暗黒の英雄伝説

 

第2話 〜 祝杯

 

拓哉中尉の審問会より2ヶ月の月日が流れた。

拓哉中尉らの機甲師団第1小隊によって、拘禁されたアレーナガードの司令官である

ゴールドラガーがこのダークセーバー統合作戦本部の独居房に収監されて2ヶ月の

時間が流れ、アレーナガード達は自分たちの指揮官の奪還作戦を計画立案しだした・・・


しかし・・難攻不落の代名詞のような統合作戦本部に収監されては闇雲に司令官を

探し廻っても虚しく時間を浪費するのみであって、消費された時間は決して

彼等の労に報いる事とならない。

ゴールドラガー救出隊が編成されるにいたって、アレーナガードの隊員達は協議の上、

行動力と統率力で定評の在るケンを推し彼もこの任を受け入れた。

ケンはアレーナガード司令官のゴールドラガーをダークセーバー軍の魔手より

救出する為、アレーナガードの中でも屈強な20名の隊員を選りすぐり、

ダークセーバー等の警戒網目を掻い潜り、ダークセーバー統合作戦本部の在る都市への

侵入に成功した。


そして、ゴールドラガー司令官の安否情報を収集しようと人々に聞きこみを重ねたが、

ダークセーバー軍の侵攻以来、軍に叛き反抗的な抵抗をしてきた人々の有様を

目の当たりにしてきた 人々の口はとても硬く思うような情報は中々入手が出来ず

虚しい時間のみが流れて行った・・・・・

時間がたつにつれケン達、救出隊員達の間には焦りが生じ始めていた。

それは彼等が解放軍、護民軍を意識してダークセーバー軍との戦闘を繰り広げ、

市民の支持を得られたと思っていたが、その肝心の市民からは期待していた情報が

ほんの少ししか 漏れ伝わらなかった。

 

そんな折、1つの情報が実しやかに隊員達の心を捉えた。

それは、「ダークセーバー軍の叛徒の首魁であるアレーナガード司令官ゴールドラガーを

本部施設内において、1週間の後に処刑する」との情報だった・・・・・・

後、1週間しか時間が無い・・・・・

焦る彼等は今まで以上に統合作戦本部内の情報収集にやっきになった。

しかし・・・・ケンを始めとするアレーナガード等が必死に収集したがっていた

ゴールドラガーに関する情報は意外なところから漏れ伝わってきた・・・・

夜陰に隠れ情報提供者はダークセーバーの統合作戦本部より転がる様に逃げ出してきた・・

その情報提供者は全身の内6割程度を包帯で包まれてはいたが、

顔は中世の仮面舞踏会で着けていたような仮面をはめ、セミロングの茶髪の頭髪を靡かせ、

アレーナガードが潜む小屋に現れた。

アレーナガードの隊員等はその風采から、統合作戦本部内でかなりの拷問を受けた

市民だと思い、彼の身体の安否を口々にしながら甲斐甲斐しく彼の手当てを申し出たが、

情報提供者は頑強にこれを拒み彼等が喉から手が出るぐらい欲しがっている情報を

ぽっり・・ぽっりと洩らし出した・・・・・


その情報とは次のような物だった・・・・

統合作戦本部の詳細な見取り図、憲兵と衛士の人数と夜勤時の人数、交代時間、

そして、司令官のゴールドラガーの拘禁場所の情報だ・・・

しかし、アレーナガード等を驚愕させたのは、ダークセーバーの総統である洸牙に関する

詳細な情報だった・・・・・

この男が言うには、この洸牙に関する情報を集める為にこれだけの時間が必要だったと

伝えた。


それから・・5日間時間が更に流れる

洸牙は敵の司令官であるゴールドラガーと対面していた

「卿の奮戦も今宵が最後だ・・・

 我が軍の精鋭部隊を3個師団ばかり卿の本部へと送った・・ハッハハ

 そうだ・・今宵で叛徒らは殲滅される ハッハハーーー」

それを聞いたゴールドラガーは顔面を引きつらせながら・・

「くそー俺達がお前等のような卑劣な悪に屈するかぁぁぁぁーーー」

 と洸牙に食って掛かるが洸牙はそんな彼に向かって

「自軍の司令一人助け出すことも出来ん烏合の衆を叩くなど赤子の手を捻るより

 容易い事だ

 卿は自分の軽率な愚行を自ら呪い苦しめ・・・っと言っても直ぐに仲間の元へ

 行けるがナ」

それだけを言うと高笑いを残し、ゴールドラガーに背を向けて彼を収監している独房を

後にする

ただ一人残されたゴールドラガーはまるで熊のようにその大きな体を牢の中で右に左に移動させ

「くそー馬鹿にしやがってー まてー洸牙ーーー」と叫ぶ声が広い独房の廊下に虚しく響いた。

 

それから1時間の時が流れた。

洸牙は一日の公務の大半を終え、自室で冷たいシャワーを浴びその疲れを癒した。

しかし、今夜は叛徒の中でも組織的な活動を繰り返し彼の軍に抵抗していたアレーナガードを

殲滅するべく大部隊を送り出し、その吉報を待ちわびる心で気分はそぞろになり、

日常の冷酷な元帥からは想像しがたい・・・満面の笑みを称えてシャワールームより出てきた。

  

彼は、半乾きの体に淡い色の小さな下着を穿きそして、シルクのバスローブをその身に纏い

大きなレザー張りのソファーに体を沈めた・・・

その時だった・・・・

大きな樫の扉をノックする音が微かに聞こえる。

彼は従卒の聖と司に目配せし、来訪者を確認させた。

来訪者は「夜分に失礼いたします。憲兵内務部長の裕哉大佐です。財務報告書

が仕上がりましたのでご確認いただきたく、失礼とは思いましたが出頭いたしました。」

と来訪の用向きを伝えた。

洸牙は「裕哉大佐か・・・いいだろう・・・入りたまえ」

と大きなソファーにその身を沈めたままで来訪者を部屋に招き入れた。

入室の際に従卒の司に書類を手渡し、聖の先導で洸牙の傍らまで通された

全軍から鬼人の如く恐れられている元帥の傍らで伏目がちに彼が書類に目を通し

終えるのを待つ裕哉大佐・・・

弟、拓哉少佐の審問の際に近くで洸牙を目にした彼の印象は自分の弟を死に導く恐ろしい

白い幽鬼の様に思えたのだが、今自分の前で従卒から書類を渡されなが目を通す姿は

以前のような恐ろしさは微塵も感じさせないものだった。

裕哉大佐の持ってきた書類に目を通し終えると、大佐に対し質疑応答しそれも終えると

書類にサインし決済した。

裕哉大佐は決済された書類を従卒から受け取ると恭しく挨拶し退室しようとしたが 洸牙に

「卿の弟の・・なんと・・いったか・・・

 そう・・拓哉中尉・・あの者は未だ病室の客員を演じておるのか?」

意外な上官の質問に対し返答に戸惑いながらも返答し

「決して行儀の良い患者でなく閣下の医師団の手を煩わせ恐れ入ります」と答え赤面した。

すると洸牙は「まあ・・・彼の者も好き好んで負った負傷でもないしな・・

全快するまでゆっくり休ませよ・・・それと、彼の者の今後の処遇だが・・

全快した折に元の少佐に復職させるそして今までの功績に報いる意味も込め

彼の者の部隊に特殊部隊を加えよ。そして拓哉少佐を特殊部隊の司令とする」

裕哉大佐はこの異例の人事に驚きを隠せず、今自分が受けた辞令を弟、拓哉 に伝える旨を

洸牙に伝え了解を得た。

二人の従卒達は笑みを湛えながら2つのワイングラスを洸牙と裕哉大佐に

差し出し、芳醇な香りのする貴腐ワインをグラスに注いだ。

そして、二人の従卒は声を揃え

「裕哉大佐、弟君の復職おめでとうございます洸牙閣下からのご下賜です」

と 拓哉少佐の新しい軍装を手渡した。

そして、洸牙の了解を得て自分達もグラスにワインを注ぐと一際大きな声で

「プロージェット(乾杯)アレーナガードの最後と拓哉少佐の復職に」とグラスを掲げて

祝杯をあげた。

ささやかな、祝宴が始まろうとしたときだ・・・

裕哉大佐の部下が「大佐。捕虜となったアレーナガードらが前線から護送されてきました。

捕虜の取調べをお願いいたします」と用向きをインターホンを通して伝えてきた。

裕哉大佐は再び恭しく挨拶をすると総統室を後にした。