スーパーマン編

 

第5話:実験の始まり

 

 正義の超人・スーパーマンはバットマンとロビンを救出するために

敵のアジトに乗り込んだ。

 オブジェにされた2人を見せられ、敵の出した交換条件を

しぶしぶ飲んでしまった正義のヒーロー。

 騙されたことに気がついてもすでに手遅れ・・・

敵の計画通りにことが進み、救出どころか自分自身の命も敵に掌握されてしまったのだ。

 悔しさと怒りに満ちたスーパーマンとは対称的に冷静に実験の準備を進めていくジョージ・・・。

ジョージ:モルモット君・・・そこに入るんだ

スーパーマン:・・くそっ・・・・

ジョージ:休む暇なんてないんだ・・・

      早速実験を始めさせてもらうとするよ

サァァァァ・・・ガシャン

 途方に暮れるスーパーマンは悪魔の指示に抗うことが出来ずに

指定されたカプセルへと歩みを進めた。

 大人1人が入るとあまり隙間がない程度の大きさのカプセルにスーパーマンが入った瞬間、

カプセルの入り口が閉ざされ、密閉されてしまった。
 

スーパーマン:と、閉じ込められた・・?!・・・

ジョージ:捕まったヒーローっていうのはいつ見ても気持ちがいいもんだなぁ・・・

      ふふふふっ・・・・

 用意されているカプセルに欠陥などあるはずもないことはわかっているが、

両手でカプセルの内壁を触り、カプセルを破壊出来ないか探ってみた。

 罠にかかり、捕まり、モルモットと呼ばれても正義のヒーローであることには変わりはなかった・・・。

 ヒーローが無意識に行ったこの動作は惨めさを強調する行為以外のなにものでもなかった。

サァァァァァァァ・・・・

スーパーマン:・・・?!・・・・な、なんだこれは・・・

ジョージ:・・・・・・

スーパーマン:・・・?!・・・ね、粘つく・・・・

 カプセルの天井の排出口から透明な液体が降り注ぎ始めた。

 体に付着した液体を払い落とそうとすると糸をひくくらい粘度が高く、

天井から滴り落ちてはモルモットの体を汚していった。

 透明な液体は体に付着すると拭うことなど出来るわけもなく、

手で払っても薄く広がり体を包み込んでいった。

 体から液体が払い落とせないことがわかるとカプセルの内壁を探る動作を懸命に続けた・・・

奇跡でも起きることを祈りながら・・・・。

シュウゥゥゥゥゥゥゥゥ・・・

スーパーマン:・・?!・・げほっ・・・ごほごほ・・・ガ、ガス・・?!・・

ジョージ:安心して・・・

      毒ガスとかではないから・・・・

 あるはずもない内壁の欠陥を見つけることが出来ず、

全身漏れなく透明な液体に汚し尽くされてしまった。

 毒液というわけでもなく、セメントの様な液体でもない・・・

ただの恥辱行為なのか?と思い始めた獲物にカプセルは

容赦なく次の責め手を披露し始めたのだ。

 透明な液体が止んだと思った矢先、天井から無臭のガスが充満し始めた。

 「毒ガスではない」そのガスは瞬く間にカプセルに満たされていった。

シャァァァァァァァァァ・・・・

スーパーマン:・・・?!・・・クリプトナイト?!・・・

ジョージ:違うよ・・・さぁ、モルモット君・・・

      ここからが仕事だよ

スーパーマン:・・・?・・仕事?

ジョージ:体に異変はないかい?

スーパーマン:・・・・?!・・・か、体が・・・うご・・・か・・・ない・・・・

 カプセルの天井からガスに代わり降り注ぎ始めた深緑色の液体は

スーパーマンの体の自由を奪っていった。

 透明な液体とは違い粘度はなく、内壁を勢いよく流れ落ち、

床の排水溝へと流れ込んでいく。

 しかし、スーパーマンの体に降りかけられた液体は体にこびり付き

流れ落ちる様子はなかった。

 精悍な顔つきも、鍛え上げられた美しい肉体も全てが汚く染められ、

実験用のコスチュームだと渡された青いスーツも色がわからないほどに

汚されていた。

スーパーマン:・・な・・んだ・・こ・・・・・れは・・・

ジョージ:その2種類の液体とそのガスは君達、超人を捕らえるためのものなんだ・・・

スーパーマン:・・・・捕・・・らえ・・・る・・・?

ジョージ:そこで、その全身固形化の状態を打ち破れるか試したいんだ・・・・

      手を抜いて嘘をつけば・・・わかるね?

スーパーマン:・・・・・・・(くそっ・・どこまでも卑怯な・・・・)

ジョージ:わかったのか?モルモット

スーパーマン:わか・・・・た・・・・・

 悪魔との会話の間も体の隅々まで固形化液はいきわたり、

体の表面を容赦なく固めていった。

 透明な液体で体に付着する足がかりを作り、ガスで固定液をトラップ、

固定液は狙ったものだけを確実に固めていくという仕組みだった。

 スーパーマンが破れない硬度で固められてしまうとなると、

この捕獲用の液体の完成度はかなり高いものとなる。

 この実験のデータを渡すことは仲間の危機を招くことにもなる・・・

しかし、データを渡さないと2人が・・・・選択の余地はなかった。

シャァァァァァァ・・・ッス・・・・・

 全身を漏れなく固め終わったのを確認したジョージは

観察しやすいように固定化液を止めた。

 邪魔な液体は全ては床の排水溝に流れ込み、視界を遮るものがなくなったカプセルの中には

ブロンズ像の様にされたスーパーマンが哀れにカプセルの壁を探った姿のまま

残されていた。

ジョージ:固まっていない部分はあるかい?

スーパーマン:(・・・ない・・・・・君の予定通りに隅々まで固まってしまったよ・・・・)

ジョージ:なるほど、あの液体の細かさで十分ということだな

スーパーマン:(満足か・・・・?)

ジョージ:いや、ここからだよ・・・どう?その戒め・・・

      破れそうかい?・・・体の力だけ元に戻していいよ・・・


スーパーマン:(・・・・チャンスだ!・・・)

 ジョージが欲しいデータはここからだった。

 固まってからの安定性を知りたかったのだ。

 ブロンズ像の様になったスーパーマンが脱出可能かどうか・・・・

これが一番大事だったのだ。

 洗脳状態にある今のスーパーマンには、ジョージの許可がなければ

超能力も体に備わった力も使うことが出来ない。

 超能力は復活しなかったが、体の表面を封じているブロンズコーティングを打ち破るため、

力を解放された今がチャンスとばかりに体中に力を漲らせた。 

スーパーマン:・・・・・・(そ、そんな・・・馬鹿な・・・・・)

ジョージ:なるほどね・・・硬度は十分ってことか・・・

      ありがとう・・・じゃあ、力はまた封印させてもらうよ

スーパーマン:・・・・・(くそっ・・・・・・)

ジョージ:今日の実験はここまで・・・

      今日はそのままあの2人と仲良くお喋りしたらいいよ・・・くくくくっ・・・

スーパーマン:(馬鹿にしやがって・・・・)

 カプセルを台ごと移動させ個室へと運んでいった。

 そこには化石にされたバットマンと生きた剥製となったロビンがすでに静置されていた。
 

ジョージ:明日、また実験の時間が来たら迎えに来るよ、スーパーマン

スーパーマン:(2人とも・・すまない・・・・わたしも捕まってしまった・・・)

バットマン:(謝るのはわたしの方だ・・わたしがしっかりしていればロビンも君も

       こんな目にはあわなかった・・・)

ロビン:(ご、ごめんなさい・・・僕が捕まったりしなければ・・・)


 互いに自分の落ち度が原因だと謝りあう3人。

 ジョージの狙い通りにヒーロー達の心は暗く染められ、焦りと絶望の色が濃くなっていった。

スーパーマン:(幸か不幸か実験はまだ続くらしい・・・

         必ずジョージを倒して助けてみせる!待っててくれ)

バットマン:(・・・すまない・・・・)

ロビン:(・・・・・・・・・・)


 まだ心が折れていないスーパーマンの言葉に反応できない2人。

 彼らは知っている・・・バットマンもロビンも同じことを思ったのだ・・そして・・・・・。

 その先は考えないようにしたが、すでに体の表面をブロンズでコーティングされ、

力を封印されている状態に希望など見出せなかった。