チェイン・リアクション(5) 

イミテーション

 


 白煙が風に乗って晴れていくと、コンテナにめり込んだブレイクの姿が見えた。

「あが・・・」

 コンテナに体をめり込ませて痙攣しているブレイクを、五人が笑う。

ドサリ、と地面に落ちたブレイクは、ゆっくりと立ち上がり五人を見据えた。

あっちのパワーが数段上だ・・・。ブレイクは焦り始めた。


 体に受けたダメージはスーツが吸い取り、あまり感じられないものの、

 全身を揺さぶられるようなめまいがまだ残っている。

「少しは驚いてもらえたみたいだね」

 笑いながらフェルディナンドが言った。

「わかってるとは思うけど、君の能力は全部コピーしてある。

オリジナルをはるかに上回るようにね」

「だ、黙れ! 灼熱拳ファイヤーフィスト!」

 ブレイクが掌から火炎球を発射する。だが、フェルディナンドは動じることもなく、

「灼熱拳ファイヤーフィスト!」

 同じように掌から火炎球を発射した。ブレイクが放った火炎球がフェルディナンドの

火炎球に飲み込まれ、さらに大きくなった炎の玉が

ブレイクの全身を包み込む。

「あがあああああああああああああああああああああああああああああああああああああッ!」

 全身を炎に包まれ、ブレイクが地面を転げまわり、悶絶する。

「さっきの勢いはどこへ行ったんだ?」

「誰も見てないんだし、殺っちゃおうぜ」

「ダメだ。生きたままつれて変えるのが目的なんだ」

「その通り」

「僕達で一気に仕掛けてごらんよ、死んじゃうよ、あれ」

 五人がゴチャゴチャやっている隙に、ブレイクが立ち上がろうとする。

ウージーがそれを目ざとく見つけて、鎖を投げつけブレイクの体

を縛り上げると、海の中へ放り込んだ。

 燃え盛る炎が海水で消され、水蒸気が舞い上がる。

しばらくしてブレイクを引き上げると、地面に転がした。スーツやマスクが所々黒く

こげ、火炎球が直撃した胸をかきむしって悶えるブレイクを見て、

「お前ら帰ってろ。こいつがありゃ俺一人でも十分だ」

 とウージーが言ったのである。

「おい、手柄を独り占めか?」

「そうじゃねぇ。俺達がよってたかって群がってみろ、

フェルディナンドの言ったとおり、死ぬぜこいつ。

なんせあの一発でこのざまだ」

 ウージーの言葉を聞いた四人が互いの顔を見合わせると、

「わかった。じゃあ俺達は戻る。任せたぞ」

 とコルテスが言い、フェルディナンドが乗ってきた車にのこりんだ。

 そしてフェルディナンドがハンドルを切り、わざわざ大回りしてブ


レイクの腹をタイヤで踏みつけた。

「おがあああああああああああああああッ!」

 車が走り去ると、ウージーは立ち上がれないブレイクの傍に近寄り、

足でマスクを踏みつけた。

「別にこのまま連れて行ってもよかったんだけどよ、このままじゃ面白くねぇだろ? 立ちな」

 ウージーがブレイクの顔を蹴り飛ばして、背中に鎖を叩きつける。パッと火花が散り、

「うごあッ!」

 とブレイクが醜い悲鳴を上げ、体をえびぞりさせる。

「立てよ・・・」

 ウージーがブレイクの頭をつかんで持ち上げ、

「剛力拳パワーフィスト!」

 手袋にくっついているハンドルを回し、ブレイクの顔面をアスファルトの地面に叩きつけた。

「おぐぁッ!」

 メキメキと音を立て、ブレイクのマスクがきしむ。アスファルトにひびが入り顔を

めり込ませていく。

ブレイクのわき腹に蹴りを入れふっ飛ばすと、ブレイクは背中を壁に打ちつけ、

地面に崩れ落ちた。

 両手を地面につき、ゲホゲホむせ返りながら、ゆっくりと立ち上がる。

「無抵抗な人間を相手にするのは面白くねぇんだ。お前もなんかやれよ」

 と、まるで宴会の出し物のような言い方で、ウージーがバカにする。

「た、竜巻拳・・・、トルネードフィスト!」

 ブレイクの腕に風が集まり始め、それが渦を巻き巨大な竜巻になる。

それをウージーめがけて放った。巨大な竜巻が蛇行しながらウージーめがけて突っ走る。

だがウージーは動じることもなく鎖で竜巻を真っ二つに割ったのだ。

 二つに分かれた竜巻はウージーの真横を通り過ぎ、一方はコンテナを吹き飛ばし、

もう一方は海へ出て、近くを走っていた漁船を粉々に

してしまったのである。

「あぁ!?」

「俺がどうやってお前の仲間を叩きのめしたか、教えてやる」

 ウージーは偽ブレスロットル(見た目はお世辞にも言いがたかったが)を外して

海へ投げ捨てると、ファイティングポーズをとって挑発する。

 ブレイクがそれに引っかかって雄たけびを上げながらウージーに突っ込んでいく。

間合いを詰め、パンチを繰り出すが、ウージーはそれを簡単によけてしまう。

「お前の金バッジ、フェイクじゃねぇの?」

 首を左右に振りパンチをよけながら、ウージーは軽口を叩く。

「光速拳ライトニングアッパー!」

 ブレイクがスロットルを回し、渾身のアッパーカットを繰り出す。

だがそれをウージーは手で受け止めてしまったのである。

 それどころか腕をはじき、逆にブレイクにアッパーカットを食らわせたのである。

「ごはッ!」

 アッパーカットが決まり、ブレイクの体が一瞬中に浮く。

ウージーはすかさず腹に蹴りを入れ、ブレイクを吹き飛ばした。

「ぐあああああああッ!」

 ブレイクが体を起こすと、その首に鎖が巻きつく。

「うぐ・・・」

 ウージーが鎖伝いに電撃を食らわせると、ブレイクのスーツがスパークする。

「がああああああああああああああッ!」

「おめぇの実力はこんなもんじゃねぇだろ!?」

 ウージーが鎖の拘束を解くと、ブレイクが再び立ち上がる。

ウージーのパンチやチョップ、回し蹴りをブレイクがかわし、ガードの甘い

わき腹にパンチを繰り出す。だがウージーも負けてはいない。瞬時にパンチを受け止め、

逆にブレイクのわき腹に蹴りを食らわせる。

 ブレイクはうめき声も上げず、ひたすら攻撃を繰り返した。

 そして、パンチがウージーの顔面を捉えたときだった。突然ブレイクの背後から

電流が飛び、首筋に命中したのである。

「がはあああああああああああああああああああああああああああああああああああッ!」

 ブレイクは膝から崩れ落ち、ウージーの前に倒れた。

ブレイクの背後に立っていたのは、コルテスだった。

「どういうつもりだ!?」

「心配になってきてみりゃこれだ。さっさと片付けろよ」

「お前まさか・・・」

「死んじゃいねぇよ、気絶させただけだ」

 倒れて動かないブレイクを見下ろし、コルテスは続けた。

「いいか、あんまり時間をかけすぎるのはよくない。わかるだろ?」

「・・・ドミニクか」

「そうだ。あの変態野郎の考えることだけは俺もわからねぇ。『お客さん』も来てるしな」

「・・・わかったよ」

 ウージーは鎖でブレイクの体を縛り上げると、その体を軽々とかついでコルテスの

あとに続いた。

 

 五人のアジトに連れてこられたブレイクは、気絶したまま腕だけを縛られて、

天井から吊るされた。その隣には、デカベースで治療を受け

ているはずのレッド、ブルー、グリーンが、ボロボロになったスーツをまとった姿で、同じように吊るされている。

 四人とも気絶したまま、身じろぎもしない。

「この『客』を使って、落とすところまで落としてやろうと思ってな」

 ドミニクは煙草をふかしながら、四人に言った。

「お前だけは理解できねぇ」

 邪魔されたウージーがつまらなそうに言う。

「心配するな、この『客』はすでに済んでる。そいつらを使ってちょいとこの生意気なガキをいじめてやるだけさ。

さて、その前に飯でも食おうぜ」

「本当にお前だけはわからねぇ・・・」

「ふてくされるなよウージー、お前にもあとで遊ばせてやっから」

「そういう趣味はねぇよ」

「そうか? いいもんだぜ?」

 五人が捕まえてきたブレイクのことを話しながら小屋を出て行く。

 小屋の窓から差し込む夕日が、部屋の中を赤く照らす。

彼らが出て行ってからしばらくして、ブレイクが意識を取り戻した。

「捕まったか・・・」

 と呟いて隣を見ると、自分と同じように吊るされたレッドが目に入る。

「先輩、大丈夫ですか?」

 ブレイクが声をかけると、レッドがゆっくりと顔を向ける。

マスクが壊れ、ギラギラと血走った目が、ブレイクを捉える。

「せ、先輩!?」

 レッドが荒く息をつきながら、必死で足をばたつかせる。

ブレイクは視線を下に移して愕然とした。

 レッドも、ブルーもグリーンも、皆股間がグチョグチョに塗れててかっていたのである。

そしてレッドの股間はありえないほどの膨らみを見せ、スーツを押し上げている。

「何があったんですか!?」

 ブレイクが尋ねても答えない。

ただ、荒い息をついて、怒張した股間を見せつけようとする。

 ブレイクは、自分の頭の中が真っ白になり、何も考えられなくなってしまったのだった。