慟哭のスーパーマン(3)
動揺しているうちにスライムは私の体を包み込み、もう残っているのは顔の部分だけだった。
スライムは保存液で濡れた私の体に張り付きお互いが結合していく。
もがいても、払いのけようとしても効果がない。
私は周りに転がっている骨の様に消化されてしまうと思い、懸命に転げ回った。
しかし、スライムは一向に離れる気配がない。
そして、私はもっと恐ろしいことに気がついた。
クリプトナイトの首輪が外れたのだから、力が戻っても良さそうな頃なのに
一向に力が戻らない。
それどころか、まるで近くでクリプトナイトの光を照射されているような感覚に襲われた。
何かに力が奪われ、転げ回ることもできなくなり、とうとう顔も頭も全てをスライムの
中に取り込まれてしまった。
これで、私も終わりだ、そう観念した時、ルーサーから衝撃の事実を告げられた。
R:はっはっはっはっ、本気で逃げられると思ったのかね?
S:(?!)
R:さっきのは演技だよ、必死に逃げようと這いずる君の姿はなかなかいいものだったよ。
S:(えっ・・演技?)
R:そうそう、力が出ないだろう?どうしてだと思う?
S:(まさか、光を照射してたのか?いや、違う、どこからも光は出ていない・・・・)
R:分からない様だな、君の今包まれているスライム、
これが単なるスライムだと思ったか?
S:(?! こっこいつなのか・・・・・)
R:そいつは君の身体中に付着した保存液を餌とし、
それを舐める際、液体のクリプトナイトを分泌する様に作ったのさ、
この意味がわかるか?
S:(そっそんな・・・・それでは・・・・・)
R:お前は全身をクリプトナイトでコーティングされたんだよ。
はっはっは・・・・・
私がルーサーからこの言葉を聞いた時には全身から力が抜けて意識を失ってしまった。
R:やつを回収してこい!次の段階に移る!
ルーサーの指示で部下が地下に降りてきて、
乱暴に私をルーサーの部屋に引きずり挙げた。
マネキンでも扱う様に・・・・
私が目を覚ますと、標本にされたカプセルの中に再び閉じ込められていた。
しかし、今回は保存液は注がれずにいた。
確かに保存液など今更不必要だった。
全身をクリプトナイトで包まれた私には普通の人間以下の力しか出せないのだから。
R:気分はどうだい?
S:さっさと・・殺し・・たら・・・どうなん・・・だ・・・・・
R:まだまだ、君には楽しませてもらわないといけないからね。
おい、始めろ!
何かの機械が作動しだし、カプセル内にガスが注がれた。
ルーサーの悪だくみを素直に受け入れられない。
必死に呼吸を制御したが、敢え無くガスに侵された。
だが、むせるだけで体には異変が起こるでもなかった。
R:そのガスが毒ガスか何かと思ったか?
S:な・・なにを・・・する・・・つも・・・りだ・・・・・
R:そのガスは君の体についたクリプトナイトを固定する固定剤だよ。
もう二度と君の体から剥がれることが無い様にな
S:そ・・そん・・・な・・・・・・
狭いカプセルの中では絶望に膝をつくことすらできなかった。
固定化されてしまっては、たとえアジトから逃れたとしても意味がない。
もはや脱出も叶わないということを断言されたのと同じだった。
ルーサーのオモチャとして過ごすほかなくなったのだ。
私が絶望にうちひしがれた間にも、カプセルの中はガスで満たされ、
身体中、隅々までクリプトナイトが固定化されていった。
カプセルがゆっくりと開いた。
その狭さゆえのカプセルという支えを失い、起っているほどの力を持たない私は、
無様にもルーサーの目の前で四つんばいに屈してしまった。
そんな惨めな私をルーサーは笑顔で見つめつつ、
手にしたガスマスクの様な装置を私の顔面に乱暴に装着しだした。
外部とのつながりは、口の当たりから伸び、怪しげなタンクに繋がったチューブのみになり、
マスク内は完全に遮断された。
顔を被う大部分は透明な素材で、私の表情が確認できる様になっていた。
そして、マスクの装着が終わると部下が装置を作動させ、マスクの中にガスが注がれた。
ガスの影響で苦しみ苦痛に顔をゆがめてしまった、
悪の天才の狙い通りにルーサーを喜ばせる結果になってしまった。
S:うわぁぁぁぁぁ・・・・くっ・・苦しい・・・・
R:はっはっはっはっ、いいぞいいぞ。
いい顔が出来るじゃないか、スーパーマン!
S:ぐわぁぁぁぁぁぁぁ・・・・・
私はのど元を必死に掻きむしり、マスクを外そうと試みたが無駄であった。
ついに諦め、胸元をかきむしりルーサーの足下で床を転げ回る以外になかった。
R:これで、お前は体のうちも外もクリプトナイトで包まれたんだ!おめでとう
S:・・・・・・・・・・・
R:気絶したか・・・つまらない。
おい、もういいぞ、止めろ!
私が苦しみのあまりに気絶したことでガスマスクによる拷問は終了した。
この悪に染まった男は、私の希望を完膚無きまでにたたき壊すことを最初から狙っていた様だ。
私に残されたのは死を待つだけの希望と、死すら安らかに思えるほどの絶望のみだった。