〜 第6話 〜

 

------  8月22日 10:00  ----------------------------

 

僕が去った後の教室に健次郎と森田達は残っていた。

 

 兼末「おいおい。お前ら。プリンにいったい何をした?。

    注意しただろ。あいつはプリンなんだよ。壊れやすいんだ。

    壊さないようにジワジワいたぶってやらないと

    簡単にぶっ壊れてしまうんだよ!」    

 

 森田「別に俺たちは。なぁ」

 

 三宅「うん。ただパンツを穿いてないのかって問い詰めただけだけど」

 

 兼末「ふーん。だったら仕方ないな。

    しっかしなぁ。それだけで逃げ出されたらこっちも困るよな」

 

 森田「困るのはこっちだよ。お前たしか言ってたよな。

    プリンを言いなりにできるって」

 

 兼末「それはやり方によるさ」

 

 森田「そういうのを詭弁っていうんじゃないのか」

 

 兼末「何か不満そうだな。イヤならこの話から降りても良いんだぞ」

 

 岡田「まぁまぁ。森田もイヤとか不満とかじゃないんだ。

    あのプライドの塊のようなプリンがノーパンだったのは事実だし

    その点で兼末がプリンの弱みを握っているって話は本当だと思うよ。

    でも釣り落とした魚は大きいっていうじゃない」

 

 三宅「そうそう。俺たちだって暑い最中にここまで来てるんだから」

 

 兼末「そうだな。確かに無駄足になった責任は俺にもある。

    分かった!。埋め合わせはしてやるよ」

 

 

------  8月22日 18:00  ----------------------------

 

僕が家に戻って数時間が過ぎていた。家に戻ったのがいつ頃だったのかも分からない。

頭の中で整理しなければならない事が多過ぎた。

長野の引退試合を企画する事で僕は許されるのだろうか?。

思いついた時は名案だと思ったものの僕が今日

逃げ出した事をXがどう評価するか分からない。

健次郎をスケープゴートにする話はうまくいくのだろうか?。

 

 

------  8月22日 18:30  ----------------------------

 

僕はパソコンを起動させ今日何度目かのメールチェックをした。

来た!。Xからだ。

 

 君のメール。読ませてもらったよ。

 それにしても兼末君も酷い男だね。

 君をそそのかしておいきながら君が後輩の前で

 恥ずかしい想いをしているのを見に来るんだから。

 明日9時。今度は兼末君にノーパンで登校するよう命じておいた。

 君には彼に罰を与える事を命じる。

 森田君達も来るはずだ。

 同級生の前で君が味わった屈辱を何倍にもして返してやるんだね。

 

メールはそれだけで終わっていた。今日の事には何も触れていないが

何があったか知らないわけではなさそうだ。

という事は僕は許されたという事か。

僕は思いを巡らせた。

 

 

------  8月22日 19:00  ----------------------------

 

僕は電話の受話器を取った。

Xのメールによれば健次郎にもメールしているはずだ。

健次郎の反応を確かめたい。

 

   僕「あっ。もしもし。健次郎か?」

 

 兼末「えぇ。兄さんですね」

 

   僕「Xからメールが来たんだが」

 

 兼末「はい。僕のところにも届きましたよ」

 

   僕「でっ。それでどうするつもりなんだ」

 

 兼末「行くしかないでしょ。バレたんだったら」

 

僕は健次郎の言葉に正直ほっとした。何せ自分は途中で逃げ出したんだ。

嫌と言われたら説得に困る。

 

 兼末「まぁ。兄さんも我慢したんだし僕も頑張りますよ」

 

健次郎の言葉は僕をさらに安心させた。

健次郎が“僕はやるべき事はやった”と解釈しているからだ。

“そうなんだ。僕はやるべき事はやったんだ”

僕は受話器を握りしめて自分に言い聞かせた。

 

 兼末「あっ。それからね。兄さん」

 

   僕「えっ?」

 

 兼末「明日の事だけど。Xは兄さんに僕の罰を決めろと言ってるでしょ」

 

忘れていた。自分の事しか考えていなかった。

 

 兼末「森田達の好きにやらせれば良いですよ」

 

   僕「えっ。それで良いのか?」

 

 兼末「ええ。まぁ多少の事はあるとしても無茶はやらないでしょう」

 

   僕「そ。そうか。分かった。

    無茶な事はさせないから安心しろ」

 

自分の言葉に自信はなかった。

むしろ健次郎をスケープゴートにできたという安堵感が

僕の心に満ちていた。