チェイン・リアクション(2) 

地球

 

 デカブレイク、テツは詰め所でトランプに興じているバン達にコーヒーを持ってきた。

「どうぞ」

 コーヒーを差し出すとバンがにっこりと笑って、

「サンキュー後輩!」

 と言って、テツの背中を叩いた。

 アリエナイザーの犯罪もほとんどなくなり、ここ最近はトランプをしたりパトロール

という名目でドライブしたり、少しふやけた空気が漂っていた。

「平和はいいよね」

 と、トランプを切りながらセンが言うと、

「でも何にも事件がないんじゃつまらねぇよな、相棒!」

 とバンが言う。するともう決まった行事のごとく、

「相棒って呼ぶな」

 とホージーが呟く。ウメコとジャスミンは非番で、一緒に買い物に出かけていた。

 何とも和やかである。テツ自身も、この空気が心地よかった。このまま何事もなく、

また一日が過ぎてくれれば・・・。テツはそう思った。

 ドアが開いて、ドギーが入ってきた。和やかな四人とは対照的に、ぴりぴりとした空

気を漂わせている。いつもと違って目つきが鋭く、どことなく人を寄せ付けないオーラ

を放っていた。

 ドギーは不機嫌そうな顔をさらにゆがめて椅子に座ると、

「テツ」

 と呼んだ。

「はい!」

 テツが答えると、ドギーは一呼吸おいて話を始めた。

「本部からの通達だ。今度新しく特殊任務部隊を編成することになった。テツ、お前は

その候補に選ばれたぞ。今日中に本部へ発ってくれ」

「な、なんですかそれ・・・」

「上からの命令だ。すぐに訓練が始まるから早く支度をするんだ」

「でも・・・まだ地球での任務が・・・」

「任務は解除された。早くするんだ!」

「は、はい!」

 ドギーにきつく言われ、テツは訳がわからないまま詰め所を出て、自分の部屋へ足を

向けた。

 

 そのころ、街の外れにある古い雑居ビルの屋上に、今にも崩れそうなプレハブが放置

されていた。そのプレハブの前に、モントリアーニ・ファミリーから派遣された五人の

刺客、剣術使いのコルテス、力自慢のアンディ、肩から鎖をぶら下げたお喋りのウージ

ー、ホルスターにリボルバーをぶら下げた曲撃ち名人ドミニク、そして仲間内でもっと

も頭の切れるフェルディナンドが呆然とそれを見つめていた。壁は剥がれ、窓ガラスが

割れていたり、所々窓ガラス自体がなかったり、さんざんな場所である。

「・・・ドンから金もらってんだろ? なのになんでこんなシケたとこなんだよ?」

 と、ドミニクがため息混じりに言った。するとフェルディナンドが髪をかき上げ、

「バカだね。いいかい? スペシャルポリスは異星人の出入りを逐一監視してるんだよ?

 僕たちが運良くその網をかいくぐって入ってきたのに、デカデカとアジトなんか構え

たらすぐに見つかっちゃうよ」

 と言った。アンディも頷き、

「確かにな。俺達の存在は最後の最後まで隠さなきゃならねぇからな。ドミニク、我慢

しろよ」

 と言って、ドミニクの肩を叩いた。ドミニクはつまらなさそうにフンと鼻で笑うと、

「モントリアーニ・ファミリーの殺し屋がこのざまとはね・・・」

 と呟いた。

「さあ、中に入ろうぜ」

 リーダー格のコルテスがプレハブにはいると、四人はそのあとに続いて中に入った。


  時を同じくして、テツは地球に移民してきた異星人達が集う酒場の前に立っていた。

いつもなら昼間から店を開けて、色々な惑星からやってきた労働者達や観光客でにぎわ

っているはずのバーは、入り口をシャッターが固く閉ざしていた。そしてシャッターに

は<誠に勝手ながら、閉店いたします>という張り紙が張られていたのである。

 さっきのドギーの態度が気になったテツは、こっそりと本部に連絡を取っていた。特

殊任務部隊の話など聞いていない、というのが本部の回答だったのである。何かから俺

を遠ざけようとしてるのか? テツは直感でそう感じた。

「マーロンさん!? いますか!?」

 シャッター越しに声をかけると、店の奥でごとごと音がして、しばらくするとシャッ

ターが開き、バーのオーナー、マーロンが顔を出した。でっぷりと太っていて、顔は脂

でてかてか光っている。

「や、やあ・・・」

 とマーロンがテツに挨拶すると、

「どうしたんです? なんか元気がないみたいですけど」

 と言った。

「ここ繁盛してたのに閉めちゃうんですか?」

「え、ええ・・・。実はちょっと・・・居づらくなりましてね・・・。火星に戻ろうと

思ってるんです」

 マーロンはSPDに時々情報をタレこんでくる一流の情報屋という顔も持っている。そのため恨まれることも多い。

「誰かに狙われてるんですか? それなら保護しますけど」

「いや、そうじゃないんです・・・。たぶんご存じだとは思いますが、昨日から急に宇

宙船が地球を一斉に離れ始めたでしょう?」

 そう言われて、異常な数の宇宙船が地球を離れていくという情報を思い出した。

「それが何か?」

「テツさん。あんたもすぐに逃げた方がいい」

「俺が? どうして?」

「私達は避難するだけです。奴らの目的はあなただ」

「奴ら!? 一体誰なんですか!?」

「・・・モントリアーニ・ファミリーです」

「モントリアーニ・・・」

 マフィアの名前を聞いて、テツの顔色が変わった。

「ドン・モントリアーニが地球に刺客を差し向けたんです。監視網をくぐってもう地球

に潜伏してるという情報が入ってます。・・・正直言って巻き添え食らうのはごめんで

すからね。テツさん、悪いことは言いません。どこか名前も知られていない惑星にでも

行って身を隠してください。奴らは危険です」

「俺は・・・大丈夫です!」

「いいや、あなたでも太刀打ちできない! 下手すればデカレンジャー全員が殺される

・・・。送り込まれたのはたった一晩で惑星に住む人々を虐殺した凶悪犯。とてもじゃ

ないがあなたじゃ太刀打ちできません。・・・とにかく支度をしなきゃならないので・・・」

 そういうと、マーロンは再びシャッターをピシャリと閉じた。

 テツは背筋に、何か冷たいものが走るのを感じたのだった。