555悲話(9)

 

ここは南海の港町・ポートタウン。貿易港であると同時に、防衛軍の軍港でもある。

今、ポートタウンを目指して、各地を出発した防衛艦隊が集結しつつあった。

今はまだ3分の1ほどしか到着していないが、あと2・3日もすれば

主力艦隊も到着する。

そして、ポートタウンで補給を受けた後、慎也の秘密基地に出撃する事になっていた。

港では、補給艦への弾薬の積み込み作業が進められていたが、今は昼休み。

港はしばしの静けさを取り戻していた。

と、その時、補給艦が轟音をあげ、天を焦がすかのような炎に包まれた。

同時に、海上に巨大な戦闘ロボットが出現する。

キングジョー。かつて、ウルトラ警備隊によって神戸沖に沈んだ

ペダン星人のロボットだ。

頑丈な装甲はウルトラセブンの攻撃を跳ね返し、怪力でウルトラセブンを苦しめた。

頭部からは、破壊光線を出す。

その破壊光線は、ポートタウンでも威力を見せた。

突然の攻撃を受け、戦艦が次々に沈められていく。

反撃は散発的にしか見られない。

そんな攻撃では、キングジョーはびくともしなかった。

すぐに、破壊光線の餌食になっている。

慎也は司令室のテレビ画面を見ながら、奇襲攻撃の成功に満足していた。

すでに、港にいた艦隊の大半は、海底に沈むか業火に包まれている。

キングジョーは海岸に上陸すると、今度は弾薬倉庫を目掛けて破壊光線を発射する。

倉庫が次々に爆発していった。

が、突如キングジョーの前進が止まった。

「あっ。あれはミラーマン」

そう。ミラーマンが現れ、キングジョーを背後から羽交い締めにしたのだ。

「ふふふ。中古とはいえ、メンテナンスも新兵器の装備もしてあるんだ。

 ミラーマンには荷が重い相手だぞ」

慎也は自信満々で、戦いの様子を見ている。

 

慎也の自信を裏付けるように、キングジョーは軽く体をひねると、

ミラーマンを振り飛ばした。

倉庫群の中に倒れ込むミラーマン。すぐに起きあがるが、今度は破壊光線が発射される。

バリアで防ぐものの、しばらくすると、バリアはガラスが割れるように砕かれてしまう。

破壊光線を胸部に受け、仰向けに倒れるミラーマン。

キングジョーは前進して、ミラーマンを叩き伏せようとするが、動きが遅い。

元々スピードがないのが弱点だったが、メンテを施したとはいえ、

どこか錆が残っているのかも知れない。

「ミラーナイフ」「スライサーV」「スライサーH」

その隙に、立ち上がったミラーマン。

惜しげもなく必殺技を連発するが、キングジョーには全く通用しない。

逆にキングジョーのパンチを浴びる。

よろめくミラーマン。

さらにキングジョーはミラーマンに向けて手をかざすと、

手首から先が(マジンガーZのロケットパンチのように)飛び出した。

飛び出した手の部分にはワイヤーが付いてあり、ミラーマンの身体に巻き付いていく。

ちょうど、エレキングの尻尾に巻き付かれたウルトラセブンの状態だ。

ワイヤーに高電圧が流される。

「うぅっ。うわぁー」

苦しさに耐えかね、キングジョーの前に膝をつくミラーマン。

キングジョーがワイヤーを引き戻すと、ミラーマンは両手をついて倒れ込んだ。

キングジョーの攻撃は続く。

再びロケットパンチで発射されたワイヤーは、今度はミラーマンの首に巻き付いた。

ワイヤーを引き寄せるキングジョー。

縛り首状態のミラーマンが、無惨にも地面を引きずられていく。

 

「慎也様、大変です。キングジョーの電気系統にトラブル発生。

 破壊光線、使用不能です」

「ポートタウンに接近中の敵空母から、攻撃機多数が発艦した模様。

 ポートタウンに急速接近中です」

司令室にオペレータ戦闘員の声が響いた。

慎也の顔が一瞬にして曇る。

「キングジョーを引き上げさせろ」

破壊光線が使えなければ、キングジョーは空からの攻撃には無力なのだ。

「くっそー、所詮は中古品か。もう少しでミラーマンを絞首刑に出来たものを・・」

    

だが、悔しがっているのは慎也だけではなかった。

ここはポートタウンに向かいつつある、防衛艦隊の司令室である。

「艦載機から報告。キングジョーを取り逃がしました」

「ポートタウンから、被害状況の連絡がありました。

 ポートタウン駐留艦隊は、ほぼ全滅。他に武器弾薬の半数を破壊されたそうです」

艦隊司令官・木戸少将は、この報告に憮然とした。

「もたもたしているから、こんな様になるんだ。

 だから、先制攻撃すべきと言ったのに、何が話し合いだ!。モンドの奴め」

40代半ばの若さにして、防衛艦隊司令官に任命された木戸少将の

精悍な顔に怒りがこみ上げる。

 

「何が人命尊重だ!。人質に取られているのは555のメンバーだろう。

 だったら、君たちが責任を取りたまえ」

木戸少将は全速でポートタウンを目指し、ポートタウンに到着するや、

モンドを艦長室に呼び寄せ、怒りをぶちまけた。

「だから、話し合いをさせてくれと言っているんだ。

 慎也も応じると言っている」

「敵はすでに攻撃を仕掛けてきたんだぞ。今さら、何が話し合いだ。

 明日にはライトンR30も到着する。

 キングジョーなど恐るるに足らん。慎也の基地を叩き潰してくれる」

「慎也もバカじゃない。もっと強力な武器で迎え撃つはずだ」

「だったら、こっちも新兵器を考案してくれ。それが科学者の仕事だろ」

血を吐きながら走り続ける悲しいマラソンなど、私はごめんだ。

 科学は人殺しの道具ではないんだよ。

 ともかく、防衛軍司令部の許可も得ている。

 攻撃はしばらく待ってくれ」

「まぁ、いいだろう。ライトンR30も、明日にならないと到着しないからな。

 しかし、あさっての日の出とともに出撃する。猶予はそれまでだ」

木戸少将は“話は終わった”と言わんばかりに立ち上がった。

破壊された倉庫群を見る。

降りきる雨の中、崩れた倉庫の下敷きになった人の救出作業が続けられていた。

「見たまえ。君の安直なヒューマニズムが、こういう結果を生んだんだ。

 力を伴わない正義など、所詮は理想だ。砂上の楼閣(ろうかく)に過ぎない。

 理想は美しいよ。だが、一般市民を君の理想の犠牲にしても良いのかね。

 君の言う正義とは、そういうものだ」

 

木戸少将の見つめる先では、555の残る3人も加わって、救出作業が続く。

今、瓦礫(がれき)の下から、一人の男が運び出された。

物資の積み込み作業をしていた労働者の一人だろう。

薄汚れた作業服が、おびただしい出血で、赤黒く汚れている。

「しっかりしてください。大丈夫、助かりますから」

男を励ましながら、応急処置を施すマツリ。

だが、それが気休めに過ぎないのは分かっていた。

男の目は閉じかけていた。

が、急に男は目をかっと開いた。

見つめる先には、木戸少将の乗る戦艦がある。

最後の力を振り絞って、右手を戦艦に向かって突き出した。

「タ、タ・ケシ・・・バ・ロ・ムクロ・・・・」

男は聞き取れぬ叫び声を上げると、血を吐きながら力つきた。

だが男の顔には、何かに満足したような笑みが浮かんでいる。

「おい、マツリ。こっちに来てくれ。この人は、まだ助かるかも知れない」

マトイの声だ。マツリは心残りではあったが、今は助かる人を救わねばならない。

男に手を合わせると、声のした方に走り出した。

 

降りしきる雨が、男の作業服に付いた血を洗い流していく。

胸の名札は「白鳥」と読めた。

 

雨の中、忘れられたヒーローが世を去った。

「健太郎。仇(かたき)は俺が必ずとってやる」

戦艦の艦橋から、去りゆく友に敬礼する木戸猛少将。

雨はいつまでも降り続いていた。