555悲話(6)
トカゲ怪人のもとに連れて行かれたロビンの帰りを、
ショウは一人、奴隷小屋で待っていた。
奴隷小屋とは、奴隷の為にあてがわれている住居で、
板張りのベットがあるだけで、他には何もない小さな小屋だ。
しばらくすると、足音が聞こえた。
“ロビンか?。いや、何人もいる”
やがて、小屋のドアが開き、戦闘員をともなった慎也が現れる。
「どうかね、ここの住み心地は?」
「ろ、ロビンは?!」
「んっ?。いけないねぇー、そういう態度は。質問しているのは僕なんだよ。
ま、ロビン君の場合は、いつもの事だから慣れているだろうがね。
もうすぐ元気に戻ってくるよ。死なない限り、再生光線で元の身体に戻せるから。
文字通りの“生かさず殺さず”だ。
ははは。我ながら、良い発明だと思うよ」
ショウは悔しさで唇を噛んだ。
ロビンが今もいたぶられている。
だが、今のショウには何もできない。
「ろ、ロビンを助けてやってもらえないでしょうか。代わりに僕を・・」
「ははは。さすがにヒーローだね。自己犠牲の精神、アッパレだよ。
だがね、ロビン君も君と同じ、ヒーローの端くれだ。
君の犠牲になる事に満足して、トカゲ怪人に犯されているんじゃないかな」
ロビンが奴隷小屋に戻ったのは、しばらくしての事だ。
「大丈夫なのか、ロビン」
「あぁ、悔しいが、あの再生光線のお陰だ」
「さっき、慎也様がお見えになった」
「慎也が?」
「えっ」
ショウはロビンが慎也を呼び捨てにした事に驚いた。
「あっ、いや。心配しないでくれ。
この小屋は盗聴されていないから。それに、鍵もかかってないだろ。
小屋の外には出れるけど、逃げ出す事は出来ない」
「そうやって、楽しんでいるワケか」
「うん。それともう一つ。
慎也は四六時中、俺達を奴隷扱いするんじゃなくて、“息抜き”をさせているんだ。
そして、次の朝には奴隷に戻らされる。そういう屈辱を与えているんだよ」
「ずる賢い奴だな」
だが、策士ほど策におぼれるものだ。
今は屈辱に耐え、チャンスを待つしかないと思うショウであった。
翌日。奴隷小屋に数人の戦闘員がやってきた。
「ショウ。お前、昨日、慎也様に失礼があったそうだな。
慎也様のご質問に、すぐに回答しなかったそうではないか」
「あっ、いや、それは・・」
「問答無用!。ロビンを連れていけ」
士官らしい戦闘員に命じられ、他の戦闘員が、ロビンの手をねじ伏せる。
ロビンはされるがまま、無抵抗で戦闘員に従った。
無抵抗・・。
それは、仲間が敵に引き立てられていくのを無言で見送ったショウも同じである。
一人、奴隷小屋に取り残されたショウは、言いようのない敗北感に襲われた。
ロビンが連れ出されて2時間が過ぎた。
ショウは小屋を出て、木の切り株に座り、じっと海を見ていた。
青い空を鳥が舞っている。
“あぁ。俺も鳥になりたい。
鳥になって、自由に空を飛び回りたい”
「おい。相棒が痛めつけられているというのに、
お前はのんびり日光浴か」
ショウの思考は、戦闘員によって停止させられた。
「あっ、はい。弱い人間は、仲間を助ける事もできませんから・・。
それで、ロビンは今・・?」
「おい。質問するのは俺で、奴隷は答えるだけだ。
だが、まぁいい。
お前も少しは身の程をわきまえたようだしな。
ロビンのところに連れて行ってやる。
俺についてこい」
ショウは戦闘員の後に続いて歩き出す。
連れて行かれたのは、司令部の屋上である。
ロビンは屋上に設置された十字架に磔にされ、灼熱の太陽の下、日干しにされていた。
すでに意識が朦朧としている。
その側では、パラソルで日陰を作った戦闘員が、鞭を持って監視していた。
「おっ。交代が来たな」
戦闘員は、ショウを手招きした。
「いいか。知っての通り、こいつは罰を受けている最中だ。
罰を受けている奴が、居眠りなどして、許されるはずがない。
そういう時は!」
戦闘員の手にした鞭が、ロビンの股間を襲った。
「ぎゃー」
ぐったりとしていたロビンが、戦闘員の鞭を受けて、我にかえる。
「こうして叩きのめしてやれ。
いいか。監視カメラで見ているからな。
鞭の手を緩めたりすると、いつまでもロビンは日干しのままだぞ」
戦闘員はそう言い残すと、ショウに鞭を渡して出ていった。
目の前には、磔にされているロビンがいる。
だが、自分はロビンを救う事が出来ないばかりか、
手にした鞭で、ロビンを痛めつけなければならない。
ショウの心に、自己嫌悪の気持ちが沸いてくる。
すでに、だいぶ弱っているのだろう。
ロビンがまた、ぐったりとし始める。
ショウは意を決して鞭を振るった。
ロビンの足に当たる。意識を取り戻すロビン。
だが、鞭が当たったのは足だ。
“監視カメラで見られているとすれば、戦闘員が難癖を付けてくるかも知れない。
どうすればいいんだ?!”
「チンポに鞭を!。僕のチンポを鞭打って下さい!」
ショウの心を察したかのように、ロビンが叫んだ。
「僕は、チンポを鞭打たれると感じるんです。お願いです。鞭を下さい」
かつて、バットマンとともに、悪と戦ったヒーローの悲痛な叫びだ。
“分かったよ。耐えてくれ、ロビン”
ショウは、心の中で叫びながら、ロビンのチンポに鞭を振るった。
その後も、怪人や戦闘員は、何かと言いがかりを付けては、ロビンをいたぶった。
「すまない、ロビン。何もできなくて」
二人だけになった時、ショウは奴隷小屋でロビンに話しかけた。
「いや、変な話だが、俺はもう慣れているから」
だが、言葉とは裏腹に、悪にいたぶられる正義のローには屈辱の表情が浮かぶ。
「だが、連中はどうして、俺を痛めつけようとはしないんだろう」
「痛めつけているさ。連中は俺の身体と、お前の心を痛めつけているんだ」
「そういう事か」
「慎也の考えそうな事だ」
ロビンは吐き捨てるように言った。
「だが、希望はある。
いいか、俺達がこの島から逃げ出せないのは、この首輪があるからだ。
この島にある発信機からの電波を受けていないと、この首輪が締まって、
俺達を絞め殺してしまう事になるからな。
たしかに、慎也もよく考えたものだが、あいつも自分の策に溺れたんだ」
「どういう事だ」
「俺達は奴隷の身だが、慎也は逃げ出せないと思って、
四六時中、監視しはいない。
俺は今まで、何度か島の端まで行ってみた。
たしかに、島の端まで行くと、電波が弱くなって、少し首輪が締まってくるんだ。
そして、どの辺りまで行くと締まり始めるのか、調べてみた。
その中心に、発信器があるはずだからな」
「で、分かったのか?」
「あぁ。灯台もと暗し、この小屋の床下にあった。
慎也らしい隠し場所だろ」
「えっ!」
「だから、この発信器ごと持ち出せば良いんだ。
結構、重量があるので、一人では無理だったが、二人なら何とかなる」
「それじゃ、次の輸送機が来た時に、脱走しよう」
ショウの心に、希望の灯がともったような気がした。