アバレッド陵辱(2)

 

「それじゃあ、始めようか」

 スーツの男が指をパチンと鳴らすと、柱の影から誘拐されたテレビ局の

スタッフ達がぞろぞろと出てきた。首にはブヨブヨとうねる透明な首輪が

はめられていて、彼らの目は、焦点が定まらず、どこか遠くを見ている。

 スーツの男が両手を空に高く突き出すと、体が光に包まれ、ごつごつと

した体のトリノイドに変身した。

「爆竜チェンジ!」

 凌駕がポーズをとると、アバレッドに変身する。

「カメラを回せ」

 抑揚のない口調で髭を生やしたディレクターが指示を出すと、カメラマ

ンがカメラを構え、録画の赤いランプが点滅を始める。

 早く助けなきゃ・・・。アバレッドはホルスターに手をかけ、アバレイ

ザーをトリノイドに向けて引き金を搾った。レーザーが何発も、トリノイ

ドに命中する。レーザーはトリノイドの体に吸い込まれるように消えてい

くのである。

「なに!?」

 驚いて攻撃をやめた隙をついて、トリノイドは体に吸収したレーザーを、

アバレッドに向けて一斉に放った。いきなり攻撃されて避ける事も出来ず、

アバレッドは自分が撃ったレーザーをまともに食らい、

「うわああぁぁッ!」

 と火花を散らして吹っ飛んでしまった。

「今までとは一味も二味も違う事はこれから分かっていくだろう。どん

な逆境にたたされても必ず勝利を収めていたお前達も、これでお終いだ」

「な・・・にっ・・・」

「今までの出来損ないとは違うと言う事だよ。一種の突然変異のような

ものだ」

「クソッ!」

 アバレッドが再び何発もレーザーを放つが、やはりトリノイドに返さ

れてしまった。アバレッドは地面を転がってレーザーをかわすと、今度

はアバレイザーを剣に変えて、トリノイドに斬りかかった。

 雄叫びを上げてトリノイドの体をまっぷたつに切り裂くと、バシャッ

とアバレッドの足元に水たまりが出来たのである。

「無駄だ」

 その水たまりがふくれあがって、再びトリノイドの姿になる。

「全ての攻撃は通用しない。私の存在は無限だからだ。水があればどこ

にでも現れお前を追いつめる」

 トリノイドは不敵に笑い、ゆっくりとアバレッドに歩み寄っていく。

「勝ち目はない」

 トリノイドは剣を抜き、アバレッドを十字に切り裂く。スーツが火花

を散らし、アバレッドが地面に崩れ落ちる。

「来い!」

 アバレッドの顔を蹴って吹き飛ばした。すぐにアバレッドが立ち上がっ

て、間合いを取る。

 どうすりゃいいんだ・・・。こいつを倒すにはどうしたら・・・。

「どうした? 怖くて動けないのか?」

 アバレッドが剣を構え、地面を蹴ってジャンプする。振り下ろした剣

がトリノイドの頭を切り裂くと、今度は水に戻らず、そのまま剣を受け

止めてしまったのである。

 トリノイドはアバレッドの脇腹を殴って振り払うと、自分の頭に突き

刺さった剣を引き抜いた。

「記憶力はニワトリ並みだな。面白くない。特技を見せてやろう」

 トリノイドがそう言うと、細胞が分裂する時のように体に切れ目が入

り、自分と同じコピーを二体生み出したのである。

「次は私の番だ!」

 三体のトリノイドが、驚いて動けないアバレッドに襲いかかる。

 本体が剣を振り下ろし、アバレッドのスーツが火花を散らす。

「ぐああぁッ!」

 もう一体がアバレッドの背中を斬った。

「ぐはッ!」

 最後の一体が脇腹を蹴り、アバレッドの胸をグリグリと踏みつけた。

「うがああ!」

 アバレッドも反撃するのだが、分裂した二体もやはり攻撃が効かず、

撃たれ、斬られ、殴られ、蹴られ、アバレッドはいいように弄ばれて

いる。

「うっ・・・がはッ!」

 三体の攻撃が一度にヒットして、アバレッドはその場に崩れた。

 立ち上がろうとしても腕に力が入らない。

「立ちたいのか?」

 本体がアバレッドの頭を掴み無理矢理立たせると、三体が口を開け

た。すると、誘拐された人たちの首に巻き付いていたブヨブヨの液体

が吐き出され、アバレッドの体を包み込む。

 三体が両手を上に挙げると、液体に包まれもがくアバレッドが空へ

と上っていく。

「死ね!」

 三体が両手を広げると、液体がカッと光って、辺り一面を真っ白に

染め上げる。

「うああああああああああああああああああッ!」

 アバレッドのスーツの至る所が爆発し、やがてその液体自体がドン

と腹に響く轟音を上げて爆発したのである。

 燃えさかる火球と白煙の中からアバレッドが放り出され、地面に落

ちた。

「うっ・・・がっ・・・ぁ・・・」

「戻れ」

 本体が言うと、他の二体が液体に戻って吸収される。

「さて、そろそろ私の体に傷を付けてくれないか? 一方的じゃ面白

くないだろう?」

「くっ・・・」

 何とか立ち上がったアバレッドは、ふらふらとよろけながらトリノ

イドに殴りかかる。ふらつく足で殴りかかっても当たるわけがない。

全ての攻撃をかわされ、トリノイドのキツイパンチが、アバレッドの

みぞおちにめり込んだ。

「うあッ!」

「パンチはこうやるもんだ」

 トリノイドはアバレッドのあごを殴り、突き出された腹に何発もパ

ンチを叩き込む。

「ぐッ! がぁっ! うがああッ! ぐがああぁッ!」

 最後の一発が決められると、衝撃に耐えられなくなったスーツが爆

発した。

「ぐほっ・・・」

 アバレッドが腹を押さえて膝をつくと、トリノイドは満足そうに笑

い、こう言った。

「まだ傷も付けられないのか・・・。それならお前を有利にしてやろ

う」

 そう言って、トリノイドは再びさっきの液体を吹き付けアバレッド

を包み込んだ。

 ダメだ・・・、これ以上はもたない・・・。

 アバレッドがぎゅっと目を瞑る。だが、爆発は起きなかった。

 かわりに、液体が動き出して、五つに分裂すると、それがアバレッ

ドに変身したのである。

「これは・・・!?」

「お前一人で立ち向かえないようだからサービスしてやったんだ」

「大丈夫ですか?」

「ほら、立ってください」

 分裂したアバレッドが立ち上がらせる。

「さあ、続けよう!」

 と、トリノイドが手を広げた瞬間だった。分裂したアバレッドが、

アバレイザーを構えると、トリノイドではなく、アバレッドのヘル

メットにそれを突きつけてレーザーを撃ち込んだのである。

 アバレッドのヘルメットが爆発して、醜い悲鳴を上げて地面を転

げ回る。

「申し訳ない。欠陥品だった」

「ぐはああぁッ!」

 トリノイドではなく、自分自身の分身が、アバレッドを襲う。剣

で斬りつけレーザーを撃ち込み、トリノイドよりも酷い攻撃を繰り

返したのだ。

「ティラノロッド!」

 偽アバレッドが棍棒を突き出してアバレッドを捕らえると、電流

を放つ。

「うああああッ!」

 偽アバレッド五人がアバレッドを取り囲み、ティラノロッドを地

面に突き立て、

「ティラノハリケーンアタック!」

 と叫び、ロッドを軸にアバレッドに激しい回し蹴りを食らわせる。

「ぐはあああぁッ」

「サークルムーン!」

「ぐがあああああああああああああああああああッ!」

 トリノイドが指を鳴らし、偽アバレッドが液体に戻ると、

「ぐはッ・・・ぐああッ・・・うあッ・・・がああッ!」

 ボロボロになったスーツが火花を散らし、アバレッドが倒れる。

 トリノイドがアバレッドを覗き込むと、

「・・・ガブッ・・・」

 と、ヘルメットの中で何かの液体を吐き出した。

「自分の技で倒されるのもなかなか味わえない体験だろう? 悪気

はなかった許してくれ」

 トリノイドは、アバレッドの顔を踏みつけた。

「これで終わったと思うなよ。我が同胞の痛みを存分に味わっても

らわねばならん」

「・・・える・・・」

「何?」

「耐えて・・・やる・・・」

「ほう」

 トリノイドが嬉しそうな声を上げた。

「負け・・・ない!」

「いい言葉だ。せいぜい頑張ってくれよ。いい事を教えてやる。こ

こは現実の世界とはまったく違う異次元のような場所だ。一度変身

したら解除は出来ない。つまり、死ぬ瞬間がほんの少し長引く」

 トリノイドはアバレッドの首を鷲掴んで、体を持ち上げた。

 アバレッドのスーツはいつどうなってもおかしくない状況である。

土に汚れ、色んな攻撃を受けてスーツが裂け、体中にレーザーの焦

げ跡がついている。陽の光に顔を照らすと、バイザーを、血なのか

胃液なのか分からない液体が、ツーと滴っていく。

「バーミア兵の新型銃の実験台を探していたんだ。協力してもらお

う」

 トリノイドが言い終わらないうちに、磔台がセットされ、一部始

終を撮影していたスタッフ達がその前に陣取る。

 バーミア兵がアバレッドを引きずって磔にすると、今度はスタッ

フの後ろに大きな踏み台を並べ、不気味な形のライフルを構えたバー

ミア兵が、三十人くらい一列に整列した。

 赤黒く汚れたバイザー越しに、ライフルを構えたバーミア兵が見

える。いつもならブルーにイエロー、ブラックが助けてくれるはず

なのだが、一向に現れない。

 絶体絶命って、こう言う事を言うのかな・・・。体中の痛みに顔

をしかめながら、凌駕はボンヤリとバーミア兵を見やりつつ、そん

な事を考えていた。

「撃て!」

 トリノイドが号令をかけると、バーミア兵達のライフルが火を噴

いた。

 アバレッドの、頭、肩、腕、胸、腹、足首・・・。レーザーが着

弾するとスーツが火花を吹き、アバレッドの悲鳴が響き渡る。

 痛みはもう、ほとんど感じなくなっていた。ヘルメットの内側を

吐き散らした血で汚し、レーザーが当たるたびに体がはね回る。

「弾倉を交換しろ!」

 号令がかかりバーミア兵が新しい弾倉に交換する。そして再び号

令がかかって、アバレッドめがけて引き金を搾る。

 今度はレーザーではなく実弾だ。

「うぁぁああぁああぁぁぁああッ!」

 バーミア兵が全弾を撃ち尽くすと、アバレッドが体をエビのよう

に反らせる。

「あっ・・・あぁっ・・・」

 焼けるような痛みが胸に向かって集まってくる。そして、

「ぐああああッ! ぐはッ! ぐあぁッ!? うがああああッ!」

 胸のあたりが爆発を起こし、全身から火花が噴き出す。

 アバレッドのスーツが爆発して、悲鳴を上げて悶え苦しむ様をト

リノイドは満足そうに頷きながら見つめている。

 悲惨としか言いようがなかった。

 さらにスーツがボロボロになり、ヘルメットの一部が壊れ、血で

汚れた口元と、片方の目があらわになっている。その目は焦点を結

ばずキョロキョロと動き回り、体をビクビクと震わせ、聞き取れな

いほどの微かな悲鳴を上げていた。

 やがて頭が垂れ下がり、凌駕の頬が膨らんだかと思うと、

「ぐぶあぁッ・・・」

 と、大量の血の塊を吐き出し、白目を剥いてしまったのである。

 トリノイドは鼻を鳴らし、そばに控えていたバーミア兵に、

「あっちの世界にいる分身はどうしてる?」

 と聞くと、コソコソと耳打ちした。

「残りの三人を倒したか・・・。よし、分身に伝えろ。『引き上げ

ろ。最後の一人は私が引き受ける』とな」

 バーミア兵が走り去ると、トリノイドは笑みを浮かべ、気絶し

ているアバレッドに歩み寄った。

「これで痛みは充分だろう・・・」

 トリノイドは呟いて、アバレッドの股間に手を這わせた。

「次は恥辱だ・・・」

 と言い、拳を握りしめて股間を思い切り殴った。アバレッドの

体がピクンと動いたが気を取り戻す事はなく、微かに胸を上下さ

せている。

「カメラを止めろ。テープを貸せ」

「はい・・・」

 カメラマンはこの惨劇を記録したテープをトリノイドに手渡し

た。

「バーミア兵は整列しろ!」

 トリノイドが命令すると、わらわらとバーミア兵達が集まって

くる。

「日本中のテレビ局を占領してこれを放送しろ。こいつの仲間は

まだ生きている。これを見れば逆上して向かってくるだろう。そ

の時を見計らって一気にたたきつぶす! 計画はまだ進行中だ。

気を抜くな。抵抗する者は殺せ」

 トリノイドの高笑いが、太陽のない青空に、おぞましく響き渡っ

た・・・。