巨大な箱庭 

 

〜  3  〜

 

 巨大な星、転送後の始めての戦闘では苦戦を強いられ、

一度は負けたと思われた局面から奇跡の逆転をしたスーパーマン。

 連戦をさけるため、それ以上に強い敵と出会わないために、

鳥に捕食されるのをさけるために行わなかった飛行による移動を行ったのだ。

 

スーパーマン:ん?!・・体が・・・動かない・・・・・

       ま、まさか・・・・これは・・・・・・!

 

 草と草の間に張られた蜘蛛の巣に気が着かず、捕らわれてしまったスーパーマン。

捕まって初めて見えるような細い糸が体を絡め取っている。

目を凝らさないと見えないほど細いにも関わらず、もがけども切れる気配はない。

むしろ、もがけばもがくほどスーパーマンの体は糸まみれになり動きを止められていった。

 主のいない蜘蛛の巣などあるはずもなかった。

巣の上で暴れる小人に巨大蜘蛛は嬉しそうに近づいてきた。

8本の足を器用に使い、愚かな小人の体をお尻の糸の排出口のところで回転させ

効率よく糸を絡ませていく。

地球の蜘蛛と同様にその早業には驚くばかりである。

スーパーマンは最初に体に巻きついた糸のせいで何も抵抗することが出来なかった。

何回、回転しただろう、体は綺麗な白い繭に早変わりした。

先ほどの巨大ミミズとは違い、厳重に重ねられた糸で、

中身がスーパーマンであることは全くわからなかった。

人が一人入るくらいの繭がある、それだけである。

そう、この星ではスーパーマンも通常の人間も何も変わらないのかもしれない。

いや・・・普通の人間であれば少なくとも空を飛ばない分だけ、

蜘蛛の餌食になる可能性はなかったのかもしれない。

 

スーパーマン:くそ・・・な、何も・・・出来なかった・・・・・・

 

 繭の中で目に力を入れいつもよりも強力なヒートアイを放った。

しかし、繭は焼けるどころか傷もつかず、脱出は出来なかった。

もごもご動く活きのいい繭を巨大蜘蛛は黙って見ていた。

そんなことを知らないスーパーマンは必死に脱出のために抵抗し、繭を動かしていた。

自ら生贄にしてくれと言わんばかりに活発に動く繭、

自分が知らない巨大な生き物を前に冷静な判断はもはや彼には出来なかったのかも知れない。

 

ササササ・・・・・

 

 一度は離れた巨大蜘蛛が活きの良い愚かな獲物を手に取り口に近づけた。

その邪悪な口には針が出ており、涎を垂らした獣の様に繭を見つめていた。

 

ブスッ!

 

スーパーマン:グワァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ

 

 針が見事に右足の太股を貫通し悲鳴を上げるスーパーマン。

 繭の揺れは収まり、巨大蜘蛛も繭を放し再び離れていった。

 右足に刺された針は毒針などではなかった。刺したそばから傷を治癒し塞いでいったのである。

それは中に産みつけた卵が落ちないようにするため。

スーパーマンは足に蜘蛛の卵を産み付けられたのである。

それは彼にもわかっていた。

自分の体に進入した新しい命の存在を。

 

スーパーマン:な、なんとか・・・はぁ・・・はぁ・・・・しないと・・・・・

       餌に・・・・されて・・・しまう・・・・・・

 

 頭ではわかっている。

繭を出られないままではいずれ子蜘蛛の餌にされて絶対に助からない。

体の中を食い漁り、腹を破り出てくると。

しかし、現状では体は全く動かせず、頼みの綱のヒートアイが全く効かない。

打つ手なしなのである。

自分の死のカウントダウンが始まった途端、恐怖に心が支配され、

体に居候している命の鼓動が大きくなっている錯覚に襲われた。

 

スーパーマン:お、俺は・・・ここまで・・・なのか・・・・・

       くそっ・・・・こ、こんな・・

       最期は・・・嫌だ・・・ロイス・・・・

 

 自らの右足にセットされた時限爆弾、時間は進むが解除は不可能。

そこで超人の脳裏に浮かぶのは地球で愛した人間のこと。

いつもの不屈の精神はどこにいったのか、蜘蛛を倒す手段、方法はおろか繭からの

脱出方法すらも考える気力がなかった。

それも仕方がないのかもしれない。

この星ではスーパーマンさえも虫けら同然なのである、

その事実に気が着いてしまったのだから・・・・。

 右足に感じる卵の拍動はさっきよりも大きく、そしてまた大きく、

意識を集中する度に大きくなっている気がしたが、今回は誤解や錯覚ではなく本当だった様だ。

巨大蜘蛛にさされてからどのくらいの時間が経ったのかわからないが、

とうとう翌日には孵化の瞬間を迎えるだろう時が来たようだ。

これは同時にスーパーマンの死を意味していた。

産み付けられた卵の大きさから考えて、肉体を食い破るのにかかる時間など知れたものだ。

そもそも、右足を全て食い尽くされただけで終わったとしても、

それではこの巨大な生物の星で彼が生き延びることは不可能に等しい。

そう、卵の孵化はイコール最期の時と同じなのである。

 目を閉じ、静かに最期の時を待っていた、まさにその時、

愚かな超人が捕捉されている網が激しく揺れた。

 

ブチッ ブチブチ

 

 スーパーマンがどれだけ暴れようともびくともしなかった蜘蛛の巣が音を立てて切れていく。

 

スーパーマン:・・・・いったい・・・何が起きているんだ?

 

 超人を繭に閉じ込めた蜘蛛の化け物の姿は既になく、

代わりに地球には間違いなくいないであろう大きさの鳥が巣の辺りを飛んでいた。

そして、蜘蛛を捕食し主のいない巣を眺めていた時、超人の閉じ込められている繭に気がついた。

スーパーマンが卵を産み付けられた時とは違い、繭は動いていなかった、

この時点で鳥に食べられてしまうことは運命だったのかもしれない。

 

バサッ バサバサ バサッ

 

 ホバリングをしながら巣に近づき、繭を一飲みにしてしまったのだ。

 

スーパーマン:・・な、何が・・・・いったい・・・・

       俺は何をされている・・・・?

 

 繭の中からは外界の様子が何もわからないため、

まさか自分が鳥の餌になってしまっているとは思いもしないスーパーマンは

そのまま鳥の体内に入っていった。

この巨大な怪鳥にしてみると、中身がなんであれ繭一つを食べることに何の意味もなく、

食事の中の行為に過ぎないのである。

いや、中身がスーパーマンであったからといって、

そして彼が万全の状態であったとしてもこの結果に幾分も違いはなかったに違いない。