処刑!アクアファイター(中)

 

その時,追いつめられた暗黒の助教授の目に狂喜の光が走った。

 

ボムッ!!

 

大きな爆発音とともに,天井と床から同時に何十本ものワイヤーが吹き出した!

その全てがアクアファイターに襲いかかる。

獲物にわれ先に争って飛びかかる毒蛇のかたまり。

蛇の牙の代わりに,ワイヤーの先端には鋭い金属製のエッジがついている。

それが,電撃責めで疲労したアクアファイターの鋼鉄の肉体に次々と突き刺さる。

 

ぶすッ! ぶすッ! ぶすッ! ぶすッ! ぶすッ! ぶすッ! ぶすッ!

 

「!!うををっ!!!」

 

盛り上がった大胸筋にも,ノミで刻まれたように浮かび上がる腹筋にも。

 

どがッ! どがッ! どがッ! どがッ! どがッ! どがッ! どがッ!

 

鋼の腕にも,太ももにも,臀部にも ワイヤーが次々と食い込んでいく。

 

ぐさッ! ぐさッ! ぐさッ! ぐさッ! ぐさッ! ぐさッ! ぐさッ!

 

ショルダーガードを突き破って,肩や上腕部に食い込むワイヤーもある。

 

びしッッ!     ぶしゅッ!

 

そして 純白のバトル競パンにも前後に7本のワイヤーが突き刺さった。

 

「ふぬうぅぅ!!  うをぉぉっっっ!!!・・・」

 

ファイティングポーズのまま,全身が硬直してしまうアクアファイター。

大きく見開いた目・・・

口ががくがくと動く。

 

「あ? あうっ!! ああっ!!・・・ あ!!,あ,あっ・・・

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 し,しまった・・・ くっ・・ まっ,まだ・・装置は・・・」

 

「バカめ! 予備動力だの,二重三重の攻撃装置だのは当然のことだろうが!」

 

クロサキは目の前でせせら笑っている。

手を伸ばせばその首をつかめるのに・・・

脚を振り上げればただ一発のキックで簡単に倒せるのに・・・・

それができない。

腕も脚もただぴくぴくと痙攣するばかりだ。

 

「・・・・くっ・・・・くうううう・・・・お・・・おのれ・・・・・

 ・・・・神経・・・・麻痺液か・・・・・・・・」

 

「ああ 即効性のヤツを全身に どくどくと注入させてもらっているよ。はははは。

 いつもの俊敏な動きをまず止めなくてはならんからな。

 しかしまもなくその特殊競パンが中和剤を製造し始めるんだろう?

 いつかはそれでやられたんだったな。

 ふん。よくできた装置だ」

 

話しながらクロサキはファイターに背を向け,1メートルほど離れると

ふたたび振り返った。

 

「では 次だ」

 

ばちッ・・・

 

ワイヤーの先端のエッジには6本の裂け目が入っている。

それが,食い込んだ筋肉の中で開いた。

ヒロユキの鋼の筋肉繊維をぶちぶちと切り裂きながら開く。

 

「うおおおおおっっっっ!・・・ああっ・・んんっ・・くうっ!・・・・」

 

筋繊維切断は,ファイターの苦しみをじっくり楽しむかのように,

ワイヤー一本ずつ,ゆっくりと,ランダムにおこなわれていく。

右上腕部に灼熱の痛みを感じたかと思うと,次は左のふくらはぎだった。

下腹部を激痛が襲ったあとは,左脇腹,そのあとは右の大胸筋が破壊された。

「あうっ!」・・・・

「っつっ!」・・・・

「ふぬっ!」・・・・

「ぐうっ!」・・・・

アクアファイターの無敵の筋肉が,次々に内部から引き裂かれていく。

 

エッジがいったん開いてしまえば,よほどの力でもワイヤーは引き抜けない。

強引に引き抜こうとすれば,想像を絶する激痛とともに,

さらに多くの筋繊維が切断されてしまうのだ。

 

「ん? おや?」

「・・・くっ・・・くくっ・・・ううう・・・・」

常人には信じられない強烈な意志の力で,何とか右腕を動かすヒロユキ。

「こっ・・・こんな・・・もの・・に・・・・・・・

 ・・・負ける・・もの・・か・・・」

ふるえる右腕を少しずつ動かして,まだエッジが開いていない左肩のワイヤーを引き抜く。

引き抜かれたワイヤーの先端から,神経麻痺液がぽたぽたと垂れる。

ついで右下腹部の一本に手をかける。

しかしその時・・・・

 

どが どが どがっ! ずぶっ! ずぶっ! 

「うわああああっ!」

さらに,新たな5本のワイヤーが射出され,その全てが右腕に突き刺さった!

ただちに麻痺液が注入される。

「ああっ・・・あうっ・・・ああ・・・・」

ぶるぶると震えたあと,ついに力つきぶらりと垂れる右腕。

 

「く・・・うぬ・・・・」

ファイターの腰がかすかに沈んだ。

この微妙な動きを「処刑装置」が見逃すはずはなかった。

 

【ダイビングキック準備体勢確認】 → 【プログラムG486起動】

 

瞬時に回路が作動。

ばしゅッ!!

3本のワイヤーが床から発射。左のふとももに命中する。

「うおうっっ!!!」

たまらず,がくりと膝をつくファイター。

苦痛に耐えて,きっと顔を上げると,

両腕を腰にあて,歯をくいしばりながら何本かのワイヤーが刺さっている胸を

「ぬんっ!」と突き出した。

ここまであったのか と驚かされるほどの胸筋がぐわっと広がる。

その胸の全面が輝きだした。

 

「くらえっっ!!

 ブレスト・ショック・ウェーーーーーーーーーーーーーブ!!!!!」

ファイターの雄々しい叫びがあがった。

 

【ブレストショックウェーブ準備動作確認】 → 【プログラムD339起動】

 

瞬時に天井から7本のワイヤーが射出される。

これまでのものとやや形状が異なるワイヤーだ。

どすッ,どすッ,どすッ とファイターの輝く胸に食い込む。

もとよりそんな痛みにひるむファイターではない。

ウェーブ発射体勢は少しも揺るがない。

が,

 キュイーーーーーnnnnnnnnnnnnnnnnnnnnn...........

ワイヤーがたてる音と共に,ファイターは異変をさとった。

 

「!!!!!

 出ないっ!!! なぜだっ!!

 ブレストショックウェーーーーーーーーーーーブ!!!

 ショックウェーーーーーーーーブ!!!

 ショックウェー・・・・ はっ?! おうっ!! こっこれは・・・・

 ウェーブが・・・ ウェーブエナジーが・・・・・あがっ・・・がっ・・・くぅ・・・

 ・・・・う・・・奪われて・・・・いく・・・・・?

 そ,そんな・・・ そんな・・・・ 」

 

腰に手をあてたままの姿勢で,張り出した広大な胸がびくびくとふるえている。

キュイーーーーーーーーン  キュイーーーーーーーン キュイーーーーーーーーン・・・

「エナジーが・・・あうううう・・・・奪われて・・・・吸い取られて・・・いる・・・」

 

左右の大胸筋はさらに激しく痙攣する。

エナジー吸引に抵抗している。

しかし,ねっとりとした液を盛り上がったヒロユキの胸にしたたらせながら,

7本のワイヤーはじっくりと,確実に ショックウェーブのエナジーを奪っていく。

 

「う・・・・うう・・・・・ぬうううううううう・・・・・・・」

ヒロユキの上半身が徐々にのけぞる。

「むむむむ・・・・んんんんんん・・・・・・うをぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ・・・・」

さらにさらにのけぞり,ほとんど真上を仰ぐまでにのけぞった・・・

そして

 

「ぐはぅっっっ!!!」

 

異様な声を上げて,そのまま背中からファイターは倒れた。

 

【ウェーブエナジー吸引完了】 → 【プログラムD339−β起動】

 

バチバチッ!!  バチバチッ!!

ファイターのがっしりした胸に閃光が走る。何度も何度も閃光が走る。

エナジーを奪われて気を失ったファイターは強力な衝撃で否応なく意識を戻される。

「ギャアッッッッ!!! ウガアアアアアア!!! ウオオオオオオオオオ!!!」

ヒーローの身体が何度も何度も床の上で飛び跳ねる。

そして,唐突に閃光と絶叫が止まった。

 

【ブレストショックウェーブ細胞破壊完了】 → 【監視プログラムに戻ります】

 

役割を終えた7本のワイヤーはするすると天井に消えていった。

 

過去,多くの妖獣を倒し,何度もアクアファイターの危機を救ってきた技

「ブレストショックウェーブ」はここに完全に封殺された。

ヒロユキのたくましい胸があのエメラルドグリーンの光線を放つことはもはやないのだ。

 

 

「ふはははははは・・・・これでわかっただろう。

 アクアファイター」

 

横たわるファイターは,口で激しい呼吸をしながら,呆然と天井を見つめている。

 

「きみの武器と技は全て,完全に分析され尽くしているのだ。

 あきらめるんだな。

 そして・・・倒れるのはまだ早い! 立て!!」

 

何十本ものワイヤーが,ヒロユキを無理矢理立ち上がらせる。

必殺技を失ったヒーローにとって,肉体より精神的ダメージが重い。

(ブレストショックウェーブが・・・・発射不能・・・・そんな・・・) 

足元がふらつく。

立ち上がったファイターを待っていたのは,残りのエッジの開放だった。

エッジがひとつひとつ開いていくたびに,鍛えられた筋肉が内側から断裂していく。

「うああ・・・」「あうっっ・・・」「がはあっ・・・」

うめき声が漏れ,

全身がぶるっ,ぶるっ と震える。

 

全てのエッジが開き終わると,ワイヤーがピンと張りだした。

まず,両腕が上に引っ張り上げられ,ついで身体全体が宙に浮いた。

両足がぐいぐいと左右に広げられる。

白競パンに覆われたファイターの股間がクロサキ助教授の真っ正面にさらされた。

 

「・・・・ううう・・・・ううううう・・・・んんんんんんん・・・」

頭をがっくりと落としたヒロユキから,うめき声がもれる。

汗にまみれ乱れた黒髪がわずかにゆれる。

百本以上のワイヤーに食らいつかれた若きヒーローの肉体。

その身体がX型に拘束されている。

 

「おお・・・あらためてこうして見ると,素晴らしい身体だな・・・・

 見事な逆三角形のシルエット・・・

 この分厚い胸筋の盛り上がり・・・広がり・・

 腕を広げると前鋸筋の発達ぐあいもよく見える。

 しかもここまで見事な筋肉をつけているのに,少しも野卑なところがない・・・

 それどころか,気品すら感じる・・・

 まさしく・・・黄金の肉体・・・・・

 

 このバトル競パンのデザインも また 秀逸・・・・

 シンプルなラインが中央の膨らみに集中し,その力強さを強調している。

 もちろん,これが戦闘回路の一部ではあるのだが・・・

 そして純白と黒が作り出す背面。

 引き締まった大臀筋を一段と美しく見せておる。

 

 うむ・・これが,あの必殺技「ダイビングキック」を生み出す,ふとももか・・・

 どれ・・・・

 筋量はそれほどあるとは見えないが・・・

 いや,最良質の筋繊維が高密度に凝集しているのだな。

 痙攣するたびに,浮かび上がるスジでよくわかるぞ・・・

 

 さあっ

 もっとよく見せてもらおうじゃないか,若きヒーローの筋肉を!」

 

ワイヤーがさらに強力に引っ張られ始めた。

思わず顔を上げ,端正な表情を激しくゆがめて絶叫するヒロユキ。

 

「!! うっ! うわあああああああっ  わあああああっ ああっ ああっ・・・」

 

全身いたるところに筋肉が浮き上がる。

競パンからむき出しの太もものつけねに,大腿直筋,外側広筋が

ノミで刻んだようにくっきりと姿をあらわす。

 

「引きちぎれ! アクアファイターの身体を引き裂け!!」

 

「があああああ  うううううううっ  はあっ!・・・だあああああああっ!!」

絶叫とともに,全身をがたがたとふるわせて 頑強に抵抗するヒロユキ。

人の身体にはここまであったのか,と誰もが驚嘆するほどの筋組織が

若い身体の隅々にあらわれていた。

凄まじいまでの筋肉。

 

「ううぅぅぅぅぅぅぅぅ・・・・・・・・むううううううう・・・・・」

牽引するワイヤーの動きが次第に遅くなる。

そしてついに止まってしまった。

 

「くそっ しぶといヤツだっ!」

 

 バシュッッ!!

 

再びあの爆発音がしたかと思うと,囚われのヒーローの前後の床から,

さらに数十本のワイヤーが吹き出した。

突き刺さるたびに,ヒロユキはびくんびくんと全身をふるわせる。

 

「ぐおっ! うぐっ! ぐうっ! うがっ! んっ! んっ!

 ん!ん!ん!ん!・・・・・

 くうっ!!・・・・・・・」

 

あまりに執拗な攻撃。

歯をくいしばり,全身を硬直させて耐え抜かんとするヒロユキ。

 

「さて,これからどうする? え,なにがいい?」

 

にやりと笑いを浮かべるクロサキ助教授。

目の前の宙に浮かぶアクアファイターは,100本以上の特殊合金のワイヤーに全身を

貫かれ,凄まじいパワーで腕と脚を限界まで拡げさせられて,悶えている。

 

「また,電撃をみまってやろうか。

 今度は,筋肉内部に直接流しこむことになるがな。

 それとも,筋繊維をじわじわと腐らせていく液を注入するか。

 それとも・・・・」

 

「・・・くっ・・・おっ・・・おれは・・・・

 負けん・・・・決して・・・・ううっ・・・・ぐわあっ・・・・・

 かッ・・身体があああああああああうう〜っっっっ ああああっーーーーー

 アクアの戦士が・・・ 戦士が・・・  こ,こんなことで・・・・」

(もっ もう一度 マルチビームの座標合わせを・・・)

 

ピコン ピコン ピコン ピコン・・・・

突然,奇妙な音が室内に響いた。

 はっ!

ヒロユキの表情に動揺が走った。

 

アクアファイターが装着する純白のバトル競パンの上部中央,ふつうの競パンなら

ひもの結び目がくるあたりに,常に深い青色に輝いているマリンクリスタル。

海の戦士の象徴だ。

それがいま赤い点滅を始めていた。

音は,その点滅と連動している。

ピコン ピコン ピコン ピコン・・・

 

 

「くっくっく・・・くぅーくっくっく・・・・ふふふふ・・・・うわっはっは!!。

 始まったな・・・ 

 これまでの戦いで一度も作動しなかった,こいつが,ついに点滅しだしたなあ。

 

 とうとう,残存エネルギーが危険値を割ったってわけだ。

 これでは,マルチクリスタルビームは発射できまい。

 え? そうだろう」

 

「!!・・・く,くそう・・・・・」

 

「高圧電流と性感刺激ビームに耐え抜くには,かなりのエネルギーを必要とする。

 起死回生のマルチクリスタルビームの使用で,さらにパワーを消費させる。

 ダイビングキックを封じ,ブレストショックウェーブも奪った。

 精神的にもかなりのダメージを負ったはずだ。

 しかしそれでも,アクアファイター打倒には不十分,という結果が出た。 

 キサマのそのエネルギー,たいしたものだ。

 そこで,きさまの戦闘力の源=筋肉そのもの を破壊することにしたのだよ。

 これだけ強靱な筋繊維の修復には膨大なエネルギーを必要とするだろうからな。

 

 だが,神が造りたもうたその肉体,これまでのような外からの攻撃では

 滅多なことでは破壊できないことは先刻承知。

 また,十数カ所程度の損傷ならキサマの超回復力が上回ってしまう。

 ならば,内部から・・・

 それもありとあらゆる部位の筋肉を同時にずたずたに破壊すれば・・・

 くっくっく・・・・ 

 そのために,開発したのが,この・・・・・

 『マッスルデストロイヤー』なんだよっ!!!!」

 

バシュッッッッッ!!

真っ正面から射出された一段と太い2本のワイヤーが,

ヒロユキの左右の腹筋に ズブッ! ズブッ! と音をたててめり込んだ!!!!