン:・・・・・・・・

       (こ、これは割れているのか?割られているのか?どっちなんだ・・・・・)

 

 瞼が開けられないスーパーマンが今一番不安に思っていることは、

怪鳥の糞の真ん中にいる自分をさらに狙う捕食者がいるかいないか、ここだった。

実際には薄く広がった部分が割れているだけなのだが、

それは固まっている部分を何かが歩いてきて割っているのかどうなのかが

今のスーパーマンにはわからなかったのだ。

そう考えたが最後、焦りに心が支配され、もがけばもがくほど空気に触れる割合が増え

液体が固まる速さが増すことに気が着かずに暴れ出すスーパーマン。

 

スーパーマン:・・・んぐっ・・・・んぐぅぅ

       ・・・・んんっ・・・・・

       (は、早く・・・逃げないと・・・また・・・・・・)

 

 体をやたらと動かし暴れるが、元の位置に戻され、そしてまた動く。

この悪循環を繰り返し、体力を消耗した上に体にまとわり着いた液体が固まる速さを増してしまったのだ。

 

パキパキパキパキ

 

 とうとうスーパーマンの体の液体も硬化し、固まってしまった。

鉄をも破る力を持つ超人の力をもってしても液体を破ることは出来なかった。

しかし、固まったことは必ずしも悪いことだけではなかった。

 

スーパーマン:・・・んはっ・・・はぁ・・・はぁ・・・・はぁ・・・・・

 

 口についた液体が固まったのを、息をためて吐き出すことで

薄くなった部分に穴を空けることが出来たのだ。

口を覆う全てを破ることはもちろん出来なかったが、呼吸を確保することは出来た。

 地面で身動きを封じられたスーパーマン。

動いてる最中に固まったため、四つん這いで下を向いた状態で固まっているのである。

敗者がうなだれている姿と何が異なるだろうか・・・・・。

 穴をあけることができたのは口の部分だけ、瞼など、他の部分は封じられたままである。

 

スーパーマン:・・・こ、怖い

       ・・・・・ど、どうしたら・・・いいんだ・・・・・・・・

 

 周りの状況がまるでわからないこと、この星で自分が撃退できる生き物など

いないのではないかという疑問から心が真っ黒に染まり、恐怖に支配された。

いつしか、右足の痛みすらも忘れるほど、

頭の中は最悪のシナリオのリピート再生に使われていたのだ。

 正義の超人が地面に惨めな姿で地面にくくられてからどれだけの日が経っただろう。

瞼を覆われ、外からの光を見ることが出来ない彼にとっては本当にどれだけの時間が

経ったかわからないことだろう。

まして、起きていても何も出来ないのだから睡眠を取れば力が出せるかもしれないところを、

あまりの恐怖から一睡も出来ずに永劫の時を過ごしてしまったのだ。

 体の疲れもピークに達し、精神は崩壊寸前である。

 もはや、このまま果てるところだろうと思ったその時・・・!

 

ズドォォォォン   

パキッ パキパキ パシャァァァァァァン

 

 一瞬にして超人を封印していた白い戒めが崩壊した。

何が起きたのかわからずに辺りを見回すと、どうやら木の枝が落ちたらしく

枝の先が触れた衝撃で割れたらしいことがわかった。

 

スーパーマン:た、たす・・かった・・・・・・・・・

 

 その場にへたり込むスーパーマン。

体は白い液体の染みが残り全体的に白くなっているが、やはりスーツやビキニの部分が特に酷かった。

 体が自由になった途端、急に自分の身なりや他のことに頭が回り始めた。

いや、寝ていないせいでさらに判断力が落ちていたからかもしれない。

 

スーパーマン:そ、そうだ・・・・どこかで・・・体を・・洗おう・・・・・・・

       傷の手当ても・・・・しないと・・・・