巨大な箱庭 

 

〜  4  〜

 

 何一つ抵抗できずに右足に卵を産み付けられ、

孵化の時、自らの最期を待つしかなかった超人の周囲に異変が生じた。

 超人を捕らえた巨大な蜘蛛を、さらに巨大な鳥が捕食したのだ。

そして、巣の主だけでは物足らず、巣にくくりつけられていた超人の入った繭も

一飲みにしてしまったのである。

そして、スーパーマンは周りで何が起きているのかわからないまま、

繭ごと体内に取り込まれてしまった。

 

スーパーマン:・・・・ん?・・・・こ、ここは・・・・?!

       ま、繭が・・・ない・・・!

 

 鳥の体内に入る際、食道を通るときに頭を強く打ち付けたらしく

繭の中で気を失っていたスーパーマン。

虫を消化するための消化液でスーパーマンを包む繭も溶かされ、

どのくらいぶりかに自由の身となったのだった。

繭は綺麗に溶け、体を食道のどの片なのか緩やかな傾斜の部分に投げ出されていた。

マントもスーツも、そして端正な顔や髪も食道にこびり付く唾液でびしょびしょに汚されていた。

消化されていないだけ幸運なのかもしれない。

いや、ここで消化されていた方がよかったのかもしれない・・・。

 

スーパーマン:・・・・まさか、こういう形で巣から出るとは・・・・?!

       そ、そうだ・・・・

 

 周りの風景を見て、何かの体内ではあることはすぐにわかった。

自分は巣や主ごと捕食されたのだとすぐに悟った。

 自分が繭の中にいたがためにどうしようもなかった右足の爆弾、

今はなき巣の主の残した子蜘蛛のことを思い出したスーパーマン。

その場に座り込むと右手に力を込め右足に鋭く拳を振るった。

 

スーパーマン:う、うぐっ・・・・・

       はぁ・・・はぁ・・・・

       ま、間に合った・・・・・

 

 スーパーマンは自らの右足に拳を振るい、右足から卵を引きずり出したのだ。

孵化の前で取りこぼしもなく、右足を大きく負傷はしたものの体内から食い破られることはなくなった。

自己再生機能を持つマントを少し切り取り、足の部分に応急処置を施した。

そして、手にした忌々しい卵を床に投げ捨てると、砂糖でも溶かすように卵は解けていった。

 右足の卵の心配はなくなったが、自分の右足は負傷し移動さえも困難、

その上自分がいるのは何かの動物の体内。

状態は幾分かよくなっただけで直に次なる行動を起こさなくてはならなかった。

 

スーパーマン:果たして・・・どうしたものか・・・・

       どうやら、私はこの消化液では溶けないようだが・・・・・

 

 その場に座り込み考え込むスーパーマン。

 この動物からの脱出、傷の手当て、地球に帰る手段を考える。

これから先、大変なことが続くと思うと、本当にここで卵を抜き取ってよかったのか、

この消化液で溶けないことを喜ぶべきなのか、そこを考えてしまうスーパーマン、

その精神はダークサイドの狙ったとおりに徐々に徐々に侵食され、

昔の正義のヒーローである熱い心はなくなりつつあった。

 これからどうするのかを考えているスーパーマンの頭上でもの凄い物音がした。

 

グギュルルルルルルル

 

 どうやら超人をも捕食した生物はまだ満腹ではないらしく、

次の獲物を捕食したようだ。

 轟音を立てて巨大な虫だったであろう肉塊が流れ込んでくる。

 食道を隙間なく埋めて流れてくる肉塊をよける術はなく、

雪崩に巻き込まれた様に肉塊と共にさらに奥へと入っていってしまった。

 

ジャパァァァァァァァァァァン

 

 食道を流れ、たどり着いた空間で肉塊は大きな溶液溜まりに落ちた。

 そこはおそらく胃袋なのであろう。中途半端に溶けた虫の体が

浮かんでいたりする場所から容易に想像が出来た。

 

スーパーマン:・・・・んはっ!・・・

       ふぅ、苦しかった・・・・

       ここは・・・胃袋か・・・・・

 

 肉塊に下半身を埋めた状態で周りを見回すスーパーマン。

自らの巻き込まれた肉塊はプカプカと胃液の海に浮いている。

 食道では自分は消化されなかったが、ここではどうなのかを調べるために

恐る恐る胃液のついた肉塊を触ってみる。

この時既に彼の頭の中は勇猛果敢な戦士から直にでも安全を確認せずにはいられない

臆病な頭に変わっていた。

ここで胃液による消化がスーパーマンに及んでも彼に防ぐ手立てはもちろんなく、

逃げる場所もないことには変わりはないが、

安全を確かめずには考えることすらままならないほどに追い詰められていたのである。

 

スーパーマン:やはり、ここでも僕は溶けないらしいな・・・・・・

       しかし、このままではどんどん消化系を下っていってしまう・・・・

 

 どうやってこの生物から脱出するかを考える。巨大ミミズとは違い、

どんだけ力を込めようとも、今回の生き物の肉の壁は破ることはおそらく出来ない。

しかも、負傷した足で十分に逃げられる手段を考える必要があったのだ。

 ここに着水した時よりも着実に肉塊は小さくなり、そして胃袋の終点へと進んでいった。