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 新たなステージは無人の石切り場であった。だが、竜は自分がゲームの中にいることは

すっかり忘れてしまい、一条総司令の作り出した設定による記憶を信じ込んでいた。

 

 現在日本各地で謎のエネルギーが発生し、ジェットマンはそれぞれ別行動し、その場所

の調査に向かっているという状況になっている。ブルーとイエロー、ブラックとホワイト

がコンビとなり、竜は一人単独で動いていた。本来なら未知のエネルギーに対して研究員

を向かわせる予定だったが、グリナム兵の姿が確認され、バイラムの地球征服の野望と関

連しているのではと考えられ、ジェットマンが向かわざるをえなくなった、ということに

なっていたりする。変身していないのは、変身後の姿が赤いから目立つためだった。

 

 竜は周囲を見回し、敵がいないか、棄権はないかを確認しながら無人の石切り場に足を

踏み入れる。しかし、報告があったようなエネルギーが発生していると思われる様子は全

くなく、グリナム兵の姿すら見当たらない。おまけに、辺りはやけに静まり返っている。

 

「何かおかしい……、これは一体……」

 

 竜は疑問に思い、他の場所にいる仲間に確認を入れてみたが、彼らもまた何も発見する

ことはなかったことが分かった。そのため、小田切長官からは撤退命令が下され、竜はブ

レスレットの通信スイッチを切り、基地に戻ろうとする。だが、異変が起きたのはその直

後だった。突然奇妙な機械音が周囲から聞こえたかと思えば、地面からいくつもの光が空

へと放出し始め、空中でそれらが交差しあい、光のドームを形成してしまった。竜は何事

かとドームの壁に近づいてみるが、ドームの壁面との間が数十センチの距離まで近づいた

瞬間、壁面から強力な電磁波が放出され、思いもよらぬ反発的反応によって弾き返されて

しまい、壁に触れることはおろか、ドームの外に出ることもできない。

 

「バードブラスター!!」

 

 変身前とはいえ、グリナム兵がいることを考えて武器は装備している。目の前の壁を破

ろうと攻撃をするが、放たれた攻撃は反射され、倍以上のパワーを持って帰ってくる。咄

嗟に避けたが、強力な破壊力に変わっていた。ブリンガーソードを使っても同じことが起

こりかねない。

 

「罠だったのか? 早く長官に知らせなければっ!!」

 

 竜は再び通信のスイッチを入れるが、全く電波が繋がらず、基地に連絡を取ることがで

きない。ブレスレットからはザーザーという雑音のみしか聞えない。そこに聞き覚えのあ

る声の高笑いが聞こえてきた。

 

「今頃慌てても無駄なことだ。この中では通信は不可能なのだからな。そしてレッドホー

ク、ここがお前の墓場だ!!」

 

「ラディゲ!! お前の仕業だな!!」

 

 竜が振り返ると、そこにはグリナム兵に似た姿の戦闘員達とバイラム幹部の一人ラディ

ゲが立っていた。戦闘員達は姿は似ているが、武器を手にしていない。大きな違いは涎を

垂らし、牙を生やした口を露にし、鋭い爪のある手をしていたことだ。ラディゲは顔を引

きつらせている竜を見て笑っている。

 

「そうさ、お前をし止める為にちょっとした罠を仕掛けた。グリナム兵達に擬似エネルギ

ー体のカプセルを持たせ、お前たちでも気づくようにわざと動かし、お前たちを分散させ

た。そしてノコノコやってきたお前を閉じ込めたのさ。思った以上に簡単に引っかかった

ようだな!!」

 

 ラディゲは竜が罠にかかったことが嬉しいらしく、笑みを崩す様子がない。次元獣の姿

もなく、手下を従えただけの様子なのに、今日に限っては揺るぐような気配すら見られな

かった。

 

「このドーム内で例え変身はできたとしても、通信は妨害する仕組みにした。それに、お

前たちが逃げ出せないようにバードニックウェーブを弾く造りになっている。もし攻撃で

きたとしても、先ほどのように壁に弾かれるだけだ。お前はここで逃げることもできない

まま、最期を遂げるんだ!!」

 

 ラディゲは得意げに作戦を最後まで語っていた。作戦をわざと明かしているように見え、

焦った様子はない。隙がありすぎるといっても過言ではなく、それだけ目の前にいるレッ

ドホークを確実にしとめられると考えているのだろう。

 

「お前たちが何を言おうとも、俺はそれを打ち破ってやる!! クロスチェンジャー!!」

 

 竜は変身ブレスを構え、レッドホークに変身した。