巨大な箱庭 

 

〜  2  〜

 

 地球に攻めてきた、今考えるとスーパーマンを捕らえに来ただけなのかもしれないが、

対峙したダークサイドに圧倒的な力の差を見せ付けられ敗北した。

そしてダークサイドの支配する空間に連行され裁判にかけられたスーパーマン。

一度は死刑と宣告されるも神であるダークサイドの一声でとある惑星に転送されることになった。

まさか、その星が彼が生きた証を残す最後の惑星になるとはこの時は全く思ってもいなかった。

 

スーパーマン:・・・・・・んんっ・・・・・・ん?

 

 転送のショックなのか地面にうつ伏せで倒れていたスーパーマン。

拘束具はもちろん外れ、スーパーパワーも戻っている。

外傷もなかった。

自由になった、そう思いスーパーマンの心も幾分か晴れやかになった。

 倒れていた惑星は地球のジャングルにとても告示した風景だった、ただ一つを除いて。

それは、スーパーマンを除く全ての物が地球のそれとは比べ物にならない程に巨大なのだ。

スーパーマンが小人になった様な錯覚さえ覚えるほどに大きいのだ。

目の前に生える草も飛翔しないと上まで行けない。

地面に溜まる水溜りも湖ほどの大きさがあり、草から垂れる雨粒さえも大きく、

一粒にスーパーマンが入ってしまいそうな大きさである。

 

スーパーマン:こ、これは・・・・・・

       下手に飛ぶと鳥に捕食されてしまうな・・・・・・・

       くそっ・・・・・

 

 何もかもが巨大化している惑星で自分をコマにして遊んでいるダークサイドへの怒りがこみ上げる。

正義の心はあるものの、戦いにもならないほどに相手は強い、

その記憶がぬぐいきれず怒りをこみ上げても、今の彼にはどうしようもなかった。

 しかし、この惑星にもきっと人はいる。

そしてその人に助けを請い、地球へ変える手段を探そうと心に決め歩き出した。

 やっと心に堅く決心したばかりだった矢先、この星の脅威を味わうことになってしまった。

 地面が大きく揺れ、前方から地面が盛り上がり近づいてくるのだ。

 

ボコボコボコボコボコボコボコ

キシャァァァァァァァァァァァ

 

 地面の膨らみから現れたのは地球で言うところのミミズの様な生き物だった。

もちろん、この星の大きさなのでスーパーマンが蟻くらいに見えるほどの大きさである。

そして地球のミミズとの違いは落ち葉よりも動物を好みそうな雰囲気がするところである。

 

スーパーマン:なんだ、ミミズか・・・・お前なんか目じゃないぞ!!

 

 スーパーマンは現れた巨大ミミズに先制攻撃をするために襲い掛かった。

地球ならば降ってきた隕石も怪しい円盤もその一撃で粉砕できる強力な一発を

ミミズの口の少し下に直撃させた。

そう、相手はミミズなのだからダークサイドに敗れはしたが、

地球では超人として称えられている自分が苦戦などするわけがない、

まして負けるなどとは思っても居なかった。

頭がまだ地球とこの星の違いを把握できてなかった。

 

グニョッ

 

 その一撃の後に見られた光景はスーパーマンの予想とは大きく違うものだった。

大きく吹っ飛ぶ、そこまでいかないまでも致命傷を負わせられるはずだと思っていた・・・・・。

致命傷どころか、手がめり込みショックを吸収され、腕を弾き返されたのだ。

この星の生き物の大きさと自分の体の大きさ、そのスケールに頭がまだついていっていない。

相手にしているのは確かにこの星のミミズであろう、

しかし、自分が蟻くらいの大きさではどうしようもないのは明白だった。

蟻の放つ拳などミミズの体表で弾かれて当然なのである。

 

スーパーマン:な、何て体だ・・・・な、ならば・・・

 

 スーパーマンが次の攻め手を決めた時、すでに巨大ミミズは反撃に出ていた。

ここでも超人の頭はまだ事態の理解を完全には行えてなかった。

地球でノロノロ動くミミズなのだから、判断を迅速にしなくとも大丈夫、

そういう心の油断があったのではないだろうか。

しかし、相手にしているのは「地球の」ではなく「この星の」ミミズ、

スーパーマンがそこに気が着いた時には既に反撃を防ぐことはできなかった。

 目も鼻もない口だけの頭から俊敏に足元に近寄り、まるで竜巻の様にスーパーマンの体を回転しながら上っていき、

瞬く間にスーパーマンを締め上げてしまったのだ。

 

スーパーマン:し、しまった・・・・

       み、身動きが・・・でき・・ない・・・・・?!

       な、何を・・・うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ

 

 スーパーマンを締め上げ、頭上から覗き込んでいた巨大ミミズは口を大きく広げ

スーパーマンを頭から飲み込みだしたのだ。

頭をすっぽりと包み、少しずつ少しずつ食べ進め、首、肩、両腕を含め胴体を、

そして両足を包み込み完全に捕食してしまったのだ。

その食べっぷりは地球のアナコンダを想像させるものがあった。

肉食獣の様に噛み付き、と食べるのではない。

そう、しゃぶるという表現が正しいのかもしれない。

広げた口をスーパーマンの体の輪郭に合わせて這わせることで飲み込んでいく。

肌色のペンキでも塗った様に、見る間にスーパーマンの体は染まっていく。

目や鼻、口などのくぼみも忠実に再現され、マネキン人形でも見ている様な錯覚に陥ることは間違い。

体が包まれる間、じたばた動くスーパーマンの抵抗など、

まるで何もないものとして微動だにせず食べ進めた。

 あまりに巨大なそのミミズは大人一人捕食したが、

捕食した人間が体のどの部分にいるのかもわからないほど体の大きさに変化はなかった。

 

スーパーマン:(ま、まずい・・・・

       この星では私などミミズの消化液でも溶けてしまうかもしれない・・・・

       出し惜しみはしていられないな・・・)

 

 ここにきてようやく自分が相手にしているものの正体がわかった。

しかし、時既に遅く、どんどん体の中を奥へと追いやられるスーパーマン。

地球では、ミミズごときに自分を溶かすことなどまず出来ない。

だがしかし、この星では違う。

本当に特別な存在などではないことに恐怖し、

今自分は1匹のミミズの栄養にされかかっていることを理解していた。

 自らの右手に力を込め、全身のエネルギーを集中させた。

 

グワァァァァァァァァァァァ

 

 腹の中からスーパーマンの腕が飛び出し、腹を突き破られたミミズは絶叫しながら

地面の中に逃げ帰った。

ギリギリ消化されるのを免れ、脱出に成功したスーパーマン。

しかし、ダークサイドの護衛をしているエリート部隊ならいざ知らず、

下等生物であるミミズにここまでエネルギーの消費を強いられるなどとは想像もしていなかった。

 地面に四つんばいになり、息を荒くするスーパーマン。

地球に置き換えて考えると、ミミズを捕食するための鳥やモグラなどが現れる可能性がある。

ミミズで奇跡の逆転をした彼にはモグラなどには勝てるわけもなかった。

 今は狩られる側であることを恐怖しながらその場を急いで後にした。

何者にも屈しない不屈の心に陰りが見え始めた。

 当初、この星で飛行するのは危険だと思ったが、歩いていては進みが悪い。

歩いていても危険ならば飛行して危険な時間を短縮しようと考えた。

 この選択こそが間違いだったのだ・・・・・・