〜 第3話 〜

 

------  8月22日 06:00  ----------------------------

 

いよいよノーパン登校の朝が来た。いや僕的には来てしまったという気分だ。

しかももっと遅い時間でも良かったのに緊張の為かこんな時間に目が覚めてしまう。 

もう少し寝ている気にもなれずカーテンを開ける。嫌味なほど空が青かった。

 

僕はまずパソコンに向かった。きのうXに送ったメールの返事を期待したのだ。

しかし返事はなかった。少しむかついた。

 

今度は健次郎に電話をしてみようと携帯に手を伸ばす。でもやめた。

弱い自分を見せたくなかった。いやXからメールが来て以来からというもの

健次郎には随分自分の弱さを見せている。今さらとも思うけどこれ以上は

弱さを見せたくないと思った。

 

 

------  8月22日 06:30  ----------------------------

 

トーストをかじりながら着替えをした。サッカーパンツは昨日と同じプーマの青。

その方が安心だった。もちろんノーパンだ。この状態に早く慣れておきたかった。

 

TVを見ながら時間を過ごす。最初ノーパンである事もあまり気にはならなかった。

しかし時計の針が進むに連れて段々と意識してしまうようになる。

そりゃそうだ。問題なのはノーパンでTVを見る事ではない。ノーパンで登校し

それを人前に曝さねばならない事なんだ。

 

時間は砂時計のように過ぎていった。最初はゆっくりと。そして次第に早く。

そして僕は苛立っていった。

 

 

------  8月22日 08:20  ----------------------------

 

僕は家を出た。僕のマンションから学校までは自転車で10分ほど。

約束の9時には早いが待つ事に疲れたのだ。

 

 

------  8月22日 08:30  ----------------------------

 

学校に着いた。自転車置き場に向かうとすでに何台かの自転車があった。

どこかの部活だろう。とにかく他に人が来ている事は確かだ。

僕は自転車を置くと逃げるように自分の教室に向かった。

 

教室に入るとホッとした。とにかくここにいれば9時までは安心だ。

もちろんXからの招待を受けた連中が9時までは来ないという保証もなかったし

部活で他のクラスメートが入ってくる可能性もある。しかし今の僕にはそういった

冷静な状況判断はできなかった。

 

 

------  8月22日 08:45  ----------------------------

 

僕は教室の窓から外を眺めていた。何人かの生徒が登校してきたが

1年生か他のクラスのものだ。それもほぼ一様に運動部のクラブハウスの方に

向かっていく。

 

ガラッ。

急に教室のドアが開いた。もう来たのかと思うと信太宏文だった。僕と同じクラスで

バスケット部に所属している。ひょうきんな性格と関西弁でクラスの人気者だが

僕に言わせれば口のうまさで頭の悪さをカバーしているような奴だ。

 

 信太「あれっ?。サッカー部も今日から練習か?」

 

   僕「あっ。いや。まぁな」

 

僕は適当にごまかしながら時計に目をやった。もうすぐ9時だ。森田達が来た時に

信太も教室にいたらどうなるのだろう。或いは信太の存在を気にして

滅多な事はしないかも知れない。だが一方では信太にまでノーパンである事が

ばれてしまうのが心配だ。口から生まれたような奴だけにどんな事になるか

分かったものではない。

 

 信太「サッカー部はどうか知らんけどウチの1年はあかんわ。普通9時集合いうたら

    1年はそれまでに来て準備しとくモンやろ。それがさっき見に行ったら

    半分もおらへん。その半分もポワ〜ンとしとって着替えただけで

    井戸端会議やっとる。さっき怒鳴ってきたとこや」

 

バスケのユニフォームにバッシュを履いたまま信太は捲し立てた。バスケットパンツから

スパッツがのぞいている。僕はノーパンなだけに羨ましかった。

 

   僕「イヤ。ウチも似たり寄ったりだよ」

 

校門に三宅と岡田の姿が見えた。

 

   僕「そろそろ1年も集まる頃じゃないのか」

 

やはり信太にはいて欲しくないと思った。

 

 信太「まだやろ。『集まったら呼びに来い』言うてきたから」

 

   僕「でもなぁ。体育館で待っていた方が『待っていた』という事を

    印象づける意味で効果があるんじゃないかなぁ」

 

 信太「それが分かる連中やろか」

 

  僕「そりゃそうさ。だって」

 

僕が言いかけた時ドアが開いた。その音に一瞬ギクッとしてしまう。三宅と岡田が現れた。

2人も信太がいる事に驚いた様子だ。僕に「おはようございます」と挨拶したが

何かぎこちない。

 

 信太「何や。ミーティングか?」

 

   僕「あっ。あぁ」

 

答える僕もぎこちなかった。だが信太にもバスケの練習がある。腰を上げると

教室を出て行った。

 

   僕「何しに来たんだ」

 

 三宅「ミーティングでしょ。今そう言いましたよね」

 

いつもの三宅ならこんな口の利き方はしない。せいぜい森田の陰に隠れて人の悪口を

言うのが関の山だ。

 

 岡田「もしキャプテンのお邪魔になるんでしたら出ていきますよ。

    出て行けと言われるのなら」

 

僕は心の中で舌打ちした。Xからのメールでは僕はノーパンで教室にいれば良いという

話になっている。厳密に言えばここで2人を追い出しても構わないはずだ。

しかしそうした時にXが次に何を言ってくるのかが気になる。

 

   僕「勝手にしろ」

 

僕はそう言うと2人に背を向けて窓の外を眺めた。時計を見るとまだ9時5分にしか

なっていなかった。

 

 

------  8月22日 09:10  ----------------------------

 

それからしばらくは沈黙が続いた。いや沈黙していたのは僕だけで2人は何やら

小声で話をしていたが声が小さく聞き取れない。2人の話はやたら気になったが

振り向いて問い質す気にもなれなかった。連中の方を向けば当然チンポもそちらを向く。

ノーパンとはいえサッカーパンツを穿いているのだがやはり怖い。

 

しかし2人の話しぶりから察するに連中も少し緊張しているのが分かる。

森田がいないからだろう。所詮は森田の陰に隠れてしか何もできない連中だ。

今はその頼りなさが有り難いのだが。

 

 

------  8月22日 09:15  ----------------------------

 

ガタッ。机か椅子を動かすような音がした。僕が顔だけそちらの方を向くと

僕の隣に岡田が歩み寄ってきた。とっさに逆を向くとそちらには三宅がいた。

僕は二人に挟まれた格好だ。

 

   僕「なっ。何だよ」

 

 岡田「いえねぇ。さっきから何を見てるのかなぁって思いまして」

 

 三宅「そうそう。僕らもご一緒させてもらおうかと」

 

そう言いながらも2人は外の景色など眺めるつもりはなかった。連中が見たかったのは

ノーパンでサッカーパンツを穿いた僕の股間だ。今度は僕が緊張する番だった。

2人の視線が気になるのは正直なところだ。少し勃起し始めているのが分かる。

確かめたい気もする。だがそれもまたためらわれた。

 

ふと信太の顔が頭に浮かんだ。信太がいたら2人はこんな態度を取る事はなかったろう。

バスケ部の1年は来たのだろうか?。ここに戻ってくる事はないのだろうか?。

いや今もし信太が戻ってきたらどうだろう。2人はたしかに席に戻るかも知れない。

しかしその前に信太は今の状態を目にするはずだ。後輩2人に両側から挟まれ

ノーパンの股間を曝している僕の姿を。それは僕には耐え難い屈辱だ。

でも。。。

その時だ。僕の心に今までの僕からは考えられない想いが起きた。後輩に視線で

いたぶられる僕の姿を見られたいと。

 

 

------  8月22日 09:25  ----------------------------

 

校門に森田が姿を現した。岡田や三宅など所詮は小悪党だ。たぶん今日も森田が行くと

言わなければ2人がここに来ることもなかったろう。そんな連中でも森田という後ろ盾が

いればエスカレートした事をしでかすかも知れない。

僕は99%の不安とそして1%の期待を感じ始めていた。