デカレッド陵辱(3)

  地下の住処

         

 気絶していたデカレッドは、体中の鈍い痛みで目を覚ました。うっすらと目を開け

て、バイザー越しに、今自分がいる場所を把握しようと頭を巡らせる。

 薄暗くて、湿気が多い空間である。窓のようなものは一つもなく、壁に空けられた

穴にろうそくが立てられ、ボンヤリとした明かりを灯している。

 目の前には樫の木か何かで出来た立派な机が置かれていて、部屋の隅にある扉のあ

たりを、ドロイド達がうろうろしていた。

 腕を動かそうとすると、手につながれた鎖がジャラリと重たそうな音を立てる。両

手を上につり上げられたまま、デカレッドは床に座らされていた。

 ドアを軋ませながら、ジュノーが何かの瓶を手に部屋の中へと入ってきた。

「お目覚めかい?」

「ここは・・・」

「ここは俺様の家だよ。地面に掘った穴の中さ。俺もお前も仲良くモグラの仲間入

りってわけ」

 ジュノーはそう言うと、デカレッドの前に置かれた机についた。そしてビンの中の

液体を注射器に移して、自分の腕に針を刺し、液体をゆっくりと流し込む。

「あぁ・・・効くな・・・」

「お前一体・・・」

「これか?」

 と言って、ジュノーは瓶を指さした。

「こいつは俺の星で作られてる合成麻薬さ。お前も打つか? 一発でトリップできるぜ」

「ふざけるな! ・・・俺をどうするつもりだ?」

 デカレッドはジュノーを睨み付けた。

「お前はただの人質だよ。要求が通るまでは俺達のオモチャってわけ。兄貴が釈放さ

れて、お前と引き替えに要求した身代金が届いたらさっさと故郷へおさらばよ。お前

が変な事しなけりゃ傷一つつけずに仲間のところへ帰れるんだぜ?」

「これを外せ! お前を捕まえてやる!」

「おいおい、そう熱くなるなよ。小便小僧が」

「何だと!?」

「お前覚えてないのか? 俺がお前のナニをぶん殴ったら、お前小便垂らして気絶し

たんだぜ? 股の染みを見てみなよ」

 そう言われて、デカレッドは顔を下に向けた。股間のあたりに妙な染みが確かに付

いている。

「俺が・・・」

「そう。小便漏らして気絶したんだよ。ありゃ傑作だったぜ。お前のマヌケ面を仲間

達も見てただろうよ」

「クソ! 離せ!」

「離してどうするんだ? 俺を逮捕するってのか?」

「そうだ! 離せ!」

「まったく・・・。分かっちゃいないみたいだが、お前に俺は倒せない。なんでか分

かるか? 分からねぇだろうなその脳みそじゃなあ」

「お前が時間をいじって卑怯な手を使うからだろ! 俺は負けないぞ!」

「・・・おもしれぇ事言うじゃねぇの。じゃあこうしよう。お前は武器を持ってな

い。俺も武器は使わず、時間もいじらない。それで対等に勝負してお前が勝ったら俺

を好きにすればいい。逮捕するなり殺すなり好きにすりゃいい。ただしお前が負けた

ら身代金の額を倍増して、お前は俺の言うことを何でも聞く。どうだ? 悪くないだ

ろう?」

「ああ・・・。そりゃ名案だぜ。じゃあ早くこれを外せ!」

「いいだろう」

 ジュノーは机の引き出しから鍵を取りだして、デカレッドの両手にはめていた手枷

を外してやった。

「でもよ、お前足を怪我してるんだ。立てるのか?」

 デカレッドは自分の足を見た。パックリと開いた傷口は包帯が巻かれていて、どう

やら気絶している間に手当をされたらしい。

「誰が包帯を?」

「俺だよ。大事な人質だ、死なれたら困るだろ」

「じゃあそれだけには礼を言うぜ」

 デカレッドは壁に手をついて、ゆっくりと立ち上がった。だが、いきなり足が痛ん

で、その場に座り込んでしまった。

「手を貸してやろうか?」

 とジュノーが手をさしのべるが、デカレッドはそれを払いのけ、痛みを堪えながら

ゆっくりと立ち上がった。

「根性だけは一人前だな」

 ジュノーはそう言って、ドアの前まで歩いていくと、デカレッドの方を振り返った。

「お前は足を怪我してる。それじゃフェアじゃないよな? だから俺はここから一歩

も動かない。腕だけを使ってお前と戦う。お前は好きにすりゃいい。こんなハンデを

くれてやるんだ、少しは感謝してくれよな」

「そんなハンデなんか・・・」

「おい、強がり言うなよ。俺だって男なんだからな。少しは顔を立てろよ」

「・・・じゃあありがたく受け取っておくぜ。後悔しても知らねぇぞ!」

 デカレッドは足を引きずりながらジュノーに近寄り、サッと身構えた。足から来る

鈍い痛みを堪えながら、じっとジュノーを見据える。

 ジュノーは両手を広げたまま動かない。

 どこからでもかかってこいってわけか・・・。俺はデカレンジャーなんだ。負ける

わけにはいかない・・・。

「行くぞ!」

 デカレッドは声を上げて強く地面を蹴ってジャンプすると、ジュノーの顔めがけて

キックを放った。

 だがジュノーはそれを避けて足を手で払いのけ、レッドのみぞおちにパンチを食ら

わせる。

「ぐほッ!」

 デカレッドが体勢を立て直して、ジュノーへと突進していく。そして素早くパンチ

を繰り出した。だがそれもジュノーは素早く避け、デカレッドの右腕を掴むと、がら空

きになった右の脇腹へチョップを食らわせる。

「ぐあッ! うごぉッ! ぐはッ!」

 三発チョップを食らわせたジュノーは、握ったままの腕をねじり上げ、今度は顔に

パンチを食らわせる。

「がぶッ!」

 みぞおちにパンチを食らったデカレッドの体が宙を舞い、背中が机に叩きつけられ

た。机が壊れて土埃を上げる。

 足を押さえながら立ち上がり、デカレッドは雄叫びを上げて、再びジュノーに突っ

込んでいった。

 パンチを何度も繰り出すのだが、その全てをガードされ、攻撃が一発もジュノーに

届かない。

「おいおい、そんなんじゃいつまでたっても俺を倒せないぜ? ミイラになって干か

らびちまう」

「黙れ!」

 パンチとキックも通じず、デカレッドは半歩下がった。

 こいつは今までのとはまるで違うぞ・・・。攻撃を交わすスピードも、パンチを繰

り出すスピードも、今まで俺が知ってる奴らとは全然違う・・・。俺は、勝てるのか・・・。

 デカレッドは攻撃がまったく通じないことに驚いて、本当に勝てるのかと自分自身

を疑いだした。

 だが状況を切り開くのは、自分自身の他ならない。何とかするしかないのである。

それを悟ったデカレッドは、そばに落ちていた机の破片を拾うと、それを振りかざし

てジュノーの頭めがけて振り下ろした。

 するとジュノーはそれに素早く反応して、両手をつきだし破片を叩き折ってしまった。

 その瞬間、ジュノーの目つきががらりと変わった。

「お前・・・」

 体のそこから絞り出すような、低い声でジュノーは呟いた。

「ルールを無視したな」

「何のことだ?」

「俺は武器を使わねぇ! そう言っただろうが! 素手で勝負すると! それなのに

お前は今何をした!? 俺が素手で勝負すると言ったらお前も素手で勝負するのが筋

だろうが! このクソッタレのウジ虫め!」

 ジュノーはデカレッドを怒鳴りつけ、ゆっくりと歩き出した。

「そうか・・・。俺様のルールが気に入らねぇってわけだろ? ならルールを変えよ

うじゃねぇか」

 ジリジリと歩み寄ると、デカレッドが後ずさる。

「ルールは一つ。・・・何でもありだ!」

 ジュノーが雄叫びを上げてデカレッドに突進し、デカレッドの股ぐらを蹴り上げた。

「ぎあああああッ!」

 高く舞い上がったデカレッドの体が天井にぶち当たって地面に落ちると、ジュノー

がデカレッドの背中を思い切り踏みつけた。

「ぐおッ!」

「俺を怒らせた奴はどうなるか教えてやろう。あれはある星へ兄貴と観光に行った時

だった。そこの星の王族が乗った車が、ちょうど俺達のそばを通りかかった。前の日

には雨が降って、地面には水たまりがいくつも出来てた。王族の車が俺達の隣を通り

すぎようとした時、その水たまりの水をはねて、俺は泥まみれになっちまった。さて

問題です。そのあと王族はどうなったでしょう?」

 ジュノーはデカレッドの頭を持ち上げた。

「正解は首をちょん切った、でした!」

 そう言って、デカレッドの頭を地面に叩きつけた。

「俺を怒らせてただで済んだ奴はいねぇんだ。覚悟しなデカレッド!」

 ジュノーは叫んで、デカレッドの体を放り投げると、壁にかけてあった銃をもっ

て、デカレッドの股間に狙いを定め引き金を搾った。ビームがデカレッドの股間に当

たり、火花を噴いた。

「ぐわああああああああああああッ!」

 股間を押さえながら地面でのたうち回るレッドに向けて、ジュノーは何度も引き金

を引く。ビームが命中するとデカレッドのスーツが火花を噴き、デカレッドが部屋を

揺るがすほどの悲鳴を上げる。

「ぐあ・・・ぐは・・・」

 地面に倒れて体を痙攣させているデカレッドをジュノーは持ち上げ、再び壁にもた

れさせて手枷をはめた。

「お前はどうやったって俺には勝てないんだ!」

 そう言って、ジュノーは銃のストックをデカレッドの胸に叩きつけた。

「ぐがあッ!」

「そらどうした!? もう一度小便漏らすか!?」

 今度はストックをデカレッドの股間に叩きつける。

「うわあああああああッ!」

 ジュノーは銃を構え、足の傷口に銃口を向けると、引き金をゆっくり搾った。

 ビームが発射され、包帯を突き抜け、足の傷口を焼く。デカレッドの体が感電した

ように激しく震え、足から血が流れ始めた。

「こっちにゃ武器が腐るほどあるんだぜ。俺を怒らせたことを後悔させてやるからな!」

 ジュノーはデカレッドから離れ、壁にかけてある銃や、床においてあるロケットラ

ンチャーを集めだし、部屋の隅に置いてあるロープでそれらにぐるぐると巻き付けて

一つの巨大な武器を造り出した。

「さあ、地獄の苦しみを味わえ!」

 ジュノーが引き金を引くと、弾丸やビームにミサイルが一気に発射され、全てがデ

カレッドの全身に命中する。

「ぐはッ! げふッ! ぐはあああッ! ぐわあああッ! うあッ! ぐあああああ

あああああッ!」

 デカレッドのスーツが至るところで爆発し、激しく火花を噴く。命中するたびにデ

カレッドの体が跳ね上がり、火花が血飛沫のようにあたりに飛び散った。

 ジュノーが武器を床に捨てると、地面に落ちている机の残骸を拾い上げ、デカレッ

ドに叩きつけたあと、机の脚を持って、デカレッドの腹に叩きつけた。

「ごはああッ!」

 机の脚で顔を殴り、それを放り投げてデカレッドの首を絞めると、何度もパンチを

食らわせる。

 デカレッドの頭がふらつき始めると、今度は剣を持ち出してきて、デカレッドの体

を切り裂いた。

 ヒュッと剣がデカレッドの体を切るたびに、

「ぐわあああああああああああああッ!」

 とデカレッドが壮絶な悲鳴を上げて身悶える。切れたところからスーツのカイロが

むき出しになり、止めどなく火花を散らしている。

 剣の柄(つか)でマスクのバイザーを叩くとヒビが入り、一部が欠けてデカレッド

の目が見えた。

 涙目になり、怯えた目つきでジュノーを見つめている。

「何だよ・・・。何なんだよその目は!」

 ジュノーは叫び、パンチをみぞおちに食らわせた。

「ぐぼぉッ!」

 体が耐えきれなくなり、デカレッドはマスクの中に血を吐いた。それが欠けたバイ

ザーの隙間から飛んで、ジュノーの体に飛び散る。

「俺の体を汚しやがったな!」

 もう一発パンチを決めると、

「ぐがあああああッ!」

 とデカレッドが叫び、また血を吐く。

 そうやってしばらくデカレッドを痛めつけて、少し落ち着いたジュノーは、壊れた

机の残骸の中から、小さな箱を取りだした。

 箱を開けると、紫色の液体が入った小瓶が収められていた。ジュノーはそれを手に

取り、デカレッドの足の傷口へ、紫色の液体を流し込んだのである。

「これがなんだか分かるか? ナノマシーンってやつだ。こいつがお前を体の中から

攻撃する。最後には内蔵を食い破って爆発するんだ。そしてお前は死ぬ!」

「死・・・」

「そうだ。お前は死ぬ! もう交渉なんかしねぇ! この勝負お前の負けだ!」

「俺は・・・負けてなんか・・・」

「黙れ! 黙れ黙れ黙れ黙れ! そのマシーンを動かす前に、まだまだお前には痛み

を味わわせる必要がある。耐えろよ? じゃないと面白くないからな」

 そう言ってジュノーが手を叩くと、ドアから何十体ものドロイドが部屋に入ってき

た。手には剣や銃など、ありとあらゆる武器を持っている。

「俺が戻るまでお前ら好きにしていいぞ!」

 そう言って、ジュノーは踵を返し、部屋を出ていった。

 ドロイド達がゆっくりとデカレッドに近付き、そして一斉に襲いかかった。

 ビームがマスクに当たり、剣で体を切り刻まれ、股間に鉄板をはった棍棒が叩きつ

けられる。

「ぐわああッ! がはあッ! ぐほおッ! ぐわああああッ! うああッ!」

 ドロイド全員が武器を捨て、ロケットランチャーを構え、狙いをデカレッドに定める。

 そして一斉に引き金を引いた。

 それがデカレッドの目にはスローモーションに映った。ゆっくりと、自分を殺そう

という明らかな悪意を持った凶弾が、炎を噴きながら自分に向かって飛んでくる。

 一発目が胸に当たり、大爆発を起こし、二発目は足に・・・。

「うわああああああああああああああああああああああッ!」

 ミサイルの集中攻撃に晒されたデカレッドは壮絶な悲鳴を上げた。

 爆炎が収まり、煙がうっすらと腫れてくると、デカレッドの無惨な姿があらわになる。

 マスクはボロボロになり、スーツはほとんど意味をなさないほどに破壊され、コー

ドや回路が露出し、火花を散らしている。体中が黒く焦げ、怪我をした足からは肉の

焦げる嫌な匂いが鼻を撲つ。

 生きているのが奇跡と言うくらいだ。

 今まで散々苦しめられてきたドロイド達は、ちょっとした勝利に喜び、一人ずつデ

カレッドを殴ったあと部屋を出ていった。

 デカレッドは大きく息を吐くとゆっくりと目を閉じ、何度か咳き込んだ。口から血

を吐き、マスクの中から真っ赤な血が漏れだし、スーツや地面を赤黒く汚していく。

 デカレッドの受難はこれで終わったわけではない。まだほんの始まりに過ぎなかっ

たのである。