第5部

黒く終わる刻

第12話

 

(見損なったぞ・・・・・見損なったぞ・・・・見損なったぞ・・・・・)

 パラサイトによりスーパーマンの心を深くえぐるバットマンの言葉が

何倍にも増幅されてリピートされていた。

 自分が最も信頼していた仲間に軽蔑の言葉を吐かれた・・・・

そして、その仲間を自分の手で処刑してしまったのだ。

 今、目の前に立っているのはゴッサムの英雄ではなく、

仲間の裏切りにより敵にやすやすと捕獲され、

その裏切った仲間の手で姿を黄金に変えた彫刻であった。

 カプセルの中の煙が晴れ、鍛え上げられた肉体をそのまま黄金の彫刻として残す

英雄の哀れな姿がそこにはあった。

 心の支えを全て失ったスーパーマンの目は力なく淀みきっていた。

体を改造され、拘束され、無力化されても「仲間」という希望と守るべき

「人質」がいたからこそ諦めることなくパラサイトに洗脳されながらも

ここまでやってこられていた。

しかし、その2つの不可侵領域がこれ以上ないくらいに踏み荒らされてしまい、

彼に生を与える要素は何一つなくなっていた。
 

ラリル:さぁ・・・頃合だな・・・・最期の部屋に行くぞ・・・

スーパーマン:・・・・・・・・・・はい・・・・ラリル様・・・・・・

 
 失意に沈みラリルの後を素直について歩く完全なる奴隷。

背中はうな垂れ、顔には悲壮感が漂い、絶望と失望に全てを支配されていた。
 

悪党(人質):聞いたかよ?最期の部屋だってよ

悪党(人質):あぁ・・・あいつも、そして世界中の邪魔者が今日を境に滅びていくんだ

悪党(人質):残った警察も軍隊も、こいつの血を使った兵器で終わり・・・

       いい世の中になったもんだ・・・・

悪党(人質):あいつも、まさか人質が、倒してきた悪党達が演技しているなんて

       思わなかったんだろうな・・

悪党(人質):正義は勝つ!なんて・・・あり得ないのさ
 


 そんな偽者だった人質の声などすでに耳には届くことはなく、

必死に体の全てを投げ打って、仲間さえも売り渡して守ったはずの人質は、

この悪魔の城の表玄関から堂々と街へと帰っていったのだ。

 そんなことなど知りもしない正義の超人は「最期」と言われた部屋へと移動を開始していた。

 死刑囚が絞首刑に処される階段を歩いていくのとなんら変わらない行為を今、行っていた。

 この歩みが進めば進むほど彼の「最期」が近づいてくるのだ・・・

確実に、逃げることなど出来ずに・・・・。
 

ラリル:ほら、見たまえよ・・・・

スーパーマン:・・・な、なんです・・・・か・・・・・・?!・・・・

       あ・あ、あぁ・・・・・・・なんて・・・こと・・・だ・・・・

ラリル:あなたのおかげでこんなにも被検体が、奴隷がそろいました。

    感謝しますよ・・・ふっはっはっはっはっ・・・・

 

 絶句するスーパーマンの見たものは廊下に並ぶジャスティスリーグの面々だった・・・・

体から黄金の輝きを放って・・・。

 バットマンの処刑の合間にも実行部隊が世界各地からヒーロー達を狩り集め、

裏で処刑を行っていたのだ。

絶望の淵に立たされていたスーパーマンのほんのわずかな希望さえも

ラリルは残すことを許さなかった。

ジャスティスリーグに所属するヒーローはもれなくここに集められ、

彫刻へと姿を変えていた。

もう誰も助からない・・・この最悪の事態を理解するのに、

この黄金像のコレクションは十分すぎるものであった。

 
スーパーマン:わ、私が・・・平和を・・・・壊した・・・・?!・・・・・・・

ラリル:そうだ・・・お前が世界の平和を全て壊したのだ・・・・

スーパーマン:し、しかし・・・人質を捕られては・・・・・

ラリル:そうだなぁ・・・確かに、人質がいてはなぁ・・・

(悪党(人質):あいつも、まさか人質が、倒してきた悪党達が演技しているなんて

        思わなかったんだろうな・・)

スーパーマン:・・・・ど、どういう・・・・

ラリル:全ては嘘、罠だったのさ・・・・

    お前が守ってきたものはお前が牢獄に入れた悪党達・・・

スーパーマン:そ、そんな馬鹿な・・・・

ラリル:私は人質など1人も捕ってはいない・・・

    保釈金を払い脱獄させた囚人達は喜んで手伝ってくれたさ・・

    お前が破滅するなら・・・とね

スーパーマン:で、では・・・私は・・・何を守って・・・・

ラリル:そうだなぁ・・・お前が守ったのは世界中の「悪」じゃないか?

    皮肉だなぁ・・・正義の超人が味方を滅ぼし、悪党を守り、世界を壊す


スーパーマン:・・・そ、そんな・・・・・

ラリル:喜べ、お前は今のこの時をもって世界最狂で最も愚かな正義・・・

    そして一番の「悪」だ・・・


スーパーマン:わ、私が・・・悪・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

ラリル:ふははははははははは・・・・・

 
 廊下の途中、仲間の見守っている前で彼の自我は崩壊した。

 生まれてからずっと世界の平和のためだけに命をかけて敵と戦ってきた。

何度も死にそうになりながらも地球のために、人々のために屈することなく戦ってきた。

しかし、どうだろう?いつもと同じ「正義」を貫いたはずが、

超能力も知識も記憶も・・そして仲間も失い、世界を混沌に叩き落したのが自分であると

宿敵から告げられ、祝福されているのだ。

 守るべきものも、強固な信念も・・・彼に残されたものは何もない・・・・・・。

自分が「悪」であるという衝撃の事実で彼の記憶は途絶えていた。
 

ラリル:さぁ・・・仕上げだ・・・

スーパーマン:・・・・・・・・・・・