処刑!アクアファイター(下)

 

バシュッッッッッ!!

真っ正面から射出された一段と太い2本のワイヤーが,

ヒロユキの左右の腹筋にめり込んだ。

 

どごっ!!  どごっ!!

「うがああああっ!!!」

 

ういん・・・ういん・・・ういん・・・

ずぶっ   「ぐうっ」

ずぶっ   「うをっ」

ずぶぶっ  「ぐをおおおっっ」

 

鋭い刃を回転させながら,ぐいっぐいっとヒロユキの腹筋に食い込んでいく

2本のぶっといワイヤー・・・・

 

「んっっっ!・・・ くあああっっ!!・・・ ぬうううううっ・・・

 がはあああああああああ!!」

 

背を限界までのけぞらせて苦悶するファイター。

手足を拘束されているいま,苛烈なトレーニングで鍛え上げ,

バトル競パンで強化された鋼の腹筋だけが,このワイヤーを侵入を防ぐ防壁だった。

しかし,どんなに気力を振り絞っても,どんなに腹筋を硬化させても

回転するワイヤーは筋繊維を破壊しながらじわじわと食い込んでくるのだった。

 

「・・・くううっ・・・あっ・・・ああっ・・・

 だっ・・・だめだっ・・・・

 パ,パワーが・・・パワーが・・・・足りない・・・・

 こっ・・このままでは・・・このままでは・・・やら・・れ・・・る・・・

 クリスタルよ・・・ パワーをっ! パワーをくれっ!!

 うをっっ ああっっ!・・・・があああああああああああッ!!

 ここで・・ここで・・ 敗れるわけには いか・・ないん・・・だあっ!

 !!うわあああああ!!!  あがあっ!!」

 

ピコン ピコン ピコン ピコン ピコン・・・・

クリスタルの赤い点滅が徐々に早まっていく。

 

「いよいよ アクアファイター最期の時が近づいてきたようだな。

 どうだ,このクリスタルの点滅・・・きさまのパワーはもう残り少ないぞ。

 全身百ヶ所に食い込んだマッスルデストロイヤーが今も筋肉を破壊しているのだ。

 無限のアクアパワーも,ついに尽きる時がきたのだよ・・・」

 

「・・・・くっ,くそぅ・・・・・

 おっ おれは・・・・負けない・・・・こんなことで・・・・負ける・・・

 ものか・・・・ううっ・・ぐはっ・・・・おれは・・おれは・・戦士・・・

 戦士・アクアファイターなんだあああっ!!」

 

ファイターの全身が激しく揺れた。

ワイヤーが激しくぶつかり合い,大きな音をたてる。

汗が部屋中に飛び散る。

 

「まだそんな戯言を言える力が残っているか・・・。

 ふん・・ ではもう一度,性感刺激攻撃を味あわせてやろう。

 ただし!

 今度は全てのマッスルデストロイヤーから,刺激パルスとして送り込む。

 お前の体内に「直 接」 な・・・・

 さっきの数百倍の刺激にはなるだろうよ。 

 このシミュレーションはしていないんだ。 

 どんなことになるか,楽しみだよ」

 

クロサキの声が終わると,百本以上のワイヤーの全ての根本に,紫色にぼおっと輝く

縞模様が生まれた。

縞模様は,人の鼓動のようなリズムで,ファイターに向かって進んでいく。

 

ドクン  ドクン  ドクン  ドクン・・・

 

徐々にファイターに迫る紫色のパルス。

ぎりぎりと唇を噛みしめるファイター。

 

ついに性感刺激パルスがファイターの肉体数百ヶ所に一斉に侵入する。

 

「!・・・ !!!!  うぎゃああああああああああああっっ!!!!」

 

絶叫と共に

戦士の身体が,マッスルデストロイヤーをひきちぎらんばかりに 飛び跳ねた。

「うをををををををををっ!! ぐはああああああああああ!!」

筋肉の鎧をまとった若武者が,我が身を壊さんとばかりによじり,もがき,苦しんでいる。

全身至る所から流れ込む強烈な「快感」は,これまでのどんな戦いでもくらったことのない

「攻撃」だった。

肉体の数百カ所が最高度の性感帯となり,その全てが刺激されたのだ。

脳内が真っ白になった。

最初の一撃で,戦士の「男」は激痛をともなって数倍に膨張した。

純粋かつストイックに精神と肉体を鍛えあげてきた若者にとって,まさに

思いがけない「弱点」をつく攻撃だった。

 

パルスは断続的に流れ込む。

つかの間の休息にがくりと頭を落とし,全身を脱力させるファイター。

しかしそれは次のパルスをより効果的にするために,巧みに計算された空白時間だった。

筋肉と神経が十分に弛緩する寸前に,いっそうパワーアップした攻撃が加えられる。

 

 ドクン

「!!・・・うをおおおっ!!!」

 ドクン

「はがあっっっ!!!!  ・・・だはあああっ!!!

 やっ やめろ!!!!  やめてくれえっっっ!」

 ドクン

「あッあーーーーーーーーっ!!!!    ・・・はがあっっ!

 やっ やめ・・・・ やめ・・・・」

 ドクン

「ぐをはあっっ!!!!  ・・・ぬああああっ!!! ああ・・・・」 

 

空中でX字に手足を限界まで広げさせられたファイターの身体。

全身に鍛え上げられた筋肉が浮き出している。

その鋼の肉体が,パルスが送り込まれるたびに絶叫と共に盛り上がり激しく痙攣する。

ワイヤーが絡み合う。

口からよだれが止めどなく流れ出す。

 

そして,ついに・・・

 「ぁぁッ・・・・」

戦士のものとは思えない弱々しい声がもれた。

必殺のアクアキックを何発もはなってきた引き締まった脚部がぷるぷるっと異様に震えた。

股間から透明な液体が,ファイターの右足の内側を一筋つうっと走った。

と,次の瞬間,堰を切ったように,バトル競パンから何本もの液体の筋が流れだした。

 「ぅぁぁぁぁぁ・・・・・ ぉぉぉぉぉ・・・・・

  く・・・くそぅ・・・・・・く・・・・・ こ,こんな・・・・・」

ヒーローのうめき声が漏れる。震えが全身に広がっている。

液は次から次へと流れ落ちてくる。

多くの怪人を倒してきた栄光の純白の競パンは今や汗と体液でぐしょぐしょに濡れ,

床にぽたぽたと滴が落ちている。

股間の膨らみが,競パンを破らんばかりに激しくうごめいている。

そこに,パルスがなおも容赦なく流れ込む。

 

 「がはああああああっっっっっ!!!!」

 ・・・・・・・・・・・

 「んッうおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」

 

ピコピコピコピコピコピコピコピコピコピコピコピコピコピコピコ・・・・

クリスタルの点滅が激しくなる。

絶叫するように点滅している。

 

「があッ・・・・・・ぐをッ・・・・・・・はがあッ・・・・・・あはあッ・・・・・

 あうっっ・・・・・ああっ・・・・・・・」

 

パルスが流れ込むたびに,ヒロユキの悲痛な叫びが処刑場に何度も響く。

 

 

 

どのくらいの時間がたったのか・・・・ヒロユキの声が,弱まってきた。

パルス流入のたびに激しく痙攣していた筋肉も,疲労の限界に達したのか,

細かく震えるだけになった。

目の焦点があっていない。

身体は,思い出したように,ときおり びくん と跳ねる。

「・・・・くはぁ・・・・・・・・・ぐうっ・・・・・

 ・・・・おわっ・・・・はうっ・・・・・」

 

と,パルスの流入が止まった。

静まり返る「処刑場」

クロサキ助教授の目の前にアクアファイターの身体がゆっくり降下してくる。

手足をX字型に広げさせられ,全身をふるわせている。

「うう・・・・」

汗と体液でびしょびしょに濡れた筋肉質の身体がつややかに美しい。

しかし,ワイヤーが深く食い込んでいる周辺の皮膚はどす黒く変色している。

エナジーを限界まで消耗してほとんど動けなくなったファイター。

下腹部のクリスタルだけが,激しく点滅している。

 

クロサキがファイターのあごをぐいと持ち上げた。

 

「ふん これほどまでに強靱な肉体をもったお前でも

 わたしの知力の前には結局なすすべもなかったな。

 この処刑室に足を踏みいれた時に,きさまの運命は決まってしまったのだ。

 ・・・・では,とどめ・・・・だ・・・」

 

 

クロサキが手を離すと,再びファイターの頭はがくりと崩れた。

自分の右手をすうっと顔の高さに上げるクロサキ。

手全体が赤く不気味に輝きだす。

その赤化した右手が,バトル競パンの盛り上がった中央部をつかんだ。

炸裂する音と光!

 

ぶちぶちぶちぶちっ!!

 

競パンが裂ける!!!!

無敵の競パンが,アクアファイターの超人的な活躍を支えてきた純白の競パンが,

無惨に引き裂かれていく。

バチバチバチッ!!!

裂け目から火花が吹きだす。

逆流する電流がヒロユキを襲う。

「うわあ・・・・!! ううううううう!! ぬをおおおおおおおおおお!!」

首を激しく左右に振って,ヒロユキが苦悶する。

思わず下に向けた目に,ずたずたにされていく競パンが映る。

我が身に何がおこっているのか初めてわかった。

 

「あわっ・・・・あぅ・・・ああ・・・ああっ・・・・あっ・・・」

 競パンが・・・ おれの・・・おれの・・・競パンがっ!!

 おれの・・おれの・・・魂がああああああああああああ!!!!」

 

さらに破壊されていく競パン。

火花に続いて,競パンの特殊繊維内に含まれていた生体保護液が漏れ出した。

機能を喪失していくバトル競パン。

手足はX字に強制的に広げさせられている。

抵抗するすべはない。

唇をふるわせるだけのアクアファイター。

涙がひとすじ流れ落ちた。

初めて「絶望」の表情が浮かぶ。

 

競パンの裂け目にぐいっとクロサキの左手がねじこまれた。

「うっっ!!」

そこから膨れ上がったファイターの「男」が引きずり出される。

「!!・・・・な・・なに・・・を・・・・」

「おお・・・さすがに戦士の もの だ。

 これだけの責めにもかかわらず,鋼鉄の堅さを保っている・・・

 だが,バトル競パンを剥ぎ取られた今となっては 無防備も同然。」

語りながら,戦士の最大の「急所」を,左手でぐにゅぐにゅともてあそぶ。

そして・・・「くくくくっ。見るがいい!」

赤色光を発している右手がヒロユキの目の前に突きつけられる。

「ぬんっっっっ!!」

クロサキの気合いと共に,その手のひらから数十本の針状の金属が

ゆっくり回転しながら伸びだした。

「この36本の電極が,君に残された最後のエネルギーを奪い,

 ヒーローにとどめを刺すのだよ・・・」

 

最終兵器と化したクロサキの右手が,ファイターの「男」をつかんだ。

そして,ゆっくりと握りしめていく。

「!!!」

ヒロユキの目が大きく見開く。

研ぎ澄まされた36の電極が全方位から少しずつくい込んでいく。

 

「つっ!!!・・・ううっ!!・・・・あうう・・・・・ああああ・・・・・

 ぐをっ!!・・・・・をうっ!!・・・・」

「くくくくく・・・

 それっ・・・・それっ・・・・それえええええええっっっ!!!」

「はあっ!!・・・・ああっ!・・・・っつうっっ・・・・」

「・・・どりゃああ!」 一段と力を加えるるクロサキ。

ずぶっ ずぶずぶっ ずぶずぶ ずぶっ

「ぅおおおっ!! ああっ! うあああああっ!・・・」

「ふふ・・  準備完了・・・・

 さて・・・ アクアファイター・・・・」

クロサキの右手の中で,36本の電極で串刺しにされたヒロユキの「男」が

びくんびくんと動いている。

苦痛にゆがむヒロユキの顔をいま一度見上げるクロサキ。

「これが,アクアファイターの・・・終わり・・・だ!!!」

 

 バシッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッ!!!!

 

握った右手が強烈な閃光を発した。

この瞬間

急所の内部に食い込んだ電極から,アクアファイターにとどめを刺すべく開発された

「ファイターキラー粒子」が,数千万の単位で放出された。

キラー粒子は,ヒロユキの「男」の内部で,

その神経細胞に極限の刺激を与えることでこれを破壊。

残された最後のアクアエネルギーを強制放出させてしまうのだ。

 

ヒロユキが異様な刺激に耐えようとした次の瞬間,凄まじい全身痙攣とともに

戦士の雄々しい「男」がどろどろした熱い白濁液を吹き上げた。

 

「ふわあああああああああああ!!!!!!!」

 

マリンクリスタルが ピピピピピピピピピピピピピピピ と金切り声を発する。

点滅が激しくなる。

吹き出しが弱まると,クロサキは強く握り返す。

 バシッッッッッ!!!!

再びファイターキラー粒子発射!

「うをををををををををををををををっ!!!!!!」

またも吹き出す白濁液。

それが弱まると,みたびクロサキは握る。

「ぐをっっっっっ・・・・・がはあああああああああ!!」

・・・・・

 

「・・・がはっ・・・・・・・」

三度の連続放出で,視界がかすむ。意識が薄らぐ。

強烈な脱力感に襲われる。

「ふっふっふ・・・あと何度もつかな,アクアファイター・・」

「うう・・・うっ・・うう・・・くっ・・くそう・・」

「4度目・・・・くらえぇぇぇぇぇええええええええっ それっ!!!」

「うっ!・・・うううううううう・・・くうううううううううう・・・・

 ああっ あうっ!」

「いくらこらえようとしても無駄だ。今のおまえにはもはや耐えられん。

 必殺技を封じられ,全身の筋肉は既にずたずたに破壊された。

 そして,頼みのバトル競パンも機能を失った。

 そんなおまえにはな・・・

 こんな低レベルのキラー粒子でも・・・・・くくくく・・・どうだっ!!!」

「うううううううう・・・・ふわああああああああ・・・

 うをををををををををををををっっっっっ・・あぁ・・・・

 あはぁッ!!!」

大量のエナジー液がどぼどぼ どぼどぼ としたたり落ちる。

全身の筋肉が何度も何度も痙攣する。

「・・ああ・・・・あああああ・・・・と・・・とまら・・・ない・・・・

 ・・・と・・とめられない・・・・

 お・・・おうぅ・・・・・だっ・・・・だめ・・・なの・・・か・・・

 お・・・おれは・・・・・お・・・・・れ・・・・は・・・・・・」

 

 

9回目のエネルギー放出が終わったときだった。

げっそりとやつれたヒロユキの表情は凍り付き,

ごく浅い呼吸を不規則に繰り返すだけになっていた。

 

そして・・・

ピピピピピピピピ・・ピピッ・・・ピッ・・・ピピッ・・・ピィ・・ピコン・・・

ピコッ・・・

ピコッ・・・・ピッ

 

マリンクリスタルの光が・・・・消えた。

 

 

アクアファイターの身体が大きく3度 びくびくっ と震えた。

なかば閉じていた左右の目がかっと開いた。

右手が,ワイヤーを引きちぎらんばかりに伸び,何かをつかもうとする動きをした。

口がわなわなと動いたが,声は聞き取れなかった。

あちこちが破れた競パンに包まれたたくましい腰が激しく痙攣した。

白い液体が一筋ほとばしり出た。

 

そこまでだった。

 

 

 

 

 

完全な静寂の時がしばらく流れたあと,機械的音声が室内に流れてきた。

 

【セイタイハンノウ ショウメツ】

【コキュウスウ シンパクスウ ケツアツ ノウハ  ゼロ】

【コキュウスウ シンパクスウ ケツアツ ノウハ  ゼロ】

【コキュウスウ シンパクスウ ケツアツ ノウハ  ゼロ】

【ドウコウ カクダイ・・・・・】

 

 

クロサキは握りしめていた右手をゆっくり開いた。

空中の純白の競パンの若者は,目を見開いたまま大の字の姿で硬直し,

ぴくりとも動かない。

と,マッスルデストロイヤーがその身体から抜け始めた。

あれだけファイターを苦しめ続けた百本以上の特殊金属ワイヤーが,

あっけなくするすると抜け,天井や床に収納されていく。

先にワイヤーが抜けた左腕がだらんと下がる。

右手は高く吊り上げられたままだ。

首筋に食い込んでいたワイヤーが抜けると,頭ががくりと前に崩れた。

こわれた操り人形のような姿をさらす,敗北の戦士。

 

身体を吊っていた最後のマッスルデストロイヤーが抜け,ヒロユキは床に落下した。

右のショルダーガードがぱっくりと割れ,がっしりした肩がむき出しになる。

左右のパワーリストバンドが切れた。

つっぷしたヒロユキの顔が,床上の体液にまみれる。

目をあけたままの横顔は美しく,そして凄絶だった。

 

アクアファイター=ヒロユキ,その完全なる敗北であった。

 

 

 

「くっくっく・・・

 お前の見事なこの身体,中央棟・時計台のさらしものとさせてもらおう。

 ヒーローの無惨な姿こそ,私の世界支配の始まりにふさわしい。

 ふふふふふふ・・・・

 ふははははははははははははははは・・・」

 

闇のプロフェッサーは動かないファイターの身体を満足げにいつまでも眺めていた。