せえるすどらいばあ(3)

 

必死に軽トラを走らせるヒデアキ。

横ではケンジが眠っている。

ヒデアキは安全運転で本部から表彰を受けた事もある男だった。

その男はいま、制限ぎりぎりのスピードで表通りをすっ飛ばしている。

もはや彼の中にはケンジを救いたい、という思いだけで動いていた。

ラリーにも出場した事のあるヒデアキはその巧みなテクニックで

渋滞をもろともせず、進んでいく。

「遅いよ! いつものサカグチさんはどうしたの?」

「すいません。急病で・・・。」

「頼むよ! 今度から注意してね。」

得意先は激しくドアを閉める。

「ったく、何で俺が・・・」マナブは切れ気味になっていた。

さっきからこの調子が続いている。かなり遅れたため行く先々で

客に怒られっぱなしだった。

今やっと最後の配達先を終えた。

「それにしても、ケンジさん・・・。一体何が・・・・。」

マナブは全裸で痙攣していたケンジの姿が忘れられなかった。

全身体液まみれでアノ姿が頭にこびり付いてはなれない。

マナブがこの仕事についたのは3ヶ月前のことだった。

それまで、マナブは人間関係に恵まれていなかった。

小さいときに父親の都合で外国に渡り、16歳のころに日本に戻ってきたが

どういうわけか不良の道を突き進み、暴走族のヘッドにまで上り詰めてしまった。

暴走族から足を洗い、まともな人生を歩もうにも、誰からも相手にしてもらえない。

この宅配便の仕事も、20数社受けてきて、やっとの事で採用された物の、

営業所の人間でさえ、最初マナブを遠ざけていた。

そんな状況を変えてくれたのはヒデアキとケンジだった。

ヒデアキとケンジは何も判らないマナブに1から教え、時には厳しく、かつ優しく、

しかし、駆け引きナシに親身になってマナブに接してくれた。

人間嫌いになっていたマナブはこの2人のおかげで人間嫌いを克服する事が出来た。

そして、世間もマナブという人間を受け入れてくれるようになっていた。

先輩のヒデアキやケンジに色々な事を教えてもらっていたマナブ。

いわばヒデアキとケンジは"恩人"だった。

だから、彼にとってケンジのアノ姿はショックだった。

一体何が起きたのか、もし、誰かにやられたのなら絶対許せない。

「すいません。」

ハッとしてその声の方向にマナブが振り返る。

「アレ・・・・」そこには誰も居なかった。

「何だろう・・・」マナブは再び正面を向き歩こうとした、その瞬間、

バシッ!! 「ウッ!!」腹部にものすごい衝撃を受けたマナブは

一瞬のうちに意識が遠のいていった。

キックボクシングで鍛え上げていたはずのその肉体は、

いとも簡単に崩されてしまい、その場に倒れこんでしまった。

その姿を見下す一人に男。横たわったマナブの、ピッタリと身体にくっ付いた

シャツ越しに、マナブの分厚い胸板を摩りながら、ニヤッと笑った。

あるマンションの一室。

ワンルームの部屋の中には生活に必要な最低限な物意外は殆ど無い。

ヒデアキは回りの住民に気付かれないかドキドキしながら、この自分の部屋に戻ってきた。

180cm以上あるケンジを軽々と抱え、何ら苦労なく部屋まで運んできてしまうところは、

この仕事に慣れているヒデアキだから出来る事だった。

作業用の上着に包まれたケンジは汗は引いたものの体液が乾き、若くて艶やかなはずの肌が

ガビガビに強張っていた。

ケンジを抱えたままヒデアキは考えた。

「このままじゃ、かわいそうだ。まず、身体の汚れを取ってやらないと。」

ヒデアキはまず、身体の汚れを取ってやろうとケンジを抱えたままシャワールームへと向かった。

シャワールームのタイルの上に全裸のケンジを寝かせる。

見事すぎるその肉体も、体液にまみれ黄色く変化していて、惨めな姿を晒していた。

ケンジは弱めの水量でシャワーを出し、そっとケンジの肌にお湯を掛ける。

お湯を掛けるとボディシャンプーを取り、手で泡を立て、全身まんべんなく洗う。

そして、ヒデアキはケンジの身体に決定的な"証拠"を見つけてしまった。

「? このアザ、まさか・・・」

ヒデアキは、ケンジの太く、幾重もの血管の走った腕を見て、驚いた。

そこには、1cm四方の青白いアザがあった。

ヒデアキはその部分に手をかざしてみる。

すると、その部分がオレンジ色の光を放った。

「やっぱり・・・・」

全てを確信したヒデアキ。しかし、今はこの不快な状況から開放しなければ行けない。

ヒデアキは、再び身体を洗い始める。

ヒデアキは最初、"身体を洗う"という事しか考えていなかった。

しかし、ヒデアキは洗う面積が広がるにつれ、モヤモヤとした雰囲気が湧いてきた。

「・・・・・」なぜか、股間だけ一番最後に残し、丁寧に洗いつづける。

全てを洗い終え、たかのように見えた。

しかし、股間だけ手付かずのままだった。

迷っていた・・・・。手をつけていいものか・・・。

しかし、身体の汚れの中でその部分が一番ひどかった。

ヒデアキは何とか自分を奮い立たせ、股間に手を伸ばした。

平常なのに、何ともいえぬ重量感にヒデアキは一瞬気が狂いそうだった。

けど、「これはケンジを救うためなんだ!」と自分に言い聞かせ、

何とか全身を洗い終えた。

タオルでケンジの全身を包み込むように大きめ伸びるバスタオルを

ケンジの全身に巻きつけるように拭いてやると、そのままベットへと運んだ。

ベットに横になったケンジ。

前から予感はしていた。

ピチピチの作業用の半袖からでた太い腕。

見え隠れする青白いもの。

気のせいかと思っていた。しかし、今日ソレは確信に変わる。

そして、今日ケンジを嬲り尽したのも・・・・。

何かが"動いている"ような気がした。

ヒデアキは、ケンジを見て、改めて思う。

「やっぱり・・・・」

ヒデアキは目を閉じ、何かを考えている。

「ケンジを救うには・・・。これしかない。」

ヒデアキは全ての覚悟を決めたかのように、自分の制服を脱ぎ始めた。

ヒデアキの美しい肉体が露になる。色は白いが、分厚く重量感を持つ胸板、

割れた腹筋、太い腕、どこをとっても欠点となるバーツが一個も無いパーフェクト

な肉体だった。

そして、彼もあの青白いアザがあった。胸板の上に、小さく。

一糸まとわぬ姿になるとヒデアキはまず、寝息を立てるケンジの上に覆い被さった。

野性的な顔ながら、寝ているときのケンジはまるで純真無垢な子供のようだった。

ヒデアキはケンジのアザに自分のアザを近づける。

すると、互いのアザは今までに無い真っ赤な炎のような光を放ち始めた。

「やっぱり・・・。ケンジ ごめん。けど、お前しかいなんだ。」

心の中で必死に誤りながら、ヒデアキはそーっとケンジを抱き始める。

するとどうした事か、抱き合っている2人の身体が虹色に光始めた。

ケンジは少し身を捩ったが起きることなく、ヒデアキの"洗礼"を受けていた。

ヒデアキの肉体がオレンジ色に光ると、その光がケンジの肉体に移るかのように、

ケンジの肉体もオレンジ色を放つ。それを7色ほど行うと、さっきまで疲れきったように

色あせたケンジの肌のツヤや色が元の若々しい肌に戻っていった。

ケンジは元の身体に戻ったようだ。

ケンジのその姿を確認すると、ヒデアキはゆっくりと起き上がり、まだ子供のような寝息

を立てているケンジに向かって、心の中で「ありがとう」という言葉を何度も繰り返す。

「うっ・・・」一瞬立ち眩みが起きる。ケンジにエネルギーを注入したため、

かなりの疲労がたまってしまった。

元気になったケンジを見て、ヒデアキは僅かな意識の中で喜ぶ。

「よかった・・・元気・・・になっ、て・・・」

そう心の中で思い、ケンジを見下ろした瞬間。全てを使い果たしてしまったヒデアキは

その場に倒れこんでしまった。

「・・・・? ここは・・・」見覚えのある景色。ここは確か・・・。」

ケンジはさっきまでとんでもない目に遭ってたのにかかわらず、その身体がキレイになり、

例の"発作"が無くなっているのに気付く。

しかし今は、自分がどこに居るのか気になった。

そしてケンジは一瞬息を呑んだ。

ヒデアキが床に全裸で倒れていたのだ。

「ヒ、ヒデアキさん!?」ケンジはヒデアキにかけより、ヒデアキを抱き起こす。

「・・・? ケンジ・・大丈夫か?」ヒデアキは蚊の泣くような声で

ケンジを見つめる。

「大丈夫です。それより、どうしたんですか?」ケンジはヒデアキを抱いていた。。

「もう、大丈夫だから・・・。」ケンジの抱き上げた手を優しく振り解くと、

その場に座り込む。遠くを見ながら、何か感慨にふけっているようだった。

その姿をケンジは心配そうな表情で見つめる。

ヒデアキは静かに、かつ言葉を選びながら喋り始めた。 

「俺達は・・・選ばれたんだ。 ケンジ、腕にアザがあるだろ?」

ケンジははっとなった。昔から気にはなっていた。

「これって・・・まさか」 ケンジは今までの疑問を解くときが来た。

「信じられないと思うけど、俺達は不思議な力を持っている。」

「その力は何のためなんですか?」ケンジが聞く。

「・・・一言で言うと、平和を守るため。」

? 訳が判らなくなるケンジ。

「敵は・・・?」

「いろいろいる。まだ何も無いんで、実感は無いと思うけど。」

ケンジは考え込んでいた。急に言われても・・・・。

しかし、その後の事は普通の人間とは違っていた。

「ヒデアキさん」ケンジは急に元気になり、満面の笑みを浮べながら、

「おれ、その、何か訳わかんないけど、それでもいいっすよ。」

ケンジは心の中で決めていた。自分が今一番尊敬するヒデアキに頼られた事が嬉しかった。

「ケンジ・・・・」予想していたとはいえ、ケンジの真っ直ぐさが嬉しかった。

P・・・・

ヒデアキの携帯が鳴った。

「はい、イトウです。あ、課長、荷物の方は・・・。え? 何ですって・・・。」ヒデアキの顔は一瞬にして曇った。

「?」その表情にケンジも何かを感じる。

「・・・わかりました・・・。」P・・携帯をきるヒデアキの手は震えていた。

「どうしたんですか?」

「・・・マナブが・・・最後の配達先を出たところから行方不明だそうだ。」

「エ!?」ケンジが驚く。

「ケンジ・・・もう、始まってるかもしれない・・・・。」

始まっている。そう、この時、ヒデアキとケンジ、そしてマナブは大きな"うねり"の中に引きずり込まれた。