愛しいエース  

 

1・1・1 序

第8話

 

 自分を2度も助け、光の国に逃げられる可能性さえある装置の取り外しにも

協力してくれたサトシ。

 しかし、これで心置きなく逃げられてしまう・・・

複雑な思いを胸に暗い表情を浮かべる地球の青年。

 それを察したエースは無言のまま立ち上がり、壁にあった十字架の

「牽引」のボタンを押した。
 
ビィィィィィィィ・・・・ガシャン・・・シュルルルルル

サトシ:・・・?!・・・・エース?

エース:さぁ・・・約束どおり・・・戻ってきた・・・・・

サトシ:な、何を言ってるの?・・・・・

エース:君は最初、私の命を掌握していた・・・

    そして、私を欲しいとも言っていた・・・


サトシ:・・・う、うん・・・・

エース:正直なところ、私にはその意味がわからなかった・・・

     今でもわかっていないのかもしれない・・・・


サトシ:・・・・・・・・・・

エース:しかし、君にとっては千載一遇のチャンスだったにも関わらず、

     私の呼びかけに応じて私を解放してくれたね


サトシ:だ、だって・・・それは・・・・

エース:君がやる気になれば永久に「DOLL」のままにして死ぬまで私を所有できた・・

     もちろん、殺すことも・・・・

サトシ:ま、まぁね・・・・

エース:そして、君のおかげでヤプールを倒すことが出来た・・・

     本当に感謝している


サトシ:い、いや・・・そんなこと・・・・

エース:そして死にかけた私を助け、介抱してくれたのも君だ!サトシ

サトシ:だって、大好きなエースが目の前で死に掛けていたら誰だって助けるだろう?

エース:でも、私が逃げるかもしれないのを考えれば、十字架に磔にしておいてもよかった・・

     なのに、私の凍えた体を温めてくれたじゃないか?


サトシ:・・・・・・・・

エース:もしも、ここで私がこのまま光の国に戻ったらサトシは

     どういう気持ちかお風呂で考えたんだ・・・・想像も出来なかった・・・


サトシ:・・・・エース・・・・・

エース:自分の欲望を抑え、私を2度も助けてくれたのに、

     その私が裏切るのだから・・・・そこで考えたんだ・・・・

サトシ:・・・・・?

エース:弱ってはいないし、凍りついてもいない。

     だけど、君の前でもとの姿に、十字架に磔になった状態で君の望みを叶えて

     初めて約束を守ったと言えるとね


サトシ:・・・・

エース:何より、2度も命を救ってくれた君にお礼をする意味も込めて、

     今、私は磔になっているんだ・・・サトシ


 エースの気持ちを聞き、床を見つめ考え込むサトシ。

 悩んでいるサトシを優しい表情で十字架の上から見守るエース。

 しばらくした後、サトシが意を決してエースを見つめ口を開いた。

サトシ:・・・エースの気持ちは嬉しいよ・・・・

     でも、きっと僕が君を、その・・・好き放題にしたら・・・

     逃げたくなるよ・・・絶対に・・・・


エース:・・・サトシ・・・・

サトシ:それに、エースだって、もう帰りたいでしょ?光の国に

エース:・・・あ、あぁ・・・でも、このまま帰ってもサトシのことが

     気になってしまう・・・・・・

 二人の間に重たい沈黙が満たされた・・・。

 今度はサトシに続いてエースが意を決して口を開いた。

エース:わかった、サトシ・・・じゃあ、私が君のもとから逃げない・・・

     君がいいというまでここにいる証拠を見せるから、

     一度、ここから下ろしてくれ・・・


サトシ:・・・?・・・・証拠?・・・・う、うん・・・わかった・・・

 サトシはエースの言う「証拠」が何をさすのかわからなかったが、

エースを十字架から下ろすために「解放」のボタンを押すことにした。