慟哭のスーパーマン(2)

 

どのくらいの時間が経ったのだろうか・・・・・

私はルーサーの目的に図らずとも荷担してしまった。

目当ての超人の精は取り尽くされた。

股間と口に取り付けられていたチューブは既に外され、

下ろされたビキニもきちんと挙げられていた。

 

R:おはよう!スーパーマン!

S:ル・・・・ルー・・サー・・・・・・

R:君のおかげで今回のプロジェクトは大成功だよ。

S:や・・・・やめ・・・るんだ・・・・

R:君は正真正銘の正義のヒーローなんだな、尊敬するよ。

  おい、お前達、予定通りこいつを私の部屋に!

S:ま・・・・まて・・・・・・

 

私の呼びかけも虚しくルーサーは部屋から去っていった。

部下に何かの指示をしたらしく、拘束されていた椅子から無理矢理に立たされ

ステージの様な場所に起立させられた。

クリプトナイトの影響で力が出ないばかりか、状況判断能力も著しく低下している私は

その場から逃げようという気にならなかったのだ。

 

「ウィーーーーーン」という機械音が頭上からしたかと思うと、

瞬く間に透明なカプセルに隔離され、狭い空間の中に閉じ込められた。

頭上の天面は開かれていたが、他には何もない標本ケースの様な単なる筒だった。

ルーサーの部下達は何やらコントロールパネルで操作を始めるやいなや、

天井からドロドロした液体が降り注いだ。

容赦なく私に降りかかり正義のヒーローのシンボルである青いスーツも、ビキニも、

私の全てを汚していった。

私が液体にただただ驚いている間、その水位はどんどん嵩を増し、

あっという間に腰元まで達していた。

その液体は直ぐに効果を発揮した。

液体に浸かっている下半身が全然いうことをきかないのである。

痺れ、まるで自分の体ではないかのような感覚に襲われた。

体の異変に気がついたが、しかしその時の私にはどうしよもなかった。

水嵩はどんどん増していき、胸板を越えて首元にまで達していった。

倒れることを許さないカプセルの中で、私は粘性の液体に支えられて立ち尽すしかなかった。

カプセルの壁を調べていた両手も、痺れから自由にならず、

液体の中でだらりと浮ぶに任せた。

瞬く間にカプセルは、軽々と私の頭を凌駕するまでに液体で満ちた。

ルーサーは私に安易な死など与えてはくれなかった。

この液体は体から自由を奪い、逆に酸素を供給した。

液体に満たされてから天井の空洞が閉じてカプセルが動き出した。

先ほど、ルーサーが消えていった部屋にカプセルが移動しだしたのだ。

 

R:遅かったじゃないか!待っていたんだぞ、スーパーマン!

S:(くっ・・・そういうことか・・・・・・)

 

私はルーサーの意図が直ぐにわかった。

私が運ばれた部屋には、世界の各国にいるテロリストのリーダーの姿があったのだ。

私のDNAから出来た兵器であることの証明と、私が二度と邪魔が出来ないことの証明、

そして何よりもルーサーが私よりも強いことを証明するために、私は標本にされたのだと。

 

R:どうですか、皆さん!私の言ったことは嘘じゃないでしょ?

  ここにいるのはあのスーパーマンです

T:本当に捕まえたのか?!

R:はい!さぁ商談に移りましょうか!

 

ルーサーは私をまるで珍獣でも見せる様にテロリストに見せたかと思うと、

向き直り、哀れな標本の方へと歩いてきた。

 

R:これで終わりだと思うなよ。はっはっはっはっはっ・・・・・・

 

標本にされ屈辱を味わった気でいた私が甘かった・・・・・・

しかし、もう動き出した悲運のスパイラルを私にはとめられなかった・・・

私は甘かった。

ルーサーが素直にロイスを解放するなんてあり得なかったのだ。

その甘さが原因で、私は標本にされ、味わったことのない屈辱に晒されている。

そして、私はルーサーのことを何もわかってはいなかった。

私を軍事利用し標本にして、屈辱を舐めさせ、なぶり殺しにするものとばかり思っていた。

 

R:いやいやすまないね。商談がひっきりなしに続くので君にかまってあげられなかったよ、スーパーマン。

S:(私もとうとうここまでか・・・・・)

R:おい、準備は出来ているか?

部:はい!準備は出来ています。

  アレには当分の間餌を与えてないので、十分な働きが期待できます!

R:よし、やつを予定通りにいれるんだ!わかったな・・・・

S:(昨日から何も与えてないだと?? こんな状態では闘いなど出来はしないぞ・・・・・)

 

この時、私には何を言ってるのかわからなかった。ルーサーが地下で何を飼っているのかも想像がつかなかった。

いや、この悪の天才の考えることなど何一つわかりはしなかった。

私が保存液の中で恐怖に包まれつつある中、カプセルは開いた床にゆっくりと入っていった。

カプセルが降り立った地下室には動物の骨と思われる残骸がそこら中に転がっていた。

私の寸分先の運命だと生唾を呑んでいた矢先、カプセルの底面部分がぱっくりと割れ、

保存液ごと私は地下室の床へと強かにたたき落とされた。

床に落とされた衝撃がチャンスを運んで来た。

「パリーーンッ!!!」と、首についていたクリプトナイトが砕け散ったのだ。

 

R:何をやっているんだ!あいつに逃げられるではないか!

部:すっ・・すいません・・・・・

S:(これはチャンスだ! 今のうちに逃げよう!)

 

私がこのまたとないチャンスを活かそうと、痺れて自由にならない体を引きづりながら、

必死に地下室の汚らしい床を転がるように進んでいった。

そうする内、私の視界に広がりだしたのは、私を餌にしようとしている得体の知れない、禍々しい生き物の群れだった。

無数の薄い緑色のスライムの様な生き物が私にじりじりと近づいていた。

 

R:早く何とかしろ!あいつが逃げてしまう!!

S:(このチャンスを活かさなければ!)

 

やっと訪れたチャンスに慢心していた私は、スライムへの警戒心は完全に失われていた。

 

S:んっ?

 

私は足にひんやりする感覚を覚え、不意打ちをくらった様な気分で足元を見た。

そこには目の前にいるのと同じスライムが足にへばりついていたのだ。

足に気を取られていると、目の前の大群が一斉に押し寄せ、私の体にどんどんへばりつく。

 

S:なっ・・なんだこれは・・・・!