(5)


ラディゲの言ったとおり、変身はできるらしい。だが、竜が変身しても彼の自信に満ち

溢れた態度が変化することはなく、指で「かかってこい」と挑発さえしている。相手を見

下し、極度の上から目線な態度を貫くラディゲはジェットマンに対しても襲い掛かるよう

に向かってくることが多いが、今日はやけに物静かで紳士な姿勢を見せている。その様子

には違和感がありすぎた。ラディゲの妙な様子に罠と感じ、動くに動けないでいる竜は、

間合いを取りつつ、ラディゲの隙を計ろうとする。だが、ラディゲは竜が全く動かない様

子を見ると、

 

「所詮、レッドホークも雑魚に過ぎないか。一人では俺様に襲い掛かることすらできない

弱虫ということだな」

 

 と鼻で笑い、野次まで飛ばし始めている。黙って冷静になろうと耐える竜は、静寂を破

って怒り任せに向こうから向かってくるまで待ち、彼らの真の姿や作戦を暴き出そうと考

えていた。ドームの外に仲間がやってくるまでの時間稼ぎにもなり、長官達がドームの解

析を行うこともできるだろう。竜は屈辱に耐えて彼らの作戦を打ち破ろうとしている。し

かし、ラディゲはそれを見抜いていた。

 

「仲間を待ち、このドームを破壊させるつもりだな? だが、このドームは中にいる俺や

こいつらの力と連動している。どれだけドームを解析しようとしても、俺達を倒さない限

り、ドームの強度が落ちることはない。それでも戦わないつもりか? それにな……」

 

 ラディゲは竜の様子に戸惑いや焦りが見え始めたため、ゆっくりと言葉を続ける。彼ら

と連動していると聞いた直後から、戦うべきかどうかを迷いだしているのが微かな身体の

動きから感じ取れたようだ。わざとゆっくりと何か含みがあるように話し、さらに動揺を

誘っている。

 

「このドームは内部にお前を閉じ込めるだけではない。外部に向かって熱光波を出すよう

に設定してある。ひとたび受ければこのようになる!」

 

 ラディゲが指を鳴らすと同時に、ドームの頂点から光線のような物がいくつも放たれた。

それらは森を一瞬で燃やし、鉄塔や建物を破壊し、地面を大きく抉り、近くの池を消滅さ

せるほどの力を持っていた。周囲が焼け野原や荒地に変わり、竜は動揺し始めている。こ

のまま待機していれば彼らはドームの外に向かって攻撃をするだろう。今は周囲が何もな

い場所ではあるが、次第に範囲を広げることは間違いない。

 

「さてどうする。俺達を倒せばお前も地球も助かるんだぞ?」

 

 ラディゲはさらに挑発し、竜を煽ってくる。仲間が集結する様子もなく、連絡も取れな

い今、これ以上、耐えているわけにはいかない!竜は攻撃に打って出た。

 

「こうなったらやるしかない!! ジェットウィング! ブリンガーソード!」

 

 竜はジェットマンスーツの背面から上腕にかけて隠されている翼を広げて宙に舞い上が

り、ラディゲと戦闘員達に向かっていく。基本装備のブリンガーソードを構え、スピード

と共に彼らにその斬撃を浴びせかけようとした。だが、竜がラディゲを切りつけた瞬間、

剣はラディゲを通り抜けてしまい、空振りに終わってしまった。

 

「何っ!? うわっっ、……な、何をするっ! 離せっ!!」

 

 竜は攻撃がラディゲを通り抜けたことに驚き、体勢を立て直そうと再び空へ舞い上がろ

うとした。だが、些細な隙をつかれ、竜は戦闘員達に地面に引き摺り下ろされてしまった。

腕力やパワーがグリナム兵と半端なく違い、抵抗しようとした竜だが、逆に彼らの力に屈

するように地面に押し倒されていく。手にしていたブリンガーソードも戦闘員に奪い取ら

れてしまった。

 

「どうやら気づいていなかったようだな。お前の目の前にいる俺は偶像だ。お前は幻に攻

撃を仕掛けたのさ。それにも気づかないとはバカな奴だ」

 

「何だとっ!!」

 

 竜はラディゲの言葉に怒りを露にしたが、同時に気づけなかった理由にも思い当たった。

光のドームの中では鏡のようになっているのか、天井から地上に光が反射されている箇所

が多く見られ、その光に当った影は薄く見えてしまう。ラディゲはそれを上手く利用し、

影があるかどうかが分かりにくい状態を作り上げていた。そのため、偶像であることに気

づけなかった。

 

実は本来ならヘルメットに内蔵されている小型コンピュータがそれを気づかせられるの

だが、ここがゲームの中であり、その設定がゲームから取り払われているために機能して

いなかったのだ。それを今の竜は、このドームが自分の戦闘スーツを狂わせていると考え

ていた。手足をかなりの力で押さえ込むグリナム兵たちに竜は苦戦し、その竜をラディゲ

が覗き込んでくる。

 

「悪いが、俺は今忙しい。お前の他の仲間をドームに寄せ付けないための別の作戦を展開

中で、お前に構っている時間は少しもない。せいぜいそいつらの相手でもしていな」

 

 この場を離れるらしく、ラディゲの身体が少しずつ薄くなる。彼の言葉と共にグリナム

兵たちが竜の周囲を取り囲んでいた。先ほどよりも数が増えているようにも見える。近く

で見ればさらに気味の悪い姿だった。

 

「そいつらは野生化した次元獣をグリナム兵に改造した俺の家畜だ。そいつら1体が次元

獣1体と同様の力を持つとでも言っておこう。俺には服従し、屈服するようにはしたが、

俺以外は襲うように言ってある。グレイ達が苦渋を漏らしたくらいだ、お前が耐えられる

ことはないだろう。俺が戻ってくるまでに耐えていられたら、その時は褒美をやる。せい

ぜい頑張ることだ」

 

 ラディゲは竜を嘲笑いながら姿を消した。通信ができない竜は知らなかったが、他の仲

間はラディゲの別の作戦で足止めを受けていた。実は巨大次元獣が町で暴れているため、

いくら時間を稼いでも無駄だったのだ。それに、長官が解析を終えていても、むざむざと

救援をここに向かわせることはしない。ラディゲはさらに手を打ちにいったのである。

ラディゲの思い通りの状態になり、竜は屈辱を感じていた。