第1話 〜 審問会
洸牙総統の前に憲兵隊によって、強引に引き出され完全に顔色を無くした
DK00016要塞の要塞首脳、一馬大佐、大佐の主席、次席の副官、
実戦部隊の只1つの生存部隊である機甲師団第1小隊の拓哉少佐、
少佐の主席、次席の副官の6名である。
この6名の内5名は審問者が総統の洸牙と知り、顔面が蒼白となり、
非審問者の後ろで控えているどの憲兵達の目から見ても、
体の震えがはっきりと見て取れたほどだった。
だが、非審問者の拓哉少佐だけは他の5名とは全く異なった態度を取っていた。
拓哉少佐は、審問室に入室すると洸牙に対し、指2本を額に当て敬礼らしい挨拶をし
不敵にも、「ニャリ」と薄っすら笑みを湛えて上目遣いに洸牙を見つめ返す・・・
洸牙にしても、自分を見つめ返し不敵にも不気味な笑いを返された事は初めてだった・・・・・
怪訝そうな洸牙の表情を見て取った龍牙上級大将は
「少佐!不敬であるぞ!!!
卿の前に居られるのは我が軍の総統にして元帥の洸牙様であるぞ!!!
最敬礼をせんか!!!」と雷鳴の様な怒号と共に拓哉少佐の頭を強引に
上から押さえつけ下を向かせようとする
それに、反発し頭を左右に小刻みに震わせながらも抵抗する少佐。
そんな光景を見ながら静かに洸牙がその薄く整った唇を動かし先ほどとは
打って変わった静かな声を発した
「龍牙上級大将!
もうよい・・時間の浪費だ・・・・始めよう・・・・・
DK00016要塞の失陥に関する審問を始める・・・
告発者たる上級大将!
卿の取調べ調書を非審問者達に聴かせてやれ・・・
そして求刑もな」
それだけを言うと、室内は少佐と上級大将とのやり取りが始まる以前の様な静けさに戻った。
勇猛をしてその名を轟かす龍牙憲兵総監・上級大将でさえ
洸牙総統の前では飼い猫の様になった。
一介の非審問者たる少佐との醜態を晒した憲兵総監はその大きな体と顔一杯に滝の
様な汗を滴らせ、6名の氏名、階梯、軍歴、軍功をつぶさに読み上げて行った・・
しかし、一馬大佐と副官の3名に軍功は集中しその反対に拓哉少佐をはじめとする
第1小隊は部隊指揮官の指示に従わない如何ともしがたい部隊との報告書を読み上げ6名に対する求刑は
要塞失陥は過失なれど、
その指揮能力は明々白々と述べ大佐を含む3名は降格と減俸24ヶ月
実戦部隊の少佐を含め3名は軍規を正す意味合いを含め極刑が相応であると論を張った。
これに対し抗弁者たる興隆法務総監・上級大将は概ねの部分で龍牙の論に応じたが、
軍に対し功績のある3名の降格は致し方ないが、減俸は求刑の半分が妥当であると論じた。
しかし興隆法務総監も拓哉少佐以下3名の抗弁は前者と比べ力説をせず洸牙の裁量に
附す旨の論を張ったに過ぎなかった。
二人の上級大将は一馬大佐と要塞総務部が作成した書類に目を通しただけで深い追求はせず
後者である拓哉少佐率いる第1小隊を粛清するのが得策との意見の一致を見ていた。
二人の上級大将は洸牙に向き直り深深と頭を下げ
「私共、の論陣は先程の通りで御座います・・
後は閣下のお慈悲を持ち刑を執行したいと考えます」
と言いながら後退りをし各自の席へと戻った。
洸牙は机の前に渦高く積まれた書類にウンザリしながらも目を通しながら
非審問者に問い掛けた
「卿等も今の二人の上級大将の論陣は耳にしたな・・・
卿等各位の自ら抗弁する機会を与える・・・っと言っても
二人の佐官以外は口の利ける状態に無いな・・・・・大佐に少佐
何か言いたい事が在るか」っと言い終わらない内に大佐が口を開いた。
「偉大なる総統閣下!私らは閣下の下される断を進んでお受け致します」 (敬礼)
それだけを言うと「ふん」と鼻で笑い少佐を見やった。
拓哉少佐は顔を真っ赤に紅潮させ怒りを体全体で示し
「元帥閣下 閣下はこんな茶番劇をご覧になる為にそこに座っておいでなのですか?
先程、お二人の上級大将閣下が読み上げられた書類はこのバカ大佐が捏造した物だ!!!!」
と叫ぶが速いか興隆法務総監から書類を取り上げて、洸牙の直前まで歩みを進めて
書類の束を叩きつけ、一瞬洸牙が目をつむる隙を見て、
洸牙の肩を掴むと一気に後ろに押し倒し総統の上に馬乗りになる。
「総統!
俺はどうなっても構いません・・
でも部下の副官を始め機甲師団第1小隊に害を及ぼさないで下さい!!!」と絶叫した。
査問室に居合わせた全ての人の時間が一瞬止まったかのようだった・・・
拓哉少佐が洸牙総統を押し倒し、馬乗りになり自分の兵士等の抗弁を始めたのである・・・
その光景を雷鳴に似た龍牙の怒号が一瞬にして現実世界に戻す事となる。
「この愚か者がぁぁぁぁぁ!!!!
卿は今何をしているのか解って居るのか
あぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
真っ赤に顔を紅潮させた龍牙憲兵総監の太い腕が拓哉少佐の細い項に届こうとした時だ・・
洸牙の不機嫌極まりない声がその行為を制した。
「皆に告げる・・卿等は手を出すな!!!!!
良いなーー!!!!!」
拓哉少佐は馬乗りになりながら一馬大佐が如何に無能でいい加減な上官であったかを
洸牙に訴える
「閣下、一馬大佐の信条をご存知なんですか?
《部下の武勲は自分の物、自分のミスは部下の所為》
こんな馬鹿げた事を地で行なえる上官の元で部隊指揮官が如何に無念の思いで
また兵達もアレーナガード達に倒されて散って行った事か・・・・・・
総統は何処までご存知なんですか!!!!
虚心に自分の言葉に耳を傾けて下さい!!!!!!」
その言を聞かされ洸牙は鋭い一瞥を一馬大佐に投げかけた・・・
それまで、平然と事の成り行きを見ていた大佐の表情が一瞬にして凍りついた・・・
しかし・・・
両肩を確りと押さえつけられ腹筋の上に馬乗りされ、不愉快この上ない洸牙は怒りに
満ち満ちた目で少佐を睨みつけると
「べらべらと良く動く口だな少佐!!!」っと言うが早いか
左手で少佐の下あごを押し上げる・・・・・
「むぐぅぅぅぅぅ」
言葉にならない音を発し舌を噛んだのか口から紅い糸のような血が少佐の顎を伝・・・・・
自らの血で「ぐふぅ・・ぐふぅ」と苦しそうにむせ返り、
洸牙の手を振り解こうと必死にもがき洸牙の手首を掴もうとした時だった。
洸牙の右手の平が拓哉少佐の喉仏を思いっきり突き上げた!!!
その勢いで、思わず頭より床に落ち両手で喉仏を押さえ仰向きに倒れたまま
その体を右に左に揺らし
「ぐばあぁぁぁぁぁ・・・・・・い・・いき・・・・が・・・・ぐぅぅ・・・
ぐるじぃぃぃぃぃぃぃ・・・・・・・」と涙目になりながらも洸牙を睨むその目は、幾人ものアレーナガード達を
葬って来た戦士の目だった・・・・
しかし、そんな戦士の「威嚇」の視線を向けられても、洸牙は怯む事無く
床に横たわる少佐にゆっくりと歩を進め近ずくと、
なんの躊躇いも無く右のわき腹にそのつま先が拓哉少佐の体にのめり込むぐらいの
トーキックを繰り返す・・・・・
その度ごとに体を大きく、くねらせその口からは吐血を繰り返し少佐の声帯を伝わって
出る声はとても人のそれとは思えないぐらいの絶叫だった。
拓哉少佐の副官達は自身の上官の余りにも無残で痛ましいその姿を目にするまいと
両目を硬く閉じ体を小刻みに震わせた。
洸牙は床に転がる拓哉少佐をカナディアンバックブリ―カーの要領で右の肩に担ぎ上げると
凄まじい拓哉少佐の悲痛なまでの絶叫が室内に響き渡る・・・・
それは・・担ぎ上げられた少佐の腰の部分・・つまり洸牙の右肩のプロテクターのエポレットの装飾が少佐の腰に突き刺さっている・・・・
洸牙はそれを承知で少佐の体を上下に軽く揺さぶる・・・・
揺さぶられる度に少佐の腰かに突き刺さる装飾の金具そして、
それを伝わって流れ出る鮮血の為、洸牙の右肩の純白のマントは少佐の鮮血によって
幾筋かの紅い刺繍の模様を描いている体裁だ
そして、その都度に少佐の口から発せられる悲鳴は屈強な憲兵の精神をも寒からしめるには
十分だった。
「ぐおおぉぉぉぉ・・・・ああああぁぁぁぁぁぁぁ・・・・」
少佐の悲鳴は止む間無く広い部屋に響き渡る。
洸牙は静かな声で
「誰か、従卒の司に例の物を準備するように伝えよ」っと言いながら、
憲兵隊員の1人からロープを取り上げると、素早く海老反り状態に拓哉少佐をを
縛り上げそのまま審問室の天井の梁につるし上げた・・
すると、審問室をを含む統合作戦本部全館ににベート―ヴェンの交響曲第3番ホ長調
「英雄」の第2楽章が流れ出した。
この曲が流れ出した途端にどの憲兵隊員達の顔が暗く険しいものと変わらざるを
得なかった・・・・
「英雄」の第2楽章・・・つまりは副題の通り「葬送行進曲」なのだから、
明るい顔の兵は居るはずも無い。
拓哉少佐のその体は、2つに折れんばかりの海老反り状態にされ豊かに膨らむ股間を
突き出すような醜態のまま衆目に晒された・・・・
数刻遅れで、総統の従卒を勤める20歳になったばかりの司が伏目がちに審問室の
扉を開けるとそこには、白衣を纏ったダークセーバーの医療部隊が12名で
6台のストレッチャーを押しながら入室してきた。
非審問者等はこの状況を未だに理解してない様だった。
洸牙は拓哉少佐をつるし上げると、別の従卒である聖に言いつけ愛用の
サーベルを手にした。
そして、サーベルの鞘を拓哉少佐の股間に当てがいながら少佐を質した。
「機甲師団第1小隊、拓哉少佐
卿は先程より、公文書である出戦報告書が一馬大佐とその副官等の手により
捏造された物だと彼の者達を糾弾しておるが、どの報告書にも1番下の
現地指揮官の署名欄全てに卿の署名があるな・・・・
(少佐の目の前に書類の束を突き出し確認させる)
これは卿自身の筆跡か・・・・・質しておる・・・答えよ」
全身の激痛に堪えながら、総統の差し出した数々の書類の署名欄に
自分の署名がある・・・・
愕然としながらも、何時も出戦前に一馬大佐から白紙の紙を出され署名を
強要されたのを思い出した
「・・・・うぅぅぅぅぅぅぅ・・・・
た・確かに・・これは・・じ・・・自分の署名ですし自分の筆跡に間違い・・・
ありません・・・・・・しかし・・・これは・・・・ば・・・・
馬鹿大佐が出戦前に・・・は・・・・白紙を渡し
署名を・・・・強要・・・・してたんだーーーーーー」っと絶叫をし
一旦気絶しかけたが、洸牙にグラスの水をかけられ現実に引き戻された。
「ふ゜っはあぁぁぁぁーー」
ひっかけられた水が気道に入りむせ返りながら、股間に鋭い痛みを感じ
怯えた目で洸牙を見つめる拓哉少佐・・・
そこには前線の兵から《漆黒の銀狼》の異名を送られた
勇壮果敢な青年将校の姿は無くむしろ哀れなぐらいの25歳の若者としか
周囲の者達の目に写らなかった。
総統は少佐の股間に当てがったサーベルの鞘でそのふっくらとした少佐の股間を
こつこつと突つき出した
そして「卿は公文書であると解っていながら白紙だと言うのか・・・
他者を貶めて自身のみ助かりたいのか。
卿自身で署名をしたのが白紙であって文章の内容は大佐のでっち上げだと未だ言うの
かぁぁぁーーー」
っと言うと、サーベルを聖に渡し右手の第2関節まで発達した少佐の腹筋に突っ込み
胃部を掴みこね繰り出す
「ぐぼおああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
今まで以上の呻き声を上げ大量の吐血が洸牙の顔にかかる・・
少々の胃酸と煙草の臭いの混じった血の臭いに表情を険しくしながらも、
尚も少佐の胃を引き千切るぐらいに
掴む洸牙・・・・・流石の拓哉少佐も観念したと見え洸牙の成すがままになり・・
意識が解れ最後の時を迎えかけた時だ・・
「元帥閣下・・・・洸牙様・・お待ち下さい・・・・・
私の話を・・・話を聞いてください!!!!」
審問室の扉を押し開け、悲痛な顔をした一人の大佐が洸牙の手を止めさせた。
「ゆ・・・・祐哉・・・に・・兄さん・・・た・・す」
拓哉少佐は震える口でその言葉を発すると再び気絶した。
洸牙は入口の扉付近で憲兵達と押し問答している大佐の方を見やり
「卿は確か・・・憲兵隊第5分隊隊長の祐哉大佐だな・・・
第5分隊は内務部隊ではないか・・・・・
その大佐が何用か・・・・
そうか・・この少佐は卿の双子の弟であったな・・・
肉親の死は辛かろうがこの者の罪状は私に対する反逆罪と組織その物に対する
侮辱罪だ一死を持っても購える罪では無いぞ」
っと洸牙より鋭い恫喝を受けながら怯む事無く祐哉大佐は続けた。
「元帥閣下 非礼を承知で申し上げます。
我が弟、拓哉の申し立ては事実でありました!!
壊滅した一馬大佐の要塞に居た内務部の中佐が私の友人でありました・・・
その故人が私宛に要塞内での一馬大佐の暴君ぶりを克明に記した日記と
公文書偽造のからくりを記した手紙を送って参りました・・・・
弟、拓哉少佐の元帥閣下に対する非礼は幾重にもお詫び申し上げます・・・・
どうか故人となりました我が友人の手紙をお受け取りになり公正なご判断を
重ねてお願い致します・・どうか・・・どうか・・・・この告発書を・・・
閣下!!!」
洸牙は一旦、拓哉少佐の胃を掴んでいた手を抜くと司に言って祐哉大佐の
手にしていた書類の束を洸牙に差し出す。
洸牙は司より書類を受け取ると、自分の席に戻りながら報告書に目を通しながら、
再びその白い顔を真っ赤に紅潮させた途端に今まで以上の怒号を持って室内にいた
全員を驚愕成さしめた。
「龍牙、興隆、卿等2名はなんの取調べを元にこの審問会を召集したのか!!!!!
!
直ちに一馬大佐とその副官を再度拘禁し別室において直ちに処分せよ!!!!
この意味は解って居るなーーーー
その3名の処分が終り次第、卿等は停職3ヶ月減俸8ヶ月だ
この私の判断に異議を唱える勇気が卿等に在るかぁぁぁぁぁ!!!!」
そして、医療班に指示して、拓哉少佐を戒めより解き放ち、応急手当をさせる・・・・・
そして、怯え萎縮している拓哉少佐の副官である翔中尉と涼少尉に対し
「卿等の上官である拓哉少佐に対して手荒な事をしてしまったな・・・・・・・
本来なら、卿等を無罪としたいところでは在るが、死守すべき要塞を叛徒ごときによって
失陥させられた事は現実だ・・・・・
軍人としては死をもって購うべき失態であろうが
不正の実態を明らかにならしめた事と、祐哉大佐の友人であった中佐の報告を読むと
叛徒の司令官であるゴールドラガーと遊撃隊長を僭称するブルーサンダ―なる者を
拿捕したのは卿等の部隊で在ったか・・・・・・
ならば・・・特赦をもって機甲師団第1小隊に対する極刑は撤回をする・・
ただし、要塞失陥は卿等にもその責任の一端はあろう・・・・・
従って、拓哉少佐以下機甲師団第1小隊は全員2階級降格、減俸12ヶ月である
これが私が下した最終判決である・・・・異議は在るまいな」
翔中尉と涼少尉は洸牙に対し最敬礼をし声を合わせ
「誠に有難う御座いました。
拓哉少佐以下、機甲師団第1小隊は元帥閣下の御判決を真摯に受け止めると共に
閣下に対して益々の忠誠をお誓い申し上げます・・この度は閣下の貴重なお時間を
賜り誠に有難う御座いました」っと言い再度、最敬礼をし拓哉少佐をストレッチゃーに
乗せるのを手伝った。
一連の審問を終えた洸牙は従卒の司と聖を従え部屋を後にした。
後に残された祐哉大佐は弟の少佐・・・・いや中尉になった拓哉を見ながら
「これがアレーナガードに狼と恐れられている戦士かねぇーハハハハ
寝顔は昔と変わらず幼いままだ今わゆっくりと休め」と言いながら
額にデコピンをして部屋を後にした・・・・
そして廊下に出た時一馬大佐の断末魔の悲鳴を耳にしたのだった。