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【 GAME OVER 】

 

 電子音のような声が聞こえ、思わず竜は目を覚ました。だが、身体を起こすことができ

ない。四肢から身体に至るまでがガッチリと拘束されており、首を動かすことしかできな

くなっている。そのうえ、頭には何かを被らされているのが分かった。

 

「どういうことだ……」

 

 意識を失うまでの間、自分は十字架にかけられ、触手攻めに合っていたはずだ。だが、

今は何故かヘルメット型マスクだけが解除されただけの戦闘スーツ姿のまま、何処かに寝

かされ、拘束されている。

 

「目が覚めたようだな、レッドホーク……、いや、天道竜」

「誰だっ!!」

 

 どこかで聞いたような覚えのある声がし、それに向かって怒鳴る。自分を見下し、蔑む

ような感情が含まれたその口調には確かに聞き覚えがあり、自分の横には見覚えのある人

物が立っていた。

 

「い、一条総司令っ!! あなたがどうして……」

「ゲームオーバーになって目が覚めたようだな。だがその代わり、お前は自分の意思を保

てなかった。だからお前の仲間は悲惨な目にあってしまったようだな」

 

 一条総司令は竜の言葉に答えずにスクリーンを竜の前に出すと、とある映像を見せた。



「が……、凱!!」



 そこには竜と同様、ヘルメット型マスクだけを解除した状態の凱が写っている。だが、

凱は四肢をかなり頑丈に拘束され、身体や首さえも動かせない状態で身体のあちこちに電

極をつけられ、頭には無数のコードがつけられた装置を被らされている。グッタリして意

識はないようだったが、竜の視線は凱の下半身に集中していた。凱の股間の黒いスーツか

らは大量の白い液体が染み出しており、さらには黄色い液体が流れ続け、足を覆うタイツ

型の白いスーツを汚してしまっている。

 

「お前は私の作り出したゲームの中に意識のみを送り込まれていたのさ」

「何っ……、いつの間にそんなこっ……!!」

 

 竜はその時に思い出した。本部で凱と共に身体を鍛えていた時、突然現われた一条総司

令が謎のガスを噴射し、そのガスを吸った直後に意識を失ってしまったことを。トレーニ

ング中に戦闘が起きたという記憶は一条総司令の作り出した紛い物だったのだ。そして意

識を失っている間に一条総司令によってどこかに運ばれ、このような状態にされてしまっ

たのだろう。

 

「思い出したようだな。私は小田切綾に復讐を仕掛け、ネオジェットマンを作ったが、結

果的には失敗してしまった。一命をとりとめ、このように動くことはできるが、それも長

時間は不可能だ。だが、私がこのようになったのはお前たちが悪いんだ!! だから私は

小田切綾への復讐として、お前とそいつを標的に選んだのさ」

 

 一条総司令はそう言うと、近くの機械を始動し始めた。そこにはレッドホークが森の中

で立っている映像が写っている。それは自分が歩き続けていた森の中だった。

 

「私は人間の意識を送り込むことができるゲームを作り、お前の意識をゲームの中に閉じ

込めた。お前はゲームを攻略するか、ゲームオーバーにならないと外に出ることはできな

い。ただし、どちらになろうとも、お前がゲームの中で受けた攻撃は、そこのブラックコ

ンドルに向かうようにセットされている。しかも、もしゲームオーバーになれば、さらに

強烈な攻撃、お前がゲームの中で受けたものとは半端にならない威力のものが流れるのさ」



 つまり、竜の意識はゲームの最中は凱の身体とリンクされていると言うことだ。例えど

のような攻めを受けたとしても、ゲームの中で竜が射精しても、現実での竜の身体に影響

は及ばない。意識がダメージを受けるだけだ。だが、現実で竜の身体が影響を受けなくて

も、凱は意識を持ったまま延々とダメージを受け続ける羽目になり、竜がゲームオーバー

になれば、それよりも強力な攻撃が凱に与えられる。



 多分今のようにグッタリと意識を失っているのは、竜がゲームオーバーになったのが原

因だろう。多分竜が意識を戻すまでの時間さえも一条総司令が操作していた可能性もある。



「お前はゲームの中でバイラムの攻撃を受け、触手攻めに合った。もしそれを耐え切り、

触手を引きちぎって十字架から解放されていればよかったのだが、お前は触手攻めに苦し

んだ末に意識を失い、ゲームオーバーになったのさ」

 

 その結果が映像のとおりだろう。竜が10回も触手によって封じられていた絶頂に匹敵

する攻撃が凱の身体に送られ続け、もし途中で果てたとしても竜が意識を取り戻すまでず

っと続けられたのだ、凱の意思とは関係なく。現実の攻撃がどれほどまでリアルなものか

ははっきりしないが、凱がグッタリしている以上、予想もつかないものだったに違いない。

 

「俺をゲームの中に閉じ込めて陵辱し、わざと俺がゲームオーバーになるように仕向けて

凱を苦しめたのか」

「いかにもそうだ。お前はそのゲームの中で力を限りなく0にされた状態でクリアすれば

いいが、私の作ったゲームの中でそれは不可能に近い。現にお前がいたのは最初のレベル

1の敵キャラクターしかいない場所でな、ステージはまだある。次は先程の場所から少し

進めておく。ステージが終わるたびに、或いは途中でゲームオーバーになるたびにこうし

て意識を取り戻させてやる。お前とそいつ、どちらが廃人になったとしても私には関係な

い。私はどんな手を使ってでも復讐出来れば満足なのだからな」

 

 一条総司令はそれだけ言うと、竜の頭部につけられた装置を起動させた。竜は抵抗しよ

うとしたが、自分の意識がゆっくりと遠ざかり、先ほどいわれた言葉が少しずつ忘却され

ていくのを感じ、紛い物の記憶が頭の中にゆっくりと流れ込み、自分はバイラムと戦って

いる最中にはぐれてしまったと思い込み始めていた。

 

「さてレッドホーク、今度はどのような陵辱を受けてもらおうかな?」

「ならば、先ほどの数倍上を行くものがいいだろう」

 

 一条総司令は奇怪な笑みで画面を眺め続け、その横には新たな人物が姿を現していた。

一条総司令は既に地球すら裏切り、バイラムの一員になっていたのだ。本来ならば敵であ

った人間をジェットマンをたたかうこと以外で倒せる方法を思いついた者こそ、一条総司

令を仲間に引き込んだその人だった。

 

「では……単独行動中に雑魚にされるがままになる、と言うのがいいでしょうね」

「それは面白そうだな、雑魚に狂わされるレッドホークか。それならば、こいつのデータ

を入れておこう、さぞうまみを見せてくれるだろうからな」

 

 2人の男はそう言って、静かに微笑んでいた。